訪問者
「元、調合部隊の人たちですよね。どのような御用ですか?」
「あ、ザクス隊長。良かった。お戻りになられたのですね。隊を解散するとき、訪問してもよいとおっしゃられていたので。訪問してみたのですが。よろしかったでしょうか」
「あ、あぁ…。どうぞ、まずは入って、くつろいでください」
ザクスは丁寧に挨拶されて、どうしたものかと思いながらも、部屋へその3人を招き入れた。
「メイドも、執事も、お手伝いもいないもので、大したおもてなしもできませんが、こちらでも…」
と飲み物と、つまめるものを準備して、部屋に備え付けのテーブルに案内した。
「ごめんなさい、女性のお二人の顔は覚えていますが、名前は憶えておりません。また、男性の方は初めましてのような気がするのですが、間違っていますでしょうか」
ザクスは相手の姿勢に合わせて、丁寧に聞き返した。
二人の女性はお互いを見合ってからザクスに微笑みながら、次のように答えた。
「いえ、私たちも名乗っていませんので、名前を憶えていらっしゃらなくても、仕方がありませんわ。
私はジェイルステンダント大公の娘で、六女のネリア・カルース・ジェイルステンダントです」
と金色で肩までの長さの髪に緑眼で色白の女性が名前を名乗った。ザクスは、ネリアという女性を見ると、彼女は豊満な胸をしたザクスよりは少し背の低い女性だった。
「私は、フィリルローテン公爵の娘で、四女のクローディア・アリス・フィリルローテンと申します」
もう一人の女性は黒髪ロングで目はブラウンで、こちらも白い肌の女性で、女性らしい体つきをしているが、ネリアよりは胸はなく背は少し高い感じの女性だった。そして、ザクスは気付く。昨日、王が、報酬として提示した貴族の女性5人のうち2人が目の前にいる状態に…
「えっと、そちらの男性はどのような方なのですか?」
「私は、クロス・ブラム・ローレンガルド。ローレンガルド騎爵の長男で、ネリア様に仕え、護衛する騎士です。この度は、ネリア様が男性にお会いになられるとお聞きし、護衛と検分のためについてまいりました。しかし、特権持ちの方に会いに行かれるとは思っておりませんでしたし、この部屋の待遇は非常に恵まれているのですね」
「護衛って、そんな融通が利くのですか?」
「本日解散されましたが、それまではネリア様と同じ隊に所属していました。軍宿舎は違いましたが、護衛としての任を十分に果たせるように行動をしておりましたので問題はありません」
「そうなんですか。軍役になってもそんな護衛をしないといけないなんて大変ですね」
「そうですわ。私も大変だからもっと、気楽に考えて、護衛の役目なんて、軍施設内ではしなくてもいいと言ってるのにクロスは頑固で言っても聞いてくれないの」
とザクスとクロスの会話にネリアが割り込んできた。
「そういえば、ザクス隊長は魔物を持ち帰っては何やら研究をされているとのことでしたが、それってやっぱり薬の調合だったりします?」
「まあ、僕はもう隊長ではないのですが…一応、そこの奥の部屋が調合設備を整えた魔物解体室兼調合室になっていますが、見ていきますか?」
「それは素敵。クローディアさんご一緒にザクス…元隊長に魔物解体や調合についてもっと教えてもらいましょう?」
「そうですね。ザクス様の技術を見せてもらえるなんて私たちは本当に恵まれていますね」
「あの、貴族の皆様と違って、僕は一村人なので、様とか呼ばれるような人間ではないのですが、それに元隊長も嬉しくないです」
「そう言われても…隊長も様も元隊長もダメなら、どうしたら…では殿ではどうですか?」
「なら、それで…」
「ではザクス殿、よろしくお願いしますね」
「では、こちらの部屋に…」
と、ザクスは研究部屋に案内し、捕獲済みの魔物や、現在作成中の薬の調合の技術を見せ、説明し、時間が過ぎた。
「今日はここまでで帰ります。明日もまたお伺いしてもいいでしょうか?」
「いいですが、楽しいことはないでしょう?」
「いえ、大変勉強になりました。ザクス殿の素晴らしい研究技術に感動しました。これからもまたお伺いしてもよろしいですか?」
「かまいませんが、度々来るならば何もおもてなしできませんよ」
「クロスは騎士ですが、執事としても学んでいますので、彼に任せていただければ、そのような気遣い不要です」
「はぁ、そうですか。クロスさん、台所はこちらになっていますので、必要があれば、言っておいていただければこちらで購入しておいてもいいですよ」
「ザクス殿、そのような気遣いは不要です。ネリア様に任せられた限りはすべて、こちらで準備しますので問題ありません」
「どうぞご自由に……」
「ではまた」
「失礼しますね」
「失礼する」
と3人は帰っていった。そして、ザクスはこれっきりで、『また』という言葉は社交辞令だと思っていたのだが、翌日にも、翌々日にも訪れ、ザクスの研究を熱心に見、メモを取ったり、教わったり、真似てみたりをしたのだった。




