探偵殺しの謎
あの日の事は誰も教えてはくれない
それは
一年前の夕食の献立を
訪ねるものに似て
本当は理解っている
例えあの日の出来事を
今知っても時既に遅すぎるという事を
それは好奇心からではない
「達成目的
これから制限された項目と時間の中で鬼を探し当てる
制限、期間は最大1週間。
鬼を探し当てようと
挑戦される方々には
その権利を放棄する事を制限します。
これが守られない場合、
如何なる状況になろうと
保証されるものではありません。
鬼は自由に隠れたり嘘をいったり出来る。
ただし…鬼にしか適応されない
特別なルールもあります。
色々推理してみる事も暇潰し、或いは解決の糸口になるかと思います。
探す人間同士で相談や
協力してもいい。
ただし…鬼に情報が知られる可能性がある。
鬼を見つけ出せれば
必然的に鬼の敗北となり
身の安全は保証される。
それでは名推理に期待致します」
それは何度読み直しても同じ文面である。
「くそっ!
馬鹿にしやがって!」
何度読んでも同じ文字同じ内容。
もう何度読んだかわからない。
それはただの紙であり種も仕掛けもない。
しかし…その挑戦的な文面は、種も仕掛けもあったに違いない。
あの出来事の事を嘲笑っているようだ。
それが悔しくて憎くて何度も挑戦するが、事件の全容は全く理解らない。
そればかりか
時間が絶てば経つほど
人の記憶は風化していって
何か時間という名のベールに包まれるようで。
「………。」
それではいけないと
また…同じ紙切れと睨み合いをする。
それは…推理小説なので
使い古された弁舌だが
その汎用性は
もはや説明不要であり
いや…使い古されているからこそ犯人の意図を掴みづらい。
言ってしまえば
ヒントにならないヒントである。
「こんなもの送り付けるヤツの気が知れないな」
本気で思ったり
時に弱音や愚痴が混ざったりしたが
それでも根気よく挑む。
彼は警察関係ではない
一般的な家庭の主で
いや…今は一般的な家庭ではない。
あの事件に彼の家庭は滅茶苦茶にされたのだ。
だから…彼が推理に挑むのは好奇心からではない。
怨恨。更に言えば復讐だった。
娘をあんな風に変えた
人間がいるなら突き止めたい。
その人間が今も生きているというなら罪を償わせたい。
いや…詭弁だな。
この手で復讐したい
八つ裂きにしてやりたいと思っている。
そんな衝動を押さえてくれるのが嘲笑ってるような紙切れと解けない謎だった。
「こんな紙切れを送り付けるくらいだ 犯人との間に
こんな馬鹿げたやりとりがあったんだろ」
それは解る
そんな狂気染みた事に
家の娘は巻き込まれた。
それが…それが…
「どうして…
どうして助けを求めなかった」
その想像は難しくない
それは犯人のいう
「権利を放棄する事」になるのだろう。
賭け金は自分の命で
降りることができない賭けで逃げたら賭け金を奪われる。
なんて理不尽、悪平等
それでは犯人の言いなりじゃないか。
結局そうだったんだろうか
娘は生きている
生かされたという方が正しいのか
犯人に…
では犯人とは誰だ?
外部の人間か?
外部の人間が自分の愉快の為に そんな下らないゲームを始めたというのか?
じゃあ…内部の人間か?
それは娘の同級生か?
娘以外殺されてるんだぞ!!
「…っ!!」
今考えただろう
彼と同じ事を
彼はそれを認めたくなくて
頭を冷やすしかなかった。
「娘が犯人」
消去法で考えるなら
それが1番説得力がある推理。
何故なら
娘は健在なのだ五体満足で
彼はそれ自体を認めたくなくて仮想の犯人を作り現実逃避をしているわけじゃない。
確かに娘は健在だ
しかし…娘は心因性記憶喪失と大きなトラウマを抱えて今も生きている。
それは犯人であったからの演技では到底ありえない。
他人であり無関係である医者がわざわざ嘘を診断する理由がない。
信用を溝に捨てるモノ
信用のない医者ほど恐いものはない、だから医者は信用を守る。
娘は大学生で
娘の通う大学は
比較的に自由な校風で
そつなく平均的に勉強が出来ていれば
特に校則やレベルが
厳しい大学ではなかった
娘が一喜一憂しながらも
大学生活を送っている姿は
家の細やかな幸せの象徴の1つだった
そんな娘が思い出作りにと女友達と
ちょっとした旅行をするといっていた
まさか…この時に
こんな事件になるとは
思ってもいなかった彼は
概ね快く承諾
まぁ「気を付けて」ぐらいは
いったかもしれないが
それが解っていたら
旅行など行かせなかった
元気で明るかった娘は
もう返ってこない
それは奪われたのと同じだ
このイカれた犯人に
今…分かっても
今更解き明かしても遅いかもしれない
けれど
暖かな家庭を
再び取り戻す為には
その謎を解き明かなければ
前に進む事が出来なくなった
だから
彼は今日も謎に挑み続けるが
彼には決して謎は解けないだろう
あの日その時に
当事者であった娘と
被害者の同級生とでしか
事件の全容は知ることは出来ない
或いは推理小説のように
事のあらましを全て書いた上で
暇潰しの為に推理する
名探偵でなければ…




