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少しは成長したんですよ、これでも。

「……昨夜は眠れましたか?」

 余計なことかと思ったが、駿河はどうしても訊ねずにはいられなかった。


 友永はこちらを振り返ることなく、

「寝不足はお互い様だろうが」


 言外に『気を遣うな』と言っているのだろう。


 結局、それ以外に言うべきことをみつけることができなくて、駿河は口を閉じた。


 今日は朝の捜査会議が行われ、それぞれのコンビに指示が与えられた。


 驚いたことに友永は自ら地取り捜査を志願した。駿河も特に不満はなかった。


 そこで2人は地取り捜査のため、遺体発見現場へ向かった。


 ちなみに今朝の会議で知らされたことだが、被害者である原田節子が息子だと信じて声をかけていた

人物の身元が特定された。

 安芸総合病院の整形外科医で、残念ながら本当に被害者とは他人同士だった。


 朝早い時間帯の流川の街は、夜の喧騒が嘘のように静まり帰っている。


 酔いつぶれた若い男がシャッターにもたれてのびていたり、野良猫がゴミ箱の残飯を漁っていたり、そんな光景が当たり前となっているこの町を歩いていると、度々知らない人間から声をかけられた。


 散髪屋の主人、雑貨屋の店番をしている中年女性、通りかかりの宅配業者。


 彼らは皆、相棒である友永の顔見知りのようだった。


 おそらく檀家だろう。随分と人脈が広い。


 駿河は彼のことを少し羨ましいと思った。情報提供者が多いに越したことはない。


 それも彼のキャラクターによるものだろうと思う。


 実際、友永が初めて行った飲み屋で、隣の席に座った見知らぬ男性といつの間にか世間話を始めていたり、親しくなったりしているのを何度か見たことがある。

 自分にはとうていできない芸当だとあきらめているが。


 自ら地取り捜査を志願したのは、この町に檀家が多いのも理由の一つだろう。


 彼は声をかけてきた民間人達に、原田節子の事件についての目撃情報を求めた。


 残念ながら現場を見た人はいなかったが、彼らが口を揃えて言うのは、この町で最近若いギャング達が抗争を繰り広げている、警察がなんとかしてくれ……と言う内容だ。

 おかげで人は寄りつかない、お客が減って商売あがったりだ。


 あの志乃というホステスも同じことを言っていたことを思い出す。


 それらのクレームというか、愚痴を適当にあしらうのがとても上手な相棒の手際を観察しながら、ふと駿河は思ったことを口にした。


「やはり例の、医療関係者限定で襲われる事件と関連があるのでしょうか? 昨日の会議では、節子さんが息子だと思って近づいた男性医師がギャングに襲われた際……その巻き添えに遭ったと……」

「関係あるだろうな」

「だとしたら、なぜターゲットが医療従事者に絞られるのでしょうか? ただの金品目当てなのだとしたら、他の職業でもよさそうなものですが」


「……」

「友永さん……?」

「……これは、ただの俺の推測っつーか……間違いないとは思うが。絶対にあいつが絡んでいるはずだ」


「あいつ?」

「支倉だ」


 その名前を何度聞いただろう。そして相棒が、その男に並みならぬ恨みを抱いていることも、少しだけ知っている。


 この人はまさか、県内で起きる事件のすべてに支倉が関わっているなんていう極端な見方をしていないだろうか? 駿河はやや危惧を覚えた。


「若いギャングどものことを、未来の暴力団構成員だって志乃が言ってただろ?」

 覚えている。


「もしかするとあいつは本当に……腕試しのつもりで、俺達警察に挑戦してるのかもしれないな。若い奴らに世間を引っかき回させて、果たして何人逮捕・検挙できるか……」


「まさか、そんな……」


「捜査に『まさか』はない、って班長がいつも言ってるだろうが。先入観を持つな、とも」

「それを言うなら、友永さんこそ【背後に支倉ありき】で語ってるじゃないですか。それに、なぜ医者なのか。その疑問の回答からは少し外れています」

 すると友永は何か苦いものを飲み込んだような表情をした。


「お前……最近、口が立つようになったな」


「恐れ入ります」


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