捕まる
ザクスは逃げていた。食料を採り終え帰路の途中で2度の襲撃。
1度目はザクスではなく、指示を聞かなかった者が狙われたのだろうなと思って見捨てたが、2度目はザクス自身を狙っている。
狙われる理由がないわけではなかったが、今日の行動で狙われるとは思っていなかった。どうしてこのタイミングなのかと泣きたくなってくる。ザクスは必死だった。
追跡してくるものの大きさは感じていたので空からだと思っていたが、非常に近くで気配を感じる。すでに追いつかれていた。ザクスは生き延びたいので諦めるつもりもないが追いつかれるのは当然かとも思っていた。いくら障害物が多いところで慣れていても基本の走力は低いので大きな魔物のスピードに勝る理由がない。それに空を飛ばれるとなれば競走なんてもってのほかだった。あとは、攻撃されるタイミングで避けられるかどうかだけである。
「万事休すかな。逃げ込めるところもないし」
弱音を吐いてみても足を止めることは無い。追いかけられているのでただ真っ直ぐには走らない。捕まりにくいように右へ行ったり左へ行ったりとジグザグしながら時には戻ってみたりと平原から林に入ることにより行動の多様性を見せてみた。
また、障害物をうまく利用して何とか撒けないかと試行錯誤してみたが、あまり意味がなかった。上から降りてくる足は木々の連なりなど気にせず襲い掛かる。簡単に太い木が薙ぎ倒される。
そして、薙ぎ倒される木々に巻き込まれることも回避する必要が出てくるようになるともうどうしたらいいのかわからず、ただ、避けるのみになってしまう。
ほぼ追いつかれているにもかかわらず捕まらずに走っている状況に多少の奇跡を感じる。しかし、これまでのザクスの経験からすると初手回避の能力は高いので、それほどおかしいことではなかった。
しかし、ザクスはそんなことより、生き残ることに必死で、何とか逃げ込めるところを探すのに必死になっている。探し物と言うのは必死に探すほどそして、広い範囲を一気に探すほど見つかりにくい。
この状態のザクスも同様に探しているものは見つからず、ただ、ひたすら走るのみだが、ほどなく魔物に抑え込まれる。
「ぐあっ!捕まった!離せ!!僕を食べても」
ザクスはもがく、しかししっかり大きな足で抑え込まれたザクスでは逃れることはできない。すると声が聞こえた。
「追いかけっこはここまでだ。いろいろ面白いものを見せてもらった。この箱庭から別の場所に移動しようか」
声をしたほうにザクスが顔を向けると見知らぬ者がいた。ただ人ではなかった。肌の色が紫で茶髪、目は結膜が黒く、角膜、瞳孔が銀だった。
「ま、魔族が僕に何の用ですか。……僕はあなたのことを知らないのですが……」
ザクスは抑え込まれたまま絞り出すように問いを投げかける。すると魔物に乗っていた魔族は答える。
「つれないな。ザクス君。君を救ったのは我だというのに」
「えっ!?」
「それに、こっちから話しかけてあげていたのにいつも無視してくれてこっちはホントに寂しかったぞ」
魔族はここ最近ザクスに話しかけていた声の主でもあった。
「でもまぁ、君が我の箱庭で3ヵ月近くも生き延びるとは思ってなかったぞ。引き籠るでもなく草原や林や森を自由に行き来できるとも思ってなかった。王国の偉そうな人間の射殺刑を邪魔した時の感情や表情を楽しむために連れ去っただけだった。あとは罪人の君がどんなむごたらしい死に方をするのか見たかったのだが、随分箱庭を楽しんでくれたようだな。かなり自由だったな。観察対象として見ていて面白かった」
ザクスは見られていると思っていたが、本当に観察されていたと聞いて少し気恥しい気持ちも感じたりした。
「特に君の力は興味深い研究したいな。魔物の近くを通らない方法とか、穴の中の決闘の時に使った謎の力とか。そのためにはザクス君。君にはこの箱庭から別の場所に移動してもらうとしようか」
ザクスは一方的に魔族に話されるままに連れ去られた。状況もいまいちわからないままこれまでいた場所を移動することになった。




