お兄ちゃん、雪だるまなのに……寝てる、の……?
その夜、雪の宮殿には雪の精霊たちも眠りに落ち、
氷の壁も凍ったままの沈黙に包まれていた。
スノレイナは、そっと起き上がった。
夢を見ていた。
お兄ちゃんが白狼と空を飛びながら「のだぁあああ♡」と絶叫していた夢だった。
寝ながら笑ってはいけないと思い、そっと寝室を抜け出した。
静かに、兄の部屋の前に立つ。
扉を押し開けると――
そこには、衝撃的な光景があった。
⸻
■ 寝てるレイ(問題児仕様)
レイは――
完璧なドヤ顔で、仰向けで、胸を張り、片手を突き上げたポーズで熟睡していた。
「……すぴー……のだぁ……♡
うへへ……褒めるのだぁ……のだぁ……マウントなのだぁ……」
顔は堂々。
口角はご満悦。
呼吸はなぜか鼻笛のような音を鳴らしており、全体的に眠りながら勝ち誇っていた。
スノレイナ、硬直。
「………………」
小さく、自分の腕を見た。
「……雪だるま、って……寝る、の……?」
⸻
■ 妹の中で何かが崩れた
スノレイナの中で、
静かに雪だるまの“あり方”に対する哲学的な崩壊が始まっていた。
(雪でできてるのに……)
(体温、ないはずなのに……)
(生物でもないのに……)
(……なんで、寝てるの……?)
「……むしろ……熟睡してる……の……
……なんで……手、あげてる……の……?」
兄の寝言がさらに続く。
「……吾輩が……一番なのだぁ……かき氷三杯食べれるのだぁ……
雪の王国で……吾輩が……唯一の……恋多き男……なのだぁ……のだぁ……♡」
「………………」
スノレイナ、そっとしゃがみ込んだ。
(……すごい……こんなに静かなのに……うるさい、の……)
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■ 観察する妹
彼女は雪の精でありながら、感情表現は控えめで、
基本的には淡々とした性格をしていた。
だが今、兄の寝姿という奇跡を前にして、あらゆる概念が揺らいでいた。
•なぜ雪だるまが寝るのか。
•そもそも兄は眠る必要があるのか。
•寝る時までポーズをとる意味は何なのか。
•あの鼻笛はどこから出ているのか。
「……お兄ちゃん、ほんとに……生き物、なの……?」
⸻
■ そっと毛布をかける
スノレイナは部屋の隅から毛布を一枚、よいしょと持ち上げた。
兄の姿はすでに半分はみ出していた。
「……すぐ、風邪ひく、の……
……たぶん、ひかない、けど……」
そっと、毛布をかける。
その瞬間――
「のだぁああああ!?!?吾輩は悪くないのだぁあああ!!ママが悪いのだぁあああ!!!」
レイ、飛び起きた。
スノレイナ、**びくっ!**と跳ねて数歩後ずさり。
「お、お兄ちゃん……!?ね、寝てた、の……?」
「の、のだっ!?スノレイナ!?なんでいるのだぁ!?
吾輩、何か夢の中で弁明してた気がするのだぁ!?!?」
「……お兄ちゃん、雪だるま、なのに……寝てた、の……」
「のだっ!?あたりまえなのだぁ!?寝ないと夢が見れないのだぁ!?夢見ないと成長できないのだぁ!!」
「……成長……する、の?」
「のだぁっ!美的進化なのだぁ!!」
⸻
■ 翌朝
スノレイナは朝の食卓で、静かにレイを見ていた。
レイは寝癖を直しながら、鼻歌交じりでかき氷を食べていた。
「えっへん♡寝る子は育つのだぁ♡美形も育つのだぁ♡」
雪の女王が、つぶやいた。
「……寝るというか、夢の中でも喋ってるだけのような……」
スノレイナは、ぽつりと呟いた。
「……雪だるまって……不思議、の……」
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エピローグ
その夜。
スノレイナは日記帳にそっと書いた。
「お兄ちゃん、雪だるま、なのに寝てた。
なんで……?
たぶん、寝なくても元気なのに……
でも、お兄ちゃんは……ずっと夢を見てるみたい、の。」
ページの端には、小さく落書きされた兄の絵。
ドヤ顔で寝ている、完璧なポーズの雪だるまが描かれていた。




