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永久の輪廻  作者: 大野 幸村
第一章
3/7

神堕ちの日に

「はぁー」


赤ん坊に似つかわしくない溜め息が聞こえる。

この赤ん坊は『時戻りの呪い』によって転生した輪廻の姿である。


(何回目なのか分からなくなったが、この時間が一番嫌だな。まあでも、最初の頃は怖くて仕方がなかったが、どんなことでもある程度は馴れるもんなんだな。)


まるで他人事のように自己分析をしながら、輪廻は灯りを点ける魔法を唱える。

本来なら一歳の赤ん坊に魔法など使えるはずはない。

それは、『時戻りの呪い』で一歳に戻った者も例外ではない。ましてや、本来なら赤ん坊に戻る前の記憶や能力は全て失うはずなのである。


灯りが点いたことによって建物の中から外を見る人影が見える。

その人影は、カゴに入れられて門の前に放置されている輪廻を見つけ、慌てて建物から飛び出してきた。


「まぁまあ。 なんということでしょう。」


女性はそう言いながら輪廻を抱き上げた。そして辺りを見回すが人影は何処にもない。


(誰が灯りの魔法を使ったのかしら?この子の親はまだ近くにいるかもしれないわね。)


そして改めて赤ん坊を見てみると左腕に腕輪がはまっている事に気が付いた。


「これは貴方の名前でいいのかしら? リンネと言うのね。いい名前ね。」


このシスターらしき女性も答えられないと分かっているが、自然と喋りかけるような口調になっている。


「貴方の両親も何かの理由があるのでしょう。さぁ、ここは寒いわ。中に入りましょう。」


そう言って輪廻を抱きながら、建物の中に歩いて行った。


(今回は早く気付いてもらえて良かった。初めて転生した時は、本当にもうダメかと思ったもんな。)


そう思いながら、輪廻の意識は遠い過去に遡るのだった。







(さっ寒い。)


「あぅあぅう」


言葉に出したつもりが何故か喋る事が出来ず、口からは訳の分からない声が出ただけだった。


体に意識を集中させても、僅かに手足が動かせるだけで、起き上がることが出来ない。


少しでも情報を得ようと精一杯体を動かそうとするがどの部分もほとんど反応がない。

僅かながら首を持ち上げる事ができたため、自らの体が少し視界に入る。そこで自らの体に起きた異変に気付く。


(なんか俺カゴに入れられているらしいな。あれっ? だいぶ汚れているけど、これさっきまで俺が着てたコートとズボンだよな。でかくないか?とゆうか俺の手めちゃくちゃ小さいよな?)


慌てて顔に手を近づけてよく見るが、慣れ親しんだ自分の手ではない。

必死に体を起こそうとするが、上手くいかない。


(ヤバいよ。どうなってるんだよ。そういえばあの神様とか言ってた女の人はどこいっちゃったんだよ。とにかく、現状を確認する為にも誰かいないか? 話がしたい。)


そう思い体を起こそうとするが、やはり上手くいかない。

自分に着せられているコート等がでかくて邪魔しているせいもあるが、どうも体が縮んで意識的に上手く動かせないらしい。

寒さによって体が相当にかじかんでいる事も上手く動かせない原因の一つになっていた。


(マズイ。相当寒い。どんどん体が冷えていくのが分かる。このまま誰にも会えずに凍死するのかなぁ。)


そんなことを考えている間に、雪が降り始めた。


どのくらい時間が経ったのだろうか。

輪廻の入れられているカゴの中にもうっすらと雪が積もり始めていた。


朦朧とする意識の中で必死に助けを呼ぶため声をだすがやはり口から出てくるのは、言葉にならない声だけだった。


その声ももうほとんど周りには聞こえない位の小さなものだった。


(もうダメだ。)


途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止めていた輪廻だったが、堪えきれない睡魔に身を委ねるのだった。

気を失う瞬間、ふわっと体に浮遊感を感じたが眼を開けていることができなかった。





輪廻は意識を取り戻すと、体がじんわり暖められている事に気が付いた。

パチパチと暖炉の中の薪がはぜる音が聞こえる。

どうやら輪廻は、暖炉の前の揺りかごに寝かされているらしかった。


(まだ夜だな。)


窓から見える外の景色を見ると辺りは夜の闇に包まれていた。

暖炉の暖かさで、先ほどまでのかじかんだ体がポカポカしていて凄く安らいだ気持ちになり、訪れた睡魔に身を任せゆっくりと瞳を閉じた。


朝と言っても昼近いが、輪廻が目を覚ますとそれに気付いた老人が近づいてくる。


その老人は、背はかなり大きく185cm程で、頭は白髪、顔には豊かな髭が蓄えられていた。髪の毛や髭の間から見える顔には幾つかの傷痕があった。

その老人が輪廻を見つめる目は、ただただ優しかった。

その慈愛に満ちた目を見たとき輪廻は奇妙な安心感に包まれた。


「おーい、マリー。目が覚めたみたいだ。来ておくれ。」


そう言って、レンガ造りの建物の奥へ声をかけた。

マリーと呼ばれた二十歳前後の女性が奥から哺乳瓶に入ったミルクを持って現れた。

肩よりだいぶ下まで延びた流れるような金髪、すっと通った鼻筋、紺碧の瞳の大きな目、着ている修道服がよく似合っている母性を感じさせる女性だった。


「オルガさん、大きな声を出すと泣いてしまいますよ。」


「この子は大丈夫だよ。普通の子ならワシの顔を見ただけで泣き出しとるよ。心の強い子じゃ。」


「それもそうですね。」


マリーは、自分の言葉を否定してほしそうな顔をしていたオルガを無視し、輪廻を抱き上げた。


(薄々分かってたけど、俺赤ん坊になってる。二十歳の思考能力のままで赤ん坊に戻るのは、かなりキツいものがあるな。味覚とか以前のままだし。)


されるがままにミルクを飲んでいた輪廻だったが、とにかく不味いと言う思いから無理矢理喉の奥に流し込んでいた。


「凄くお腹がすいてたんですね~。」


的外れな感想をマリーが口にしながら、オルガの方をみる。


「そうじゃな。この子は、健康そうに見えるが、親はだいぶ苦労していたのかもしれん。わしらの所に捨てていったのも辛い選択じゃったろうて。この子の親の分もわしらは責任を持ってこの子を育てていかねばならんのぉ。」


「はい。それにこれから生きていくこの子達を守護する神様がまた減ってしまいましたからね。」


「うむ。また神堕ちとはのう。世界はどうなってしまうのやら。」


(!!! 神様が一人減ったってやっぱりあの人神様だったのか。でも他にあの場所に人なんて居なかったはずなのになんで知ってるんだ?)


ミルクを飲み終え、ほっとしていた輪廻の心の中の疑問に答えることがあるはずもなく、二人の会話は、重い沈黙のまま終わった。



ここは、コンエアの街の修道院だった。輪廻の他に赤ん坊はいないが、十人程の5歳~15歳までの子供たちが暮らしていた。この世界では、16歳になると成人として認められる。だから、16歳になると修道院を後にし仕事を見つけ自分で暮らしていかなければならない。

中にはなかなか仕事を見つけられず、修道院に残る場合もあるが、大抵は半年もすれば巣立っていく。

輪廻は、精神の年齢と体の年齢の差に葛藤しながらもすくすくと育っていった。

中身がばれないように、静かに本など読んで過ごすことの多かった幼少期は静かでやんちゃをする事もなく、特に目立った子供ではなかった。

輪廻は、この世界の言葉や文字、文化を覚えていくのに必死だった。


言葉や文字は一歳に戻っているのだからスムーズに頭に入ってきた。

しかし、この世界独自の文化はなまじ前の世界の記憶がある分慣れるのが大変だった。


例えば、街を歩いていると人ではない種族が目にはいる。人と街に暮らす彼らは主に『獣人族』だ。他にも『魔族』や『エルフ』、『精霊族』等がいるがそれらの種族が人の住む街で暮らすのは稀だ。獣人族以外の種族は、基本的に人里離れた森の奥や聖域に集落を作り生活している。


ケーキース大陸には、6つの国がある。そして大陸の南部に位置するベビーザの国は他の国に比べても異種族の割合が少ない。

獣人族の国では獣人族の割合は90%、他の国でも多いところでは、30%位のところもあるが、 輪廻のいるベビーザの国は、 異種族は5%程度である。コンエアはベビーザの中でも王都ビザラスに次ぐ第2の都市であり人口は十数万に上るが異種族は少なく慣れる機会が少なかった。

異種族と人の関係は、表面上は友好的なものであるがそれは様々な法律や掟で縛られているからであり、お互いの心の中には種々のわだかまりや差別が残っていた。

更にこの世界には科学と言う概念が無く、魔法による発展を遂げた文化でそのことが輪廻に慣れることを難しくしている要因であった。

全ての人が魔法を使える訳ではないが、殆どの人が初級程度の魔法は使える。また、魔法を使えない人もそれに類似する魔道具を使いこなしその不便さを埋めていた。

輪廻はそのどちらも使ったことがない。し修道院には高価な魔道具はあるはずもなく、町中で見たことがある位の知識しかなかった。

この世界の様々な事に不安を覚えながらも、輪廻が修道院を巣立つ日は着実に近づいているのだった。


「考えてばかりいても仕方ないな。明日はオルガさんに魔法の初歩教えてもらうように頼んだし、今日はもう寝よう。」


そう言って16歳の誕生日の近づいている輪廻は手元のランプを吹き消し、目を閉じるのだった。

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