コンドロイチンでしたっけね、今なら青汁とセットでお得ですよ。
「で……あなた自身に心当たりがないとなると、ご家族かしらね?」
北条は逃げ去っていくチンピラ達を見送りながら呟く。
家族。
となると、それは兄しかいない。
だが。
いったい兄とチンピラ達の間に何の関わりがあるというのだろう。
その時、周はつい先日、円城寺から聞いた話を思い出した。
兄が素性の良くない男と接触していたのを見た、と。
「あ……そういえば……」
美咲が何か思い出したらしい。「去年の12月下旬なんですが、宮島の『白鴎館』っていう旅館に泊まった時……支倉さんって言う男性が……主人のことを訪ねてこられました」
「ご主人? 名前は」
「藤江賢司と言います」
言われてみれば確かに、そんなことがあった。
あの時、兄はひどく怒っていて、もう二度と顔を見せるなと怒鳴りつけていた記憶がある。
「確か、学生時代の同級生で……今度、同窓会をするとかなんとか」
「ご主人は今、どこ?」
「……安芸総合病院に、入院しています」
北条は黙りこみ、しばらく何か考えていたようだが、
「しばらくは絶対に一人で出歩かないで。昼間でも、人の多いところでもそう。何かあったらすぐに連絡して」
彼はポケットからスマートフォンを取り出した。番号を交換する。
なんだか、とんでもなく強い味方ができた気がした。
※※※※※※※※※
こんな仕事をしていると曜日の感覚が曖昧になってしまうのだが、そう言えば今日は土曜日だった。
周は学校が休みだろう。
あの兄貴の見舞いに、すぐ近くにあるあの病院に来ているだろうか。
兄の方には会いたくもないが、弟の方には会いたい。
上手くすれば少しぐらいの時間、食事は無理でも、お茶ぐらいはできるかもしれない。
ちょっとだけ現実逃避したくなってきた。
原田節子の遺品のDVD、中身を確認する作業だが、初め和泉は駿河に丸投げしようと考えていた。
が……父に叱られた。
別に和泉は何を見ても平気なのだが、さすがに何枚も同じものを見ていると飽きてくる。
早送りしても、いったいいつ終わるんだというぐらいの枚数がある。
「あら、楽しそうなもの見てるじゃない?」
そこへ特殊捜査班の隊長、北条警視が顔を出した。
「良かったら、警視もご覧になります? おもしろいですよ~」
「そうね、そうさせてもらおうかしら」
この人は時々、冗談が通じない。
彼は和泉の隣に腰を下ろすと、空いているデッキにソフトを挿しこんだ。
「面白いと言えば。あの子……周君だっけ? さっき、すぐそこで出会ったわよ」
「なんで、僕に連絡くれなかったんですか?!」
思いがけない名前が出てきて、和泉は思わず気色ばんだ。
北条は呆れた顔でこちらを見つめてくる。
「なにそれ。アタシにはそんな義務も義理もないわよ」
それはまったくその通りなのだが。
「……綺麗な女の人と一緒に歩いてたわ。あの子、年上の女性にモテるタイプね」
どうせ美咲のことだろう。
「あ、あとほら。いつだったかひったくりに遭った子。あの子が自分の父親に【彼氏】ですって、あの子のことを紹介してたわよ」
「なん、ですって……?!」
「世の中所詮、言ったもん勝ちよね~」
あはは、と北条は笑う。
和泉は思わず立ち上がった。
「どこ行くのよ?」
「抗議しに行くに決まってるでしょう?! 身元は割れてるんですよ!!」
座りなさい、と襟首をつかまれ引っ張られる。首が絞まるかと思った。
「そんなことより、もっと大変なことがあったわ」
思いの外、真剣な口調に只事ではないと和泉は悟った。
「あの子って確か、お兄さんがいたわよね」
「ええ、相当根性のねじ曲がった」
「あんたが言っても説得力がないわよ。それより、そいつ……何か爆弾でも抱えてるみたいね」
「膝か腰にですか? まだ若いのに」
「冗談言ってる場合じゃないのよ。支倉の手下が……あの子のお姉さんを略取しようしていたわ」
和泉は思わず、目の前に敵がいるかのような怒りにとらわれた。
「落ち着きなさい」
「……」
「これはアタシの勘だけど、何かいろいろヤバい情報とか、持ってるんじゃないかしら。例えばほら、このDVDみたいなソフトか、パソコンかタブレットか、もしくは……」
だから美咲を拉致し、人質にとって、その物証を手に入れようということか。
不安はいくつかあった。
仮に北条の読みが当たっていたとしても、あの男の見えない本音が、どう彼を動かすかわからない。
もしも美咲が人質に取られたとして、果たして賢司は大切なものを引き換えにしてでも彼女を救おうとするだろうか?




