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番外編 夢幻にて邂逅す

ちまちま書いてた番外編です。今後も思いついたらポツポツ追加するかも

 俺は夢を見ていた。


 そこは綺麗な湖の畔で、二人組の美男美女が誰かを待っているようだった。

 足元には柔らかそうな芝生が生えており、空からは太陽の光が穏やかに降っていた。行ったことはないが、ヨーロッパの地中海の辺りはこんな風に温暖なのだろうか。疎らに生えている木々は、少なくとも日本ではなさそうな植生だった。


 気がつけば自然と一歩を踏み出していた。

 ふと自身の姿を顧みると、もう魂にまで染み付いてしまった社畜根性故か、体にはスーツを纏い、革靴を履いて草を踏みしめている。

 足音に気づいてか、美女は幼げな表情で声を上げた。


 「っあ、忠さん! ラインハルト、忠さんが来ましたよ」


 「ああ。……おい、こいつ何だか夢でも窶れてないか? 大丈夫なのか?」


 「忠さんはいつもこんな感じですよ」


 ラインハルト、と呼ばれた美男子は木に背を預けながら、悲しき日本の社畜を訝しげに見つめた。美女の方は俺に駆け寄って、ぐいぐいと手を引いて湖に招く。


 「忠さん、いつも頑張ってますから、偶には休憩しないと。朝まで好きなだけ居てくれてもいいですよ。帰りたくなったら言ってください」


 「休憩……? いや、それより君たちは……」


 夢とはいえリアリティが強く、おずおずと遠慮気味に問うと、美女はその柳眉をそっと顰めて俺の頬を撫でた。……頬を撫でた? 突然のスキンシップに俺は動揺を隠せない。


 「なん……え? ……っえ、はい……?」


 「忠さん、何でそんなに他人行儀なんですか? 私ですよ、ミスズです。いつも頭を撫でてくれるじゃないですか!」


 あ、これ夢だわ。


 俺は謎のリアリティや、行ったこともないのにやけに精密な景色も全て投げさり、自身をミスズと名乗る美女をまじまじと見た。

 目の色は確かにミスズだし、服装の色合いもちょっとトカゲの色を意識して無くもない。うん、言われてみればミスズだな。


 「ミスズ……そっか、ミスズかぁ……」


 「そうですよ、忠さんのミスズですよ」


 「……あのさ。なら、ちょっと聞くぞ?」


 彼女がミスズだと言うのなら、俺は聞かねばならない。例えこれが夢だと分かっているとしても、どうしても聞かねばならないことがあるのだ。


 「はい、何でも聞いてください。私も忠さんとお喋りしたいです!」


 ふんわり笑う姿もミスズだと思えば可愛さ五億倍である。美人なことも相まって、俺は頭をミスズにするようにそろそろと撫でた。ミスズ(人)は嬉しそうだった。


 「どうしても、聞きたいことがあるんだ。ミスズ、お前居なくなってる間に――」


 何故かラインハルトが息を呑んで体を起こす。手を伸ばして、ミスズを制止しようとしているようだ。


 「待てミスズ、正直に言っては――」


 「――あの馬の骨のどの辺に惹かれたんだ?」


 ラインハルトは「何言ってんだこいつ」といった風に俺を愕然として見ているが、俺にとっては失踪よりも重要な問題だ。だって帰ってきてくれたのだから、もう何処にいたのかなんて気にしてない。

 勿論、脱走したくらいなのだから、現状に不満がある可能性も踏まえて、新しい馬の骨野郎も来たことだしと、水槽を買い替えてレイアウトもきちんと岩陰やら植物やらまで綿密に再構築した。


 ならば俺が気にすべきことはただ一つのみ。それは――つまり、あの馬の骨トカゲは、何処のトカゲかということだ。


 「あのトカゲは本当に大丈夫なのか? 俺も有給取って何日も観察したけど喧嘩は確かにしてなかった。でも、でも……っ、お、おれは、ウウッ、お、おではっ、ミスズが心配でぇ゛!!」


 考えてたら涙が出てきた。ケージを分けようとしたら普段は大人しいミスズがぺち、と俺の手を軽く叩いてくるのでどうしても出来なかったが、もしもあの二匹の相性が悪かったら、そうしたら最悪の場合ミスズは――うわああ考えたくもない!! そんなの無理だ!


 座り込んで滂沱の涙を流していると、ラインハルトは俺に近寄ってハンカチを渡してくる。イケメンのハンカチは清潔だった。


 「お、落ち着け。争ってはいないだろう? 食事の取り合いも無いのだから、大丈夫だろう」


 「そ、そうだけどぉ……も、もしストレスが……もしミスズにストレスが溜まってたら俺は……ッ!」


 考えるだけで涙が止まらない。美男美女コンビはおろおろと俺を宥め、慰め、大いに励ました。

 流石は夢の中と言ったところか、二人は俺にとても優しく接してくれた。


 「忠さん、落ち着きましたか?大丈夫ですか?」


 「大丈夫…………」


 「目が死んでるぞこいつ……おいしっかりしろ。明日も仕事なんだろう」


 「うん……」


 「これは駄目だな……」


 そういえば明日も仕事だった……。このよく分からん夢も朝が来て終われば忘れてしまうのだろうか。泣いたお陰か、ストレスがかなり発散されたので、惜しい気持ちが強い。その上、夢の住人とはいえ二人には迷惑をかけてしまったというちょっとした後ろめたさもあった。


 「慰めてくれて、ありがとう。明日も頑張るよ……。そうだ、朝起きたら忘れてるかもしれないけど、何かして欲しいこととかあるか?」


 次に夢を見た時にでもお礼をするよ、と続けようとした途端、据わった目でラインハルトが俺の肩を鷲掴んだ。


 「タダシ……俺は今の身の上を受け入れているつもりだ。ミスズと共に在れるのなら構わないと思う。何にも追われず、凍えることも飢え死ぬことも、孤独に狂いそうになることもない日々は、目新しい風景も相まって悪くは無いと思う」


 「お、おう……」


 「ただ、少しだけの我儘を聞いてくれ。俺もミスズも、お前の与えるものならちゃんと食べる。だから、せめて――」






 ピピッピピッ、と鳴る音に目を覚まし、アラームを止める。カーテンを開くと陽光が部屋に入り込み、一人と二匹暮らしの寂しい部屋を照らした。


 洗面所で顔を洗い、冷蔵庫に顔を突っ込み食事の用意をする。トーストを作り昼食の用意をして、それから――。


 習性的に、昼食の弁当作りの際に出た野菜クズを、ミスズ達の餌用のコオロギに与えた所で停止する。

 昨日の夢を覚えている。所詮夢だと笑うには、少しリアルすぎる夢。あれが本当にあったことなら……いやしかしなぁ。


 しかめっ面で、冷凍庫に常備してある餌を取り出し、解凍する。

 店で売られている既に死んだコオロギを手に、昨日の夢を思い出していた。


 『だから、せめて――生き餌だけは、勘弁してくれ』


 『私はどっちでもいいので、忠さん、どうかお願いします。ラインハルトは私の、その、好きな……トカゲ、なの、で』


 頬を赤く染めるミスズ(人間)を思い浮かべた瞬間に、卵焼きを弁当に詰めていた菜箸が折れた。

 ビークールだ俺……そもそもあれは夢、つまり俺の精神活動、ただの記憶整理だ。あんなに迷惑をかけたのだからと申し訳なく思う必要も無い。ただいつも通りコオロギを二匹に与えればいいだけ……のはず、だろう?


 「…………はぁ……」


 ミスズには生きた方を、馬の骨――改め、ラインハルトには死んだ方を。

 何故か今まで給餌の際には動きの鈍かったラインハルトがミスズと同じような早さで食事にありつく。俺はそれを見て、「まさかな〜」とか呟きながらその日も出勤した。のだが。


 俺はその日も夢を見た。


 それは美女に手を握られて擦り寄られる俺に向かって、美男子が惜しげもなく感謝の念を堪えた微笑みを浮かべて「ありがとう……ッ!」と言う。そんな夢だった。


何かこいつとの絡みが読みたいよーっていうのがあったら遠慮なく言ってください( ᐛ )و

時間と文章力とその時のモチベーションに左右されますが、折角望んでもらったのなら出来るだけ書きたいなーと思います

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