茶髪なマッチョは、マッチョな茶髪
智哉とその妹を自宅まで送り届けた後、和泉は北条と一緒に流川へ来ていた。
友永が調べていた『蓮』という人物について引き続き、調査するためだ。
それにしても、この警視はまったく、上の指示がどうだろうと好き勝手に動き回る人である。それが許されているのは紛れもない、彼の【実力】によるのだが……。
もっとも和泉としても自由気ままに動き回る時、この人がいると助かるのは事実だ。
「あの、北条警視。再度お訊ねしますが……どうして常に、僕についてこられるんですか?」
アメリカでの研修を終えて帰国してからというもの、彼は何かと和泉と行動を共にしたがる。
わかっている。面白いのが半分、心配なのが半分。
要するにかまいたいだけなのである。
彼は昔からそう、いわゆる【おかん】タイプなのだった。
しかし。彼にはめずらしく、すぐに反論がなかった。
何か変なものでも食べただろうか。いや、まさか。
「……え、何か言った?」
「ひょっとして智哉君に一目惚れしました? 警視好みの正統派美少年ですもんね。あの子、周君のお友達なんですよ。類は友を呼ぶってね……素直で可愛い子ですよ?」
「でしょうね」
絶対におかしい。
まぁいい。この人だって、物想いに耽ることがあるだろう。一応人間であるからには。
コインパーキングに車を止め、目指す店を探した。
「改めてお聞きしますけど、なんで僕についてこられるんですか?」
酔客や客引きがざわめく街中を歩きつつ、和泉は隣を歩く北条に問いかけた。
「あら、葵ちゃんあたりが一緒じゃ仕事にならなかったわよ? あの子だったら、ホステスの胸の谷間を見ただけで、卒倒しちゃいそうじゃない」
ごもっとも……。
和泉はあらためて、友永を襲ったカラーギャング達の影を探し、そして……彼の知人だというホステスから聞いた話を元に、流川に来ていた。
友永は【蓮】と名乗るホストについて調べていたらしい。
それが今回の一連の事件に関わりがあるのかどうかは、今のところ不明だが。
調べてみる価値はある、と考えた。
ちゃんと上司の許可はとってある。
「そういえば、少し前にひったくり事件があったのって……この辺りだったわよね?」
そう言われてみれば思い出した。
周がエセ彼女を連れて歩いていたあの日。そうだ。黒い服装をした2人組の少年がカバンをひったくって走り去った。
「あの時の賊も、今回の……友永さんを襲った犯人グループの一味でしょうか?」
和泉の問いかけに対し、北条はさぁね、と適当な返事をする。
ふと、和泉は思ったことをそのまま口にした。
「……北条警視」
「何よ?」
「何か、我々の知らない情報をつかんでますよね?」
特殊捜査班の隊長はニヤリ、と笑う。
「だったとしても、タダじゃ教えないわよ」
彼には彼の独自の情報提供者がいるに違いない。抜け目のないこの警視のことだから、わりと早い段階でいろいろと調べていたのだろう。
教えてください、と素直に頼むとロクでもない交換条件を提示されそうなので、黙っておくことにする。
すると。あら、と北条は嬉しそうな声を出す。
「あそこにも、こっちにも。今日はここらあたりが【厳戒態勢】区域みたいね」
和泉もあたりを見回した。
制服警官がちらほら。それに加えて、幾人か見たことのある人物がいる。
応援に駆り出された県警職員に違いない。
カラーギャング達の出没に備え、見張っているのだ。
「……鑑識課の相原班長がおっしゃっていたそうですよ。まるで『もぐら叩き』みたいだって」
「何それ、神出鬼没ってこと?」
「それはあなたのことですよ、警視。そうじゃなくて……予測したのとはまったく違う場所に出没する……そう、まるで誰かが情報を流しているかのようにね」
少し前から感じていた。
去年の11月頃に起きた結婚詐欺師の殺害事件の折。容疑者の関係者へ捜査情報を漏らした刑事がいた。あの時と同じ、嫌な空気を感じている。
でも和泉は聡介には黙っていた。確信が持てるまでは言うまいと。
「……実はアタシも、そんな気がしていたのよ」
北条は天を見上げながら呟く。
「各地に網を張っているっていうのに、いつも裏をかかれるなんて……おかしいわ」
「実を申しますと。割と最近、同じようなことがあったんですよ。どこからか捜査情報が漏れているという疑いがありましてね」
「……その不埒者は?」
和泉が名前を口にしかけた時、驚いたことに本人がすぐ近くを歩いていた。
「あの男です」




