無意識だから困るんだよ~
一度捜査本部が設置されたら、家に帰れるなんて思うな。
それは長年の刑事生活における不文律だとわかっている。
そうやって刑事達は皆、家庭を、その他いろいろなものを犠牲にして仕事に生きてきた……。
なんかネガティブだなぁ、とものすごく遅い時間の夕飯を胃に詰め込みながら和泉はふと思った。
なぜだろう?
思い当たる節はいろいろあるが、先日の周との遣り取りが一番の原因だと思う。
まぁそれは、彼が将来的に同じ職業に就いてくれるというのは勝手なこっちの願望に過ぎない。
だったらいいな、というぐらいに気軽に考えておけばよかった。
だけど……。
聡介はいつかこの組織を去っていく。
そうなった時、誰が自分を支えてくれるのだろう?
ワガママというか、そんなのは自分の都合であってカイシャは何にもそんなこと気にもしてくれないだろう。
思えばあの時、自分も警察官であることを辞めて別の人生を送ることもできたはずだ。
なのにそうしなかったのはなぜだろう?
父に出会うためだった?
自問自答するが、結局のところ答えは得られなかった。
「聡さん、着替えを取ってきますね」
捜査本部に泊まり込みとなると、しばらくは家に帰れないので、着替えを用意してこなくてはならない。
「ああ、頼む」
駐車場に向かって歩いていた時、ふと思い出した。
そうだ、周から連絡があったのだ。
何度も電話をかけてきて、メールも届いた。よほど大切な話なのだろう。
まったく返信する余裕がなかったのと、嫌な予感がしてならなかったせいで、ついリアクションを先延ばしにしていた。
やっぱり保育士への道1本に進むことにしたから、余計なことを言うなとか?
フリだけのつもりだったけど、彼女のこと本気になっちゃったから、もう関わり合いになりたくないとか?
和泉は消極的な思考を振り払うために、頭を左右に振った。
車を運転し、マンションに到着した時点で既に午後10時半を回っていた。
まだ寝てはいないだろう、と隣室のドアチャイムを鳴らす。
ピンポーン。
すぐに「にゃーん」と、猫の鳴き声。
ほどなくして玄関の扉は開かれた。
パジャマ姿と思われる、スウェットの上下を着た周があらわれる。
「おかえりなさい……」
どこかぎこちない表情。
ああ、やっぱり決別の意を伝えるつもりなのか……。
「周君、こんな時間にごめんね」
何を言われるのだろうかと、この時点でもまだ嫌な予感がしている。
周は和泉の足元にまとわりついている猫を腕に抱き、こちらを見上げてきた。
そうして。
「あの……いろいろ話したいことがあるんだけど、時間は大丈夫?」
「うん。実はまた、仕事場に戻らないといけないんだけどね。少しなら平気だよ」
すると周は意を決したように、
「昨日は、ごめんなさい……」
驚いた。
予想に全く反していたので、つい頬が緩んでしまいそうになる。
「俺、どうしてあんなこと言ったのか……自分でもよくわからないけど……」
そして可愛い。
「電話とかメールじゃなくて、ちゃんと和泉さんの顔を見て謝ろうと思って」
嬉しすぎる。
そんなふうに言われたら、自分だって素直に謝ろうと思うじゃないか。
「僕の方こそ、勝手なこと言ってごめんね」
「それと、あのね……嘘ついてごめんなさい」
「何? 嘘って」
「……フリなのに『彼女』だって、紹介したこと……」
可愛い、可愛いすぎる。
どうしよう……鼻血が出そう……。
その時、自分がどんな表情をしていたのかわからないが、周はやや引き気味な様子を見せている。
「わかってるよ!! 周君のハートは僕だけのものだもんね?!」
「……」
なんだろう? この微妙な空気。




