ある友人との語らい
もはや言うまでもなく困っているので困っていることは省略しておく。
ただし、今回困り事は少し質が違うのだ。
「遠賀川~、合コン行こうぜ~!」
「……貴様、俺の状況分かって言ってんだろうな?」
海老津幸介、二十一歳、大学生。
髪を赤く染めて今どきの服装をしているそいつは、大学での数少ない俺の友人である。
ただし、凄まじくちゃらんぽらんな性格をしており、面倒事を運んでくることも多い。
あい? 友達が少ない理由?
実を言いますと、私には最強の人避けがありましてですね、片っ端から近寄る人間を追っ払ってくれるのですよ。
……ええ、入学式直後のセミナーに乱入してくれましたよ。それ以来、すっかりあいつは嫁扱いですよ。
…………あれ、でもあいつ、あの時高校あったよな?
とにかく、そんな中でもめげずに声をかけてきたのがこいつなのだ。
見た目の割に真面目だから、たまに講義のノートを写させてもらう事も出来る意外と便利な奴である。
……今みたいなことが無ければだが。
「頼むよ、遠賀川! 頭数が足りないんだよ! 俺を助けると思って頼む!」
「……だから、それを何で俺に頼むんだよ。知っての通り、俺にはべったりくっついている家猫が居るんだが」
「あ~、いや、それはだな……」
歯切れの悪い返事をする海老津。
こいつ、交友関係そんなに狭くない筈なんだがな。超真面目君からDQN寸前のヤンキーまで友人がいるくらいだし。
それに、合コンだとかその手のものに関しては切り札とも呼べる奴が居る。
「福間に頼めば良いじゃねえかよ。あいつを連れて行けば女子も釣れるだろうが」
「そのためにお前が必要なんだよ!」
訳がわからねえ。何であいつを呼ぶのに俺が必要なんだよ……
まあ、奴のことだ。どうせ訳の分からん理由なのだろう。
「……で、奴は何て言ってたんだ?」
「超ストレート。遠賀川が行かないんなら行かない、だとさ」
……マジで訳がわからねえ。理由ぐらいちゃんと言えよ。
つーか、海老津も理由ぐらいしっかり聞いて来い。
まあ、いずれにしても結論は一つだ。
「相変わらず何考えてるかわかんねえな、あいつ」
「見た目はイケメンなのにな……」
全くだ。奴のせいで俺達がどれだけの被害を被ったことか……
等と考えていると、横から件の男が近づいてきた。
「やあ遠賀川、合コン行かないかい?」
福間湊、二十歳、大学生。
俺の友人にして最大のトラブルメーカーである。
性質の悪いことに、引き寄せるトラブルは全てがこいつの故意的なもので、どう見ても愉快犯的犯行を繰り返すのだ。
そんなひねくれた性格とは裏腹に、誰が見てもイケメンと呼べるような見た目をしているのでかなりモテるのだ。
おまけにスーツスタイルの服を好むため、どこぞのホストのようになっている。
欠点があるとすれば、少々顔立ちが幼いことくらいか。
俺と福間が友人になったのは、俺と美奈の関係を面白がってつっつき回してきたことがきっかけだ。
こいつはこいつで無駄に頭が回るから、困ったときの相談役にはちょうど良い。
……ただし、それ以上の災厄を運んでくるから困ったものだ。
「……今ちょうどその話をしてたんだよ」
海老津は面倒くさそうに福間に対応する。
こいつも福間のわけわかめな行動の被害者なので、この反応も頷ける。
……その内被害者の会でも作ってやろうかしら。
それはさておき、理由を問いただしてみるか。
「おい、お前俺を合コンに誘うとか何を考えてんだよ?」
「ん? だって面白そうじゃないか。遠賀川に興味を持った女の子が話しかけて良い雰囲気になったところで君のお嫁さんが乱入して修羅場になるとかさ」
「よし分かった、一発殴らせろ」
案の定、ろくなもんじゃねえ。
涼しい顔の福間を殴ろうとすると、奴はサッと俺の射程範囲外へと逃げる。
「おっと、暴力は良くないな。そうは思わないかい、海老津?」
「いや、お前はいっぺん殴られておけ。流石にそれはないわ」
「酷いなぁ、二人とも」
「「お前の発想のほうが酷いわ!!」」
拗ねた表情をしても許さん。
ただでさえ手が掛かるのに、これ以上面倒を起こされたら堪ったもんじゃない。
しかし俺達の抗議の声を華麗にスルーして、福間は海老津に話しかけた。
「それはそうと海老津、君は何で僕を誘おう何て考えたのかね? 僕がそういうのあんまり好きじゃないの知ってるだろう?」
「あ~……いや、それはだな」
「ああ良い、分かってるよ。遠賀川に声をかけた時点で大体分かってるから。どうせ僕が行くってことで女の子を釣ったんだろう?」
「分かってんなら聞くんじゃねえよ!」
嫌味な笑みを浮かべる福間に、海老津が机の天板を引っぱたく。
……マジで性質が悪いな、こいつ。
「……お前、ホントに性格悪いな」
「良いじゃないか。少しひねた奴がその場をかき乱した方が人生面白いだろう?」
「俺はもう間に合ってんだよ。ただでさえややこしいのにこれ以上ややこしくするな」
「嫌だね。それじゃあ僕が面白くないじゃないか」
悪びれる様子など全く見せずに福間はそう話す。
……頭、いてえ。うちの家猫にだって手を焼いてるのに、何でこいつなんぞに苦労させられなきゃならんのか?
俺が頭を抱えていると、福間は何か思い出したように俺の顔を見た。
……うわぁ、にこやかな顔。こういう時は大概ろくな事にならない。
「あ、そうそう。こないだ君の隣に居た女の人、あれは誰だい?」
「ん? いつの話だ?」
「先週の金曜日の話だよ。スーパーで一緒に出てきた綺麗な女の人と話をしてたじゃないか」
「あにぃ!?」
福間の言葉に、海老津が過剰反応を示す。
はて……先週の金曜日……スーパー……ああ、なるほど。
「……あ~、由紀さんかな? 俺の兄貴の嫁さんの妹」
「何だ、嫁をほっぽって新しく女でも作ったのかと思ったぜ」
「いいや、分からないよ? その人、遠賀川にべったりくっついてたし。そう、例えるなら付き合いたてのカップルの様に」
べったりくっついていたって、あれは由紀さんから一方的に絡まれただけである。
由紀さん、たまにすごい事言うんだよな。
「荷物持たなくていいから私運んで」と言いながら後ろから抱き着いてきたりな。
……拙い、うちの家猫と同レベルじゃねえか。
「あぁん!? おいテメエ、あんな可愛い嫁が居るってのに浮気しやがったのか!?」
「話をややこしくするんじゃねえ、テメエら! ありゃ由紀さんのスキンシップが過剰なだけだ」
「リア充死ねえ!」
「ぐはっ!?」
いってぇ……海老津の奴、思いっきり→ストレート振り抜きやがって……
それから福間、テメエは後で殴る。
と思っていたら、福間は心底愉快そうに笑ってやがる。
「くっくっく、やっぱりモテるんだねえ、遠賀川も」
「……何の話だよ、福間?」
「君、実は結構人気なんだよ? 何だかんだ言っても包容力があって優しい男だってね。彼氏にするんならあんな人が良いって結構言われてるんだよ?」
福間は楽しそうに俺にそう言った。
……ああ、俺そのオチ読めたわ。
「それ、人気があってもその前に『嫁が居なけりゃ』が付くだろうが」
「正解。嫁が居なけりゃ優良物件なのに、って言うのが君の評価さ」
「そうかい」
……ぶっちゃけどうでも良い。
というか、嫁が居なけりゃと付いている時点でその評価は欠片も意味をもたねえ。
おまけに、知りもしない相手にモテても正直困る。
と、考えていたら横から猛烈な殺気が漂ってきた。
「ケッ、余裕ぶっこきやがって。彼女持ちの余裕か、おお!?」
おもっくそ睨んでくる海老津。
……ええい、醜い嫉妬の視線をこっちに向けるな、見苦しい。
「……お前な、ほとんど話した事も無いような奴にモテて嬉しいか?」
「嬉しいに決まってんだろ! むしろお前の感性を疑うぜ?」
「それは正しく恋人持ちの意見だね、遠賀川。モテない男は見ず知らずの女の子に好きだと言われたら、余程のことが無い限り考えるものさ。場合によっては、その場でOKしてしまうかもしれないものだよ。君の場合、知り合いに親しくて可愛い女の子が居るから他に目が行かないだけさ」
魂の叫びを放つ海老津に、冷静に言い放つ福間。
……俺の方がおかしいのか、これ?
「そんなもんかねえ?」
「テメエらには持たざるものの気持ちなんざわかんねえよ」
「おや、僕を遠賀川と一緒にされるのは心外だね。僕は数は多くても、遠賀川ほど質には恵まれてないよ」
「こちとら数すら無いわボケェ!」
腰の入った右フックが福間の側頭部に突き刺さる。
おお、おお、良いパンチだ。いいぞ、もっとやれ。
「あいたぁ!? 殴ることは無いだろう!?」
「黙らっしゃい! モテない男の恨みを思い知れ!」
その場で殴り合いを始める福間と海老津。
……これじゃあ話が進まん。
二人に一発ずつボディーブローを入れて話に引き戻す。
「おうっ!?」
「げふっ!?」
「お前ら殴り合ってたら話が進まねえだろうが」
「だ、だからって腹を殴ることは無いだろう……」
「ホント、時々容赦ねえよな、遠賀川……」
腹を押さえて苦しげに俺を見る二人。
やかましい、こうした方が早いだろうが。
そんなことよりさっさと話に戻るとしよう。
「で、大本の話に戻るぞ。海老津は先方に福間が行くって既に言っちまって、その福間は俺が参加することが出席の条件なんだな?」
「まあそんな感じだね。要するに、海老津の面目が保てるかどうかは君に掛かっているわけだ」
「……何かおかしい気もするがそう言うこった。頼む、遠賀川。参加してくれ」
ニヤニヤと笑う福間に、土下座をせんばかりの勢いで頭を下げる海老津。
……やれやれ、仕方が無い。友人なら助け合わないとな。
「……うちの家猫に後でお前らが説得するなら参加してやる」
「OK! そんぐらいならお安いもんだ!」
飛び上がって大げさに喜ぶ海老津。
……喜ぶのは良いが、ちゃんと説得しろよ。
「うんうん、これで面白くなってきたな」
楽しそうに笑う福間。
……こいつは少々大人しくしていて欲しいものだ。
「で、その合コンってのはいつ何処でやるんだ?」
「駅前の居酒屋で、明日の夜六時から」
「随分急だな、おい。まあ、特に予定も無いから良いけどよ」
「サンキュ! んじゃ、明日は宜しく頼むぜ!」
海老津はそう言いながら走り去っていく。
どうやらまだ何かすることがあるらしい。
さて、俺は今のうちに釘を刺しておくとしよう。
「おい、福間。お前当日俺を盾にして逃げやがったら殺すからな」
そう、こいつは合コンとかで面倒になったら相手にしていた女子を人に押し付ける悪癖があるのだ。
その被害はもちろん俺も海老津も経験済みである。
俺が釘を刺すと、福間はつまらなさそうに口を尖らせた。
「えー……君が一番良い身代わりなんだけどなぁ……後が面白いし」
「俺は面白くも何ともねえんだよ!」
こいつ、もう一度殴っておこう。
大学が終わって帰宅。
……鍵が開いてやがる。こりゃ絶対に居るな。
「ただいま~」
「遅い」
部屋のドアを開けると、家猫が憮然とした表情でそこに座っていた。
……こいつ、俺が帰ってくるまで待っていたな。暇な奴め。
ちっこい美奈は、帰ってきた俺を見るなり首にぶら下がってきた。重い。
「遅いって、五限まであったんだから仕方ないだろうが……」
「じゃあ取らないで」
「必修科目だから無理だっての」
「それじゃあ私が大学に行く」
「やめなさい」
頼むからやめて欲しい。お前の顔、俺の同期どころか教授にまで知られてんだからな。
にっこり笑ってお説教とかもう勘弁だ。
などと思っていたら美奈は頬を膨らませて俺の腰に脚を巻きつけてきた。
「……わがまま」
「どっちがだよ……っ!?」
突如として頬にぬめりとした柔らかい感覚。
美奈が俺の頬を舐め回しているのだ。
どうやら俺が居なくて余程寂しかった様だ。
「構って」
「やれやれ……分かったからいったん降りてくれ」
「うにゅ……」
頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めて俺から離れる。
こっちが立っているのに張り付いてくるときは大概寂しい時だから、軽く構ってやって満足すれば離れるのだ。
「おなか空いた」
「んじゃ、とっとと飯作るか」
「遅いから作った」
「なんと」
怠惰の化身とも思われる家猫が料理作って待ってるとは、こいつぁびっくりだぁね。
でもまあ、こいつだって気まぐれでそう言うこともするのだろう。
ちらりと見やると、美奈は期待に満ちた表情で俺の服の袖を引っ張ってくる。
「褒めて」
「えらいえらい」
「にへへ」
頭を撫でてやると美奈は満面の笑みを浮かべた。
……そうだな、今日は「退け」とは言わないでおいてやるか。
その後、合コンに行く旨を伝えたら一気に不機嫌になったことを付け加えておく。
……ちくせう、思いっきり噛みやがって。
主人公の男友達登場。
美奈が居ない時は大体この3人がつるみます。




