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サザエさん症候群ってやつですな

「何かあったらすぐ連絡するように、言っておいたわ」

「警視……」


 その時。

「和泉さん……」

 壊れた機械のような声で、駿河が話しかけてきた。


挿絵(By みてみん)


「あと、何枚ありますか……?」

 ダメだこれは。既にHPが残りわずかだ。ダメージは大きい。


「ねぇ、葵ちゃん。一緒にお昼休憩行きましょうか? アタシが何かおいしいもの奢ってあげるわ」

 と、北条はヘッドフォンを外して立ち上がる。


「警視、僕は?」


「……聞こえない~っと。アタシ、耳が悪いから」

 嘘つけ!! 異常聴覚の持ち主のくせに!! しかも絶対音感付き!!


 行きましょ、と彼は駿河を連れて部屋を出て行ってしまった。


 あの警視は階級が階級だけに、収入も自分たちとは桁違いだ。


 彼が何か『おいしいもの』を奢ってくれるということはつまり、自腹で払うのは絶対に面倒くさい、高級なものを食べさせてくれるという意味である。


 羨ましいけど……まぁいいや。


 あの人と一緒にいると、半々なのだ。


 ホっとするの半分、昔のことを思いだして気分が重くなるの半分。



 どうでもいいが、藤江賢司が何を握っているというのだろう。


 和泉は画面をぼんやり見つめながら、スマートフォンを操作し、周に安否確認のメールを送った。

 すぐに返信がある。


 猫2匹を映した写真を添えて。

 

 元気そうで良かった。


 ※※※※※※※※※


 この頃、妹はすっかり元気がない。


 賢司の具合が良くないせいか、周は学校が終わると真っ直ぐ病院に向かっている。


 だから最近は、すっかり保育園に足を向けることがなくなった。


 そんな訳だから絵里香もしばらく周に会っていない。

 できる限り妹の要望には答えてやりたいのだが、限界がある。


 そのせいもあるのだろう。


 この頃絵里香は、保育園に行きたくない、とダダをこねるようになった。


 今日は日曜日だからいいが、明日の朝からまた気苦労の絶えない月曜日がやってくるのだろうか。


 昼過ぎ、絵里香がどこかへ連れて行けというので智哉は近くのショッピングセンターに来ていた。


 その帰り道、明日からのことを考えると自然に溜め息が漏れた。


「おかえり。今日は、どっか出かけてたの?」

 今やすっかり馴染みになった宇品東署地域課の津田巡査が声をかけてきた。

 今日も熱心にパトロールの最中らしい。自転車に跨っていた。


「こんにちは……」


「どうしたの、なんだか元気ないね」

 智哉はいつしかこの、少し年上の警察官に好感を覚えていた。


 今まで知っている人とは違う。


 友永もそうだけれど、彼を父と表現するなら、津田は兄と言ったところだろうか。


「いろいろありまして」

「だよね。俺も、君ぐらいの時はいろいろ悩んだもんだよ。特に進路のことはなぁ……」


「最初から県警に決めてた訳じゃないんですか?」

 彼は自転車を降り、手で押しながら智哉の歩くペースに合わせてくれた。


「俺、実は転職組なんだよ。脱サラしてね」

 知らなかった。


「津田さんはどうして、警官になろうと思ったんですか?」

 それはごく純粋な好奇心によるものだった。少なくとも智哉に他意はない。


 だけど。

 彼は急に表情を険しくし、立ち止まってしまった。


「あの……?」

 はっ、と我に帰った津田は苦笑しつつ、ごめんねと答える。


「大した理由じゃないよ。こんな時代だからさ、やっぱり公務員が一番安定してるし、比較的給料も良かったから……」


 意外だ。


 彼が自分達以外の地域住民と接触している姿を智哉も見たことがある。

 年配の人が重い荷物を持っていれば、率先して手伝っていたし、小さな子が交通法規を無視して危険な真似をしていたら、怒鳴りつけたりせず、優しく諭していた。


「嘘だぁ」と、智哉は思わず呟いていた。


 津田が驚いてこちらを見る。

 その表情が思いの外真剣だったので、これは正直に思ったことを伝えた方がいいと思った。


「だって津田さん、なるべくして警官になったって感じですよ? 優しくて親切で、なんていうか……模範的じゃないですか?」


 智哉としては最大限の賛辞のつもりだった。


 それなのに。

 津田は気まずそうに制帽を被り直し、再び自転車に跨る。


 何か悪いことを言っただろうか? 不安になる。


 ややあって彼は複雑な表情を浮かべ、言った。

「俺は君が思うほど、立派な人間じゃないよ。胸の内側にはいつも、怒りと憎しみと……悲しみが渦巻いて……」


 何を言おうとしているのだろう?


 智哉が黙っていると、

「あ、ごめんね。変なこと言って」


 ふと智哉には思いついたことがあった。

 どうせ母親は今日もいない。


 もう少し、この人に話を聞いて欲しい。


「あの、津田さん。今日はお仕事って何時までですか?」

「もうすぐ終わりだよ。今日は日勤だから」

「よ、良かったら家に、晩ご飯食べに来ませんか?」

 唐突だったかな? と、口にしてから智哉は少し後悔した。


 彼は少し驚いた顔をした後、

「……だったらさ、君達が俺の家に来ない?」と、微笑む。


「えっ? でも……迷惑じゃ……」

「迷惑だったら誘ったりしないだろ? それに、家には猫がいるよ」


「猫ちゃん?!」

 絵里香が素早く反応する。


 と、いうことで。

 智哉は近くのコンビニで飲み物やお菓子を買い、案内されるまま津田の住んでいるマンションに向かったのだった。

挿絵(By みてみん)


ここまで読んでくれた?

ありがとうね~♪

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