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第3話 「アッシャッシター」

書いていて楽しいからといって

読んでいて楽しいとは限らない

それが例え書いた本人であろうとも

 ☆☆☆☆★☆☆

 弥生(やよい)から貰った紙に書いてあった5人のうちの1人で、滝壺(たきつぼ)高校3人の「華」の最後の1人、『血濡れの華』水無川(みながわ)小豆(あずき)。1年の女子で入学してから1ヶ月くらいが経っているが、まだ数回しか出席していないらしい不良娘。度々他校の男子生徒と喧嘩している現場を目撃されていて、いつも服などに赤いものが付着していることから『血濡れの華』と呼ばれている。

 そんな問題ばかりを起こしているのに退学どころか停学にすらなっていない。まともに出席もしていないので「特例生徒」というわけでもなさそうだ。だというのになんでそんなに好き勝手できているのかは謎である。

 この学校で「華」とつく3人のうちの1人になぜ水無川のような不良生徒が含まれているのかといえば、ここの生徒たちの中では「華=近寄りがたい存在」という意味らしく、『学園の華』は高嶺の花で近づけない、『冷血の華』は幽霊みたいな存在で近づけない、『血濡れの華』は怖くて近づけない、ということらしい。

 そして今、俺はそんな怖くて近づけないと言われている「華」にお近づきになるために、弥生の紙に書いてあった情報を頼りに水無川がよく目撃されている場所を巡っている。

 さっき涼月(すずつき)先生と別れた時はまっすぐ家に帰ろうと思っていたのだが、校舎を出たあたりでそういえば誰も攻略どころか会話できてすらいないことを思い出し、校門を通ったあたりではどういうわけか急に一日の疲れが吹っ飛んだように元気とやる気が沸いてきて、そうして校舎外で出会える可能性のある『血濡れの華』こと水無川小豆を探そうと思い至ったわけだ。

 現在時刻は18時50分くらい。普通なら女子高生がこんな時間にうろついているのは危なくて出会える可能性は低いが、相手は不良娘の水無川。むしろここからが会える可能性が上がる時間ではないだろうか。となれば、水無川の目撃情報が多くて尚且つこの時間に不良がいそうな場所を重点的に探すことにしよう。


 ~駅前ゲームセンター~

 ここからが不良娘とのエンカウント率が上がる時間――とはいっても、俺も門限というほどではないが帰らなくてはいけない時間はあるわけで、そうなると全部を隅々まで探すことはできない。なので先程も言った通りいくつかいそうな場所を絞って軽く探してみることにする。

 不良がサボる場所といえばゲーセン。というのは俺の勝手な想像だが、実際に目撃情報が多くあり、この時間帯でも一番いそうな場所といえばここだろう。なのでまずはじめはここを探すことにした。

 駅から歩いてすぐの場所にあるこのゲーセンは、電車待ちの生徒たちが暇をよく潰す場所だ。今はちょうど部活帰りの生徒たちでゲーセンは賑わっていて、この中から水無川を見つけるのは大変かも知れない。が、なんとなく、今日の俺なら見つけられそうな気がする。

 入口のUFOキャッチャーゾーン……うーん、いなさそうだな。あ、このフィギュアあのアニメのか。欲しいけど今あんまり手持ちないしなー――って、今は水無川を探しに来たんだった。遊ぶのはまた今度来た時にしよう。

 奥に進んで今度は体感型ゲームゾーン……やっぱりこの辺、特に音ゲーは人気あるな。プレイしてもよし見てもよしだから、結構人だかりも出来てる。ちょっと探すの大変そうだけど、一応探してみるか。水無川は高1の女子にしては身長高めで赤い髪が特徴だったはず。目撃情報ではどれも制服を着ていたらしいし、滝壺の制服の女子を探していけばいいだろう。…………。全く見当たらねぇ。仕方ない、更に奥に行ってみるか。

 最後はプリクラゾーン……どうやって探すんだよ。中を覗くわけにもいかないし……そもそも不良の水無川がプリクラ撮ってるとは思えないな。これも勝手な想像だけど。

 とりあえず、一通り探してみたけど水無川の姿はなかった。そういえば水無川がゲーセンにいるところを目撃した時間って確か昼くらいが多かったらしいな。……それってサボりの生徒が同じくサボっていた水無川を見かけたってことだよな? だったらこの時間帯に探しても水無川会える確率は低いか。

 この時間帯でも見かけたという情報もあったけど、紙をよく見たらそれは少数の情報だと書いてある。探して無駄だったというわけではなかったけど、確実にこの間に他のところを探していたほうがよかったな。


 ~滝壺公園~

 今度は時間関係なく、よく水無川が目撃されるという公園にやってきた。ここ滝壺公園はブランコ、滑り台、砂場、シーソー、ベンチ、水飲み場、トイレ――と珍しいものは特にない、割と遊具が新品みたいに綺麗な広めの公園だ。

 俺が子供だったら間違いなくここで遊んでるな……というほど絶好の遊び場だというのに、この公園で遊ぶ子供は全くいない。それは今が夜だから、ということではなく、時間関係なしにだ。更に言ってしまえば、子供どころか大人も全くこの公園を訪れない。公園といえば、お年寄りが散歩に来て、ちょっとベンチで休憩できたりという勝手なイメージがあるというのに。

 この公園が出来たのが大体10年くらい前で、だというのに遊具が新品みたいに綺麗だというのも、その遊具を使う人が出来た当時からいないせいなのだが――なぜこの公園が使われていないのかというと、それこそ水無川がよく目撃されるというのと関係がある。

 ここ滝壺公園は人々の間で『決闘場』と呼ばれていて、不良どもが喧嘩をする際によく使用しているのだ。なんでそうなったのかはわからないけど、かれこれ10年間、ずっとここは不良どもが喧嘩する際の呼び出し場所に使っているらしい。だから健全な一般人はこの公園に全く近づかない。まあ、結構学生が近道のためにここを通ろうとして、それで水無川の姿を目撃しているわけだが。

 そういうわけで、不良御用達のこの公園に来れば水無川に会えるんじゃないかなと思っていたんだけど――うん、会えなかったね。まあ会えた時は、それは水無川が喧嘩している時だろうから、そんな時に出会えても即行で逃げるから意味ないんだけど。

 ってことで、公園にはいませんでした。なので今すぐここから立ち去ろうと思います。

 え? なんでそんなに急いで立ち去ろうとするのかだって? そんなのもちろん決まっている。水無川はいなかったけど、その代わり公園には――大勢の不良たちが倒れていたんだから。

 みんな「滝壺のクソ女が……」とか「水無川のやつ……今度会ったときはぶっ殺してやる!」とかとか、物騒なことを呟いてるし、こんなところ長居はしたくないに決まっている。


 ~カラオケ ボックS~

 あれ、10~20人くらいはいたんじゃないか? しかも全員ガタイ良かったし、なんか武器とか落ちてたし。それなのに、水無川はあの不良たちをボコボコにしたというのだから、流石『血濡れの華』。軽く恐怖を覚えてきたよ。

 しかーし、俺は攻略してみせる。怒らせずにときめかせれば、『揺さぶりくん』の力でなんとかなりそうだし。それにハーレムを作るとなると何かしらトラブルが起きそうだし、そんな時に武力担当が居てくれれば心強いからな。怖いけど、怖いからこそ攻略しなくてはならない気がする。

 というわけで引き続き水無川を探すのだが、今度はカラオケボックスにやってきた。

 このカラオケボックスはあの公園からそこまで遠くなく、あの不良たちかボコられてからそこまで経っていなければここにいる可能性は高い。ここもそれなりに目撃情報があるし、何より不良をボコった後はどこかで身を隠しておとなしくしていた方がいいだろう。というのも勝手な想像だが。だって俺、喧嘩とかしたことないから、喧嘩したあとにどう行動するかなんて知らないし。

 まあなんにせよ、目撃情報があれば訪れる価値はある。

「…………」

 ただ、どんなに可能性が高くても、訪れる価値があろうと、中に入って探せるかというのはまた別の問題なんだけど。

 前にも言った通り俺は中学の時まで人見知りのコミュ障で、友達なんかも全くいなかった――せいぜい友達みたいなやつといえば幼馴染くらいだった――ので、こういうカラオケみたいな複数人で訪れる場所に来たことがない。だから、もしこの中に「水無川がいますよ」という確かな情報があったとしても俺は中に入ることはできないだろう。

 せめて部長とか弥生とか、その幼馴染とか家族の誰かが一緒ならば中に入ることが出来るけど、あいにく今は誰もいないので無理。というわけでここは諦めて別のところにいてくれることにかけよう。


 ~コンビニ『Tree Sound』~

「ラッシャッセー」

 客のいない店内に店員のやる気のない挨拶が響く。

 ここは水無川をたまに見かけるというコンビニ。正直ゲーセン、公園、カラオケに比べればいる可能性は限りなく低い。しかし、もう俺がいけそうな場所で水無川の目撃情報があるのはこの寂れたコンビニと、もう1箇所しかないのだ。

「…………」

 まあ、客のいない店内って最初にいったからな。水無川は当然いない。

 いると期待していたわけじゃないけど、いないとやっぱりガッカリする。このまますぐにでも次の場所に行こうかとも思ったが、どうせそこもいる可能性が低い場所だし、どうせならこのコンビニの品揃えでも確かめておこう。

 コンビニ、というのは会社ごとはもちろんだが、結構同じ会社でも店舗の場所によって若干品揃えが違う事がある。まあ売れないものを置いておいてもしょうがないのだから、その場所で一番売れているものを多く入荷し、スペースを確保するのは当然だろう。

 そんなわけで、俺は初めて訪れるコンビニは必ずチェックするようにしているのだ。ここは俺の家から近いわけでもないが、そこまで遠いというわけでもないので、何かめぼしい物があればここをお気に入りのコンビニに入れてもいいかもしれない。


 入口入ってすぐのところには当たり前だがレジがあり、この時期だからか餅系の商品がレジの前の小さなスペースに並べられている。

 それを通り過ぎまっすぐ進んでいくと突き当たりにおにぎりコーナー。鮭、梅、昆布、ツナマヨ、明太子、おかか、とポピュラーな品揃えの中にからあげ(具)、焼きそば(具)、赤飯、塩、焼きおにぎり、具なしと最近見かけるようになったものまで――いや待て具なしってなんだよ。ただの握られた白米じゃねぇか。海苔すら巻いてないし、誰が買うんだこれ。

 とツッコミを入れつつその隣には弁当、焼きそば、うどん、パスタ、サラダ、惣菜……といったものが並んでいる。具なしおにぎりで面食らったが、こちらはどこのコンビニでも見かけるような普通のものだった。

 端まで行き、面が変わると今度は飲み物コーナ。あの取っ手が付いたケースに入ってずらりといろいろな飲み物が並んでいる。ここも特に変わったものはなく、どこでも見かけるような普通のペットボトルや缶のジュース、お茶、水、あとお酒など。ただコンビニにしては値段がちょっと安いかなといったところか。まあスーパーとかで買った方がやっぱり安いわけで、ここが寂れているのは近くにあるスーパーに客でも取られているのかなといった感じかな。

 そのまま端まで行くとトイレがある。男性用と女性用で分かれているようで、男性用の中を覗いてみると小便器と大便器が。寂れたコンビニの割にはトイレが豪華じゃないか。だいたいコンビニのトイレというと、男女共用か、小便器だけ別にあってやっぱり大便器は共用というのが多いが、こうやって男性用で両方あるのは珍しい。ちょっと俺の中でこのコンビニの評価が上がった。……まあ、あまりコンビニのトイレ使わないんだけどさ。

 トイレから出ると、そのまま次の面、入口の脇まで続いている雑誌コーナに入る。トイレのすぐ近くは成人向けのアダルト雑誌。その横には漫画雑誌があり、その隣から入口まではファッション雑誌や芸能人のスクープなどを取り扱った週刊誌など。特に変わったものはないみたいだ。そういえば、子供とかも手に取る漫画系雑誌の横に成人向けのそういう雑誌を置いておくのはいかがなものかと個人的には思っている。成人向けの、表紙がちょっとえっちな漫画風のやつだと子供も何かと興味を持ってしまうんじゃないかなと。実際俺は小さい頃めっちゃ気になってたしな。

 と、そんな俺の話はどうでもいいとして、次は棚を見ていこうと思う。あまりコンビニの描写ばかりしていても仕方ないので、ここは簡単に。棚の数は2つが背中合わせになっていて4列。入口側から、雑貨、雑貨、カップ麺やレトルト食品、チップス系やスナック系の袋のお菓子、チョコ系の箱に入ったコンパクトなお菓子、飴やガムやおまけ付きのお菓子、パン系、デザート系となっている。パン系とデザート系の棚は他の半分の大きさで、そのもう半分の空いたスペースにアイスなどが入ったケースが置かれている。

 パン系は食パンや菓子パン、惣菜パンなどの珍しくもないラインナップ。デザート系はお店自慢のプリンやゼリーみたいなものが置かれているが、こちらもこれといって食べたいと思うものはなかった。

 やっぱり寂れたコンビニは寂れる理由があるんだなと、これはお気に入りにはならないなと思いながら最後にアイスのケースを除いた時、その考えは180度変わることになった。

「こ、これは……!」



「アッシャッシター」

 やる気のない店員の挨拶を聞きながら俺はコンビニを出る。

 水無川はいなかったけど、代わりにいいものを見つけることができた。ここはお気に入りコンビニに登録しておこう。

「……ふふふ」

 右手に持ったビニール袋の中を覗き、思わず笑みがこぼれた。傍から見たら気持ち悪いだろうが、仕方ない。そんなのも気にならないくらい今俺はテンションが上がっているのだ。

 なぜそんなにテンションが上がっているのかといえば、それは俺が先さっきコンビニのアイスコーナーで見つけたとあるアイスせいだ。白く、長方形の形のバニラアイスに棒が付いただけのシンプルなアイス、名前は「ハチマキアイス」。

 発売されたのは確か10年前くらいだったか。発売からわずか数日で生産が間に合わなくなるほど爆発的ヒットという偉業を成し遂げた伝説のアイスで、一度食べたらそのあまりの美味しさに他のバニラアイスは食べたくなくなるほど。俺も小さい頃によく食べていたが、小さい頃に食べていたものの味なんてほとんど覚えていない俺でも覚えているほど美味しい。

 ただ、これを製造していた会社が何かトラブルがあったらしく、発売から2年ほどで製造停止。多くのハチマキ信者が絶望したという。俺も信者、というほどではなかったけど大好きなアイスだったので、もう買えないと親から聞かされたときはかなり絶望したのを覚えている。……まあ子供なんてころころ好きなものが変わる生き物なので、しばらくしたら他のアイスなど食べるようになっていたが。

 それでも、やっぱり食べられるならもう一度食べたいと思っていた。そして、こんな寂れたコンビニであの伝説のアイス、ハチマキアイスに出会えたのだ。これはテンション上がるだろう。

 ただ一応製造停止になっていて、というか既に製造会社自体もなくなっていたはずなので、このハチマキアイスがなぜあるのだろうと。まさか10年前の……なんてことも頭によぎったためスマホで調べてみたところ、どうやら当時の製造会社の社員たちが集まって新しく会社を作り、そこでハチマキアイスを復活させたということらしい。ただ、復活したとなっているものの、ほとんどが実際に売っているところを見てないらしく、軽い都市伝説と化していた。

 しかし、ハチマキアイスは本当にあった。8年の時をかけ伝説が復活したんだ! ……なんて言ってみたけど、本当に子供の時に食べた伝説のアイスと全く同じ味なのかは不明。いくら社員が集まって復活させたとは言え、伝説のアイスだ、製造方法も外部に漏れないように対策してあっただろう。それが製造停止、倒産してから8年たった今、果たしてその製造方法が残っていたのか。もしかしたら名ばかりのがっかり製品かもしれない。

「……よし」

 まあいろいろ言ったけど、食べてみれば全てが分かる。

 息を深く吸って、ゆっくりと吐き出す。アイスを食べるためにここまで精神を落ち着かせることがあっただろうか。たぶん後にも先にもこれきりになると思う。

「いただきます」

 袋を開け、アイスを取り出し、一口。パクリ。

「!!!」

 口に入れた瞬間に広がるミルクの風味とバニラの香り。よく人は何かを食べた時に、例えを使ったりして比べたりするが、そんな例えも浮かばないほど――比べられないほど最高の味わい。「美味しい」のただ一言で十分すぎるこれこそ

「間違いない。ハチマキアイスだ!」

 知らない人はいないと言われた伝説のアイス、俺が小さい頃に食べたあのアイス、ハチマキアイスまさにそのものだった。


 ☆☆☆☆★☆☆☆

 ~本屋~

 まさか、あんなところでハチマキアイスに出会うとは。あれだけで今日一日の散々な思いを帳消しにできる。

 とりあえず妹もあれが好きだったので、ちょっと帰るのが遅くなるというメールに写真を添付して自慢しておこう。

 さてさて、本日最後に訪れたのは割と大きめの本屋。もちろんここには水無川を探しに来たのだ。……も、もちろん忘れてなかったんだからね! ハチマキアイスでテンション上がりすぎて水無川のことを忘れて帰ろうとか、そんなこと思ってないんだからね!

 とかツンデレ風に言い訳しながら、俺は中へ入る。ここでも水無川の目撃情報はあるが、そこまで頻繁に目撃されたわけじゃない。そもそも、本を買うと言ったらだいたいこの同人系以外はなんでも揃ってると言われている本屋に来るはずで、別に目撃情報があったところで不思議はない。まあ、つまりそれは、いつもいるというわけではなく、今日もいる可能性が限りなく低いということだ。

 同人系以外なんでも揃っているかもというだけあって、かなり広い。この中から水無川を探すのは面倒くさいが、ゲーセンみたいに込み合っているわけでもないので、滝壺の制服を着ている赤髪なんて適当に歩き回ってでも見つけられるだろう。それでもし見つからなければ、それはいないということでいいと思う。

「……探すか」

 俺は水無川を探しに来た、ということを自分に言い聞かせるように呟き、奥に進んでいく。


 あれから十数分。子供向けコーナーから辞典、小説、漫画、雑誌と様々なコーナを見てみたが、水無川らしき人物はやっぱり見つけられなかった。……え? コーナー分けの表現が雑すぎる? 気のせい気のせい。別に普段あまり読まないジャンルは全て同じように見えるとか、そんなんじゃないんだから!

 ……なんか、やけにツンデレ風に言い訳してるな。というか俺は誰に言い訳しているのか。というか誰に向かって説明しているのか。ふとそんなことを思ってしまったが、深く考えるのはやめておこう。これ以上考えると知ってはいけないことを知ってしまいそうだ。

 と、話がそれてしまったが、結果として。水無川が目撃されたというところは全て(カラオケ以外)巡ったが、結局会えなかった。それどころか弥生から貰った紙に書いてあった5人のうち、まともに会話できたのは弥生のみだった。

「俺、なにしてんだろ」

 ハーレムを作ると宣言してから数時間。『揺さぶりくん』というチートアイテムを手にし、弥生という素晴らしい情報源がいるというのに、結局なんにも成果は上げられなかった。

 そんな事実に気が付いた俺は、ちょっと心が折れそうになっていた。……そうだ、帰りにあのコンビニによってハチマキアイスを買って帰ろう。というかあのアイスを見つけられただけで成果はあったじゃないか。ハーレムには無関係――いや、俺のモチベ維持という点では一番大きな成果だったな。

 そう自分に言い聞かせながら、俺はそろそろ帰らないとやばいなと思い店を出ようとする。

「?」

 と、何かを見つけた。何か、というか誰かなんだが。

 ここには人が大勢いるわけだし、誰かなんてたくさんいるだろう。けど、なぜか俺はその誰かが視界に入るとやたらと気になり始める。

 学校以外で知り合いを見かけたときのような、そんな意識の仕方だったけど、俺はその誰かと知り合いというわけではなさそうだ。

「…………」

 滝壺の制服を着た女子生徒。身長は俺と同じくらいか? 深く帽子をかぶり、マスクをし、グラサンをかけている、見るからに怪しい女子。あんなの知り合いじゃなくても気になってしまうだろうと思うけど、あれを見たときに感じたのは知り合いを見かけたときのような感覚。もっと詳しく言えば、あれをどこかで見たことあるような、そんな感じ。

 もちろんあんな不審な人は初めて見た。けど、なんでだろう。俺はその誰かを知っているような。

「…………」

 いくつかの本を持ってレジに向かうその誰か。手に持っているのは……ライトノベル? まあ今はそんなことどうでもいいか。

 うーむ。こそこそとしているせいで体のラインがはっきりとはわからないけど、あれはなかなか綺麗な体をしてるな。ニーソを履いたスラっとした足。本を抱えるその腕もスラリとしている。肌が見えているのはニーソとスカートの間の部分だけ。しかしそこから見える肌は白く、遠くから見ても綺麗な肌してんなと思う。帽子に無理やり押し込んでいる感があるが、はみ出してしまっているその亜麻色の髪――あ。

「ありがとうございました」

「…………」

 お会計を済ますとそそくさと店を出ていくその誰かの後ろ姿を見ながら、俺はある人物が思い浮かんだ。

「……『学園の華』?」

 生では見たことはないが、やたらと写真が出回っている『学園の華』。二次元から出てきたような美少女である『学園の華』に、あの足や腕、肌の色や髪の色、そして身長や体格が似ていたのだ。

「いや、まさかな」

 しかし、流石にそれはないだろう。あの『学園の華』があんな不審者みたいな格好をするわけないし、それにライトノベルを買うわけがない。もっと、こう――紅茶を飲みながら英語で書かれた本を読んでいるような、そんな感じ。まあ勝手な想像なんだけど。


 ☆☆☆☆★☆☆☆☆

「アッシャッシター」

 やる気のない店員の挨拶を聞きながら俺はコンビニを出る。本日2回目。

 右手にはビニール袋。中身はもちろんハチマキアイスだ。

「……ふふふ」

 どうしても勝手に笑みがこぼれてしまう。まああのハチマキアイスが手元に有るのだから仕方がない。それも大量に。

 あの『学園の華』を思い出させる不審者の正体は一体……と疑問が残るままとりあえずもう家に帰らないといけない時間になってしまったので、本屋をあとにした俺。家に帰る前に明日からもハーレム作りを頑張れるよう、モチベを維持するために俺はコンビニにより大量のハチマキアイスを購入した。

 本当はお風呂上がりにでも食べようと思っていたのだが、手元に有るとどうしても食べたくなってしまう。家に帰れば夕御飯なのであまりよくないのだが――仕方ない。だってハチマキアイスだもの。

「いただきます」

 俺は1本だけならと袋から取り出し口に運ぶ。

「んーまい」

 自然にそんな言葉が出る。流石ハチマキアイス。素晴らしきハチマキアイス。

 俺は気持ち悪いほどニコニコ――いや、ニヤニヤしながら、ハチマキアイスを食べながら夜道を歩く。

 気分がいい時は景色も綺麗に見えるようで、俺は長いあいだ暮らしてきたこの街の空に浮かぶ星を初めて綺麗だと思った。まあ普段上なんか見ないしな。

 しかし、たぶん、それがいけなかった。あと数回曲がれば家にたどり着くという、その曲がり角の一つで誰かとぶつかってしまったのだ。

「きゃっ」

「うおっと」

 俺はそこまでスピードを出していたわけじゃなく、ぶつかってきた相手の体重が軽く、俺はぶつかった衝撃で転ぶことはなかった。まあ、口にくわえていたアイスの棒が声を出した拍子で落ちてしまったけど、アイスは綺麗に舐めとってあるので問題はない。

 ただ、別の問題があって、それはぶつかってきた相手が転んでしまっていた。体重の軽さ、ぶつかる瞬間に判明した俺の胸元あたりまでの身長、「きゃっ」という可愛い声。それらから導き出される答え、相手は女の子――少女だ。

 女の人を怪我させてはいけない、怒らせてはいけないというのを、俺は妹で身を持って経験していた。そうでなくとも、ハーレムとかほざいてる人間が少女に怪我させてしまったとあってはいけない。

「だいじょ――」

 俺はすぐさま袋を左手に持ち替え、少女を起こそうと右手を差し出したところで――言葉を失う。

 そこには、全体的に幼さを感じさせる体型をした少女らしき子が尻餅をついていた。そこはいい。ただ――なんで“うさぎ”のお面なんかつけてんだよ。

「…………」

 お祭りの屋台なんかで見かけるようなうさぎのお面を被っているため表情はわからない。ただ、街灯で照らされた水色の髪をしたピンク色のうさぎのお面を被った少女というのはなかなかに衝撃的な絵でして。しかもそのうさぎ、デフォルメのかわいいキャラではなく、ちょっと海外のアニメ風の軽い狂気を感じる絵柄なのだから、そんなのを夜に見た衝撃は凄まじい。

 しばらく呆然としていたが、俺は自分が手を差し出しかけていることを思い出し

「だ、大丈夫か」

 言いかけた言葉を飲み込むわけにもいかず、結局手を差し出す。こんな時間にこんなお面をつけたやつなんてまともな人間じゃない。俺は直感的にそう感じる。

「…………」

 少女は何も言わないまま俺の手を取り立ち上がる。お尻をぱたぱたと叩き砂埃を払い落としながら、視線は俺ではなくずっと下を向いている。

 この時点で関わったら面倒くさそうな展開になりそうだなーと思っているが、流石にここで立ち去るのも悪い気がして、一応声をかけてみることにした。

「あー、その、怪我、ないか?」

「…………」

 反応はない。

「ぶつかって悪かったな。ちょっとよそ見してて」

「…………」

 反応はない。

「じゃ、じゃあ俺、もう行くから。あんまりこんな時間に一人で出歩くなよ」

 会話にならないなと判断し、早々に切り上げて立ち去ろうとすると

「……べ……」

 反応があった。べ?

「……べ、弁償して!」

「えぇ!?」

 急に怒鳴ってくる少女。なかなか可愛い声してるな――って何考えてんだ俺。弁償ってなんだ? もしかして転んだ拍子にスカートでも破れちゃったのか?

「えーと、何を弁償すればいいのかな?」

「…………」

 少女は地面を指さす。そういえばずっと下を見ていたな。何かあるのか?

 そう思い視線を下に落としてみると、そこには赤色で小さい丸いものから細い棒が生えた――棒付きキャンディーらしきものがあった。

「あー、ぶつかった拍子に落ちたのか。これどこに売ってるんだ?」

「……売ってない」

「は?」

「これは、特別に取り寄せたもの」

「……えぇ」

 じゃあ弁償できないじゃん。あれか、こういう時は飴の代金分支払えばいいのだろうか。

「これ、いくら?」

「……お兄さんには、払えない金額」

「……えぇ」

 やっぱ弁償できないじゃん。てか俺が払えない金額って、どんだけ高級な飴なんだよ。

「あの、だったら弁償できないんだけど……」

「……弁償して」

「だから」

「弁償してくれない、お兄さんは意地悪」

「……えぇ」

 もうどうしろと。やっぱり面倒くさいやつだったか。

 しかし、このまま少女を置いて逃げるのもな。この子がご近所さんだったら、意地悪なお兄さんとして噂されてしまう。

「……弁償」

 少女のテンションがだんだん下がってきているのが声から伝わって来る。顔は見えないけど、きっと悲しそうな顔をしているに違いない。……あ、よく見るとお面は全体的に上側についてるから、口元だけ見える。よく考えれば飴を咥えてたんだから口元が見えてないとおかしいよな。――って、わずかに見える口元がすっげーへの字になってらっしゃる!

「あー、どうすっかな……」

 俺が思ってた以上にこの少女は幼いのかもしれない。今まさに泣く寸前なのかもしれない。泣く少女と泣かす男子高校生。この絵面はだいぶやばいぞ。なんとかしなければ……弁償はできないし……あ、そうだ。

「えーと、弁償はできないけど、お詫びと言ってはあれだがこれ食うか?」

 俺はそう言って袋の中からハチマキアイスを取り出す。どんな人でも一瞬で笑顔にできるハチマキアイス。これなら最悪泣くのだけは回避できるだろう。

「……なんですかこれ」

「アイスだ」

「……食べます」

 少女は俺からハチマキアイスを奪い取ると、封を開けアイスを取り出し、一口

「!」

 少女はアイスを黙々と食べ続け

「……けぷ」

 わずか10秒で食べ終わっていた。マジかよ、俺でも食べるのに2分はかかるのに。ハチマキアイスって結構でかいんだぜ?

「……美味しかったか?」

 一応聞いてみる。これで美味しいと答えれば残りのハチマキアイスも渡して勘弁してもらおう。

「……とても美味しかったです」

「そうか。それはよかった」

 じゃ、残りのハチマキアイスも渡して早急に立ち去ってしまおうかと考えていると。

「……弁償は、しなくていいです」

「え?」

「お兄さん、いい人です」

 なんか1本で満足してくれたようだ。流石ハチマキアイス。

「いい人になれてよかったよ。じゃ、今度こそ行くから。あんまり遅くまでうろついてるんじゃないぞ」

 これでなんの問題もなく家に帰れるな

「ちょっと待つです」

 うん、知ってた。面倒くさいやつに絡むと簡単には開放してくれないんだよな。知ってた。

「なんだ、まだなんか用か」

「お兄さんいい人なので、名前を聞いてあげます」

「なんで上からなのかは知らんが……人に名前を聞くときはまず自分から名乗るのが常識だ」

「ふむ、そうですね。では、うさぎ……ラビット……うさぎ……」

「?」

「はい、決まりました。ワタシは『うさぎ』です」

「はい?」

「だから、名前ですよ。ワタシはうさぎです。お兄さんは?」

 決まりましたってなんだよ。明らかに今決めた偽名じゃないのか『うさぎ』って。

 そんな奴には俺も偽名で返してやろう。

「俺は田中(たなか)又郎(またろう)だ」

「それ偽名ですよね?」

 一瞬でバレた。

「……本名だ」

「でもそれって、確か『学校大臣の本音』に出てくる主人公の名前ですよね?」

 なんとこの少女、あのマイナーライトノベル『学校大臣の本音』を知っているのか。妙な親近感が湧いてきた。

「バレちゃあ仕方ない。俺の名前は宏太(こうた)だ」

「宏太お兄さんですか」

「そうだ。とっても優しくてカッコイイ、モテモテの男子高校生だ」

「なるほど妄想癖のある変態高校生ですか。しっかり覚えておきますです」

 少女にまで変態扱いをされるなんて……。

「それでは宏太お兄さん。お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでしたです」

「あ、ああ」

 急にそう丁寧にされると反応に困る。

「ワタシはもう行かなきゃならないので。アイス、ありがとうございましたです」

「おう。気をつけて帰れよ」

「はい。宏太お兄さんこそ夜は危ないので気をつけてくださいです」

「俺よりうさぎが気をつけた方がいい気がするけど」

「ワタシは大丈夫です。それでは、また」

「ああ、また」

 また、会うことはないだろう。そうは思っても声には出さない。

 少女はぺこりと一礼すると、俺が来た方向に走っていってしまった。

「…………」

 しかし、変なやつだった。

 部長や弥生、涼月先生もなかなか変な人たちだが、あの少女も負けず劣らずだ。関わると面倒くさくなるところまでな。

 空を見上げる。いつの間にか空には雲が掛かっていて、星は一切見えなくなっていた。



 俺はモテたい普通の男子高校生。ハーレムを作るため、女の子の攻略を試みているが未だ成果なし。

 16年とちょい生きてきた俺の人生の中で一番いろいろなことが起きたであろう日はこうして終わった。

 明日は一体なにが起きるのか、どうなるのか。それは明日になってみないとわからないけど、今日よりカオスな日にはならないだろう。

 もしなったとしたら、それは――それは、まあその時になってから考えよう。

「家庭科部」を「料理部」に修正したことを前回の後書きで報告しようとしてすっかり忘れていた、木葉っす

後書きって、本来書き手が読者に伝えたいことや本編を補うようなことを書く場所だと思うんすけど、あまり有効に使えてないっすね

俺、適当な愚痴しか書いてなくて、大事なことをすっかりと伝え忘れてたっす。サーセン

なので今回はちょっと本編を書いていて思ったことを伝えようと思うっす


なんでコンビニでの描写があんなにあるんすか


いや、書いたのは俺なんすけど、ホントなんなんすかね

別にコンビニが好きとかいうわけでもないですし、むしろ1ヶ月に1回行くくらいなんすけど、あんなに書いてたっす

コンビニの内装を頑張って思い出さないと書けない程度しかコンビニに思いれないというか全くないんすけど、なんか書いていて一番楽しかったっす

ハチマキアイスとかなんですかねあれ。あんなの予定ではなかったっすよ。本編に全く関係しないはずだったんすけど……ホントなんなんすかね


きっと今後もこうやって無駄な描写ばかりしては大事なことを本編でも後書きでも伝え忘れて、最終回あたりで苦労するんでしょうね

だが書いていて楽しいのでやめない。今が楽しければ後のことは気にしない気にしない。後のことは未来の自分に任せればいいんや

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