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Q:お好みは? A:ミンチ


 4356文字


 人間の援軍である超大型船が到着する前日。つまり、開戦から四日目の夕暮れ。膠着状態の続くラサンの街近くにある森。八メートルと背の高い木々が生い茂る森から三人の魔族が出てきた。森は街の東南方向にあり、遠目から見下ろせる位には高低差がある

 その内の一人、唯一の女魔族が森を出て、街を目視した瞬間四つん這いに伏せる。その者が着ているのはいわゆる修道服であり。髪の毛を一切見せない黒のベールと、身を覆う真っ黒の修道着。十字架等の装飾品は一切見れない為、皮膚とあわせれば全身が真っ黒になっている

 その表情には明らかな疲労の色が見て取れた。荒い息と共に汗が滴る


「ら、ラサンは遠過ぎぃ……はあはあ」

「だから言っただろシスター。アンタだと中々ツラい道のりになるって」


 そう言いつつシスターの背中をさする男魔族。ベリーショートの白髪で三人の中では一番身長が高い。脛くらいのブーツに緑のカーゴパンツ。白のシャツに黒いロングコートを着ていた

 三人の荷物を一人で持っているのか自信の身長の二倍ありそうなリュックを背負っている。披露している様には全く見えなかった


「ワイアット、今日はもう休みましょう。アリアナも限界です。野営の準備をお願いできますか?」


 ワイアットと呼ばれた男は頷いてさすっていた手を止め、立ち上がる。左手をヒラヒラと振って答えるとリュックを降ろし準備を始めた


「悪いねぇワイアット。アイザックも」

「これも貴女からの依頼ですからね。払われた金額分は働きますとも」


 現金なことを言ったアイザックは、ワイアットが降ろした巨大なリュックから飲み水とカップを取り出し三人分注ぐ

 肩まで伸びた灰色の髪をオールバックにしているからなのか、注ぐ姿はまるで執事の様だ。しかし、その服装はそれとはほど遠く。擦り切れたシャツとパンツに、ボロボロの丈の短いジャケット。全身を灰色に染めた格好は見窄らしい


「飲めますか?」

「飲めるぅ」

「解りませんね。貴女アリアナの喋りかたのなにが良くてソフィーは似せているのでしょうか?」


 水を飲んでいるアリアナは答えず、ワイアットは黙々と野営の準備を進めている。誰からの返事も無い事を確認するとアイザックは小さく笑ってラサンを見下ろした

 小さくだがラサンを囲う様に七隻の船が沖に待機しているのを見て首を傾げる。アイザックの反応を見て呼吸が整ってきたアリアナもラサンを見た


「どこかおかしい所でもあるぅ?」

「相変わらず馬鹿正直に異常性癖者ヴァーニアの言う事を守っている思考停止な所は変わりありませんが、突撃してくる事しか能の無い人間がお預けを食らった犬の様に黙って待機しているのが不思議で堪りませんね」

「相変わらず物腰低い口調して言う事はハードだねぇ。ソフィーも前に言ってたじゃないかぁ。人は学ぶ生き物だとねぇ」


「私からしたらまだ獣人の方が学習能力が高いと思いますけどね」


 鼻で笑うアイザックにアリアナは肩をすくめ手首を横に振った。大変人を見下した態度を取ったままの友人を置いて野営の準備をしている方の友人の元へ向かう

 ワイアットの方は、薪すらも入っているリュックから火打ち石を取り出し火を起こしている真っ最中。松ぼっくりにも似たものを着火材の代わりにして優しく息を吐いている

 雑用を全て任せているのにも関わらず、嫌な顔を全くしていなかった。寧ろそれが出来て楽しいと言わんばかりにこなしている


「悪いねぇ。いつも雑用ばっかでぇ」

「おお、おお。気にすんな。俺にできる事と言ったら、雑用と戦闘くらいだ。さて、火もついたし、夕飯はもう少しかかる。ゆっくりしててくれ」

「なら私が火を見ていようかぁ? 私は雑用の、更に雑用しかできないからねぇ」


 「おお、なら頼むわ」二カッと笑ってワイアットはリュックのサイドに括り付けていた鳥を二羽持ち出す。既に頭はなく、血抜きが完了している鳥の同体には一つの風穴が空いていた。見たこと無かった夕食の材料にアリアナが首を傾げる


「そんなのいつ獲ったぁ?」

「ん? 昼間。息の良さそうなのが飛んでたからな」


 更に鍋と水、カメラの三脚の様な道具を取り出し、焚き火の周りに三脚を立てると三脚の頂点から水入りの鍋を吊った


「アリアナ。羽毟れる?」

「無理ですぅ」

「だよな」


 残念そうに溜め息をついたワイアットがぬるま湯となった鍋に付けながら毛を毟り始める。毟っている光景を目にするのは大丈夫だったアリアナが、鳥に空いた風穴を見つけた


「本当に良いスキルだなぁ。私のより使い勝手が良くてぇ」

「使い勝手ていうか、お前のはヴァーニアに使用を禁止されてるだろ。使えねーじゃん。次勝手に使ったら問答無用で殺されるじゃん」

「ふふぅ、ヴァーニアも解ってないよねぇ。私のスキルは世界を平和にできる力があるって言うのにさぁ」


「俺はそうは思わないけどな。どちらかと言うならば争いが増える気がする」

「夢が無いねぇ。ワイアットは考えたこと無いぃ? 私のスキルで世界のーー」

「アリアナ。くだらない話してないで羽を毟るの手伝ったらどうです? 夕飯が早くなりますよ?」


 アリアナの「依頼主は私ぃ」という言葉に続き、ワイアットが「ならお前がやれ」と言ったため墓穴を掘ったアイザックが二羽目の鳥の羽を毟る事となった

 鳥を次々さばき内臓を取り出していく横で二匹目の羽を毟っているアイザックがアリアナの言いかけた事への返答をする


「貴女はもうそろそろ私たちを自身の宗教への勧誘をやめてはくれませんかね。興味ないんですよ」

「そんなぁ、我らの主は何時如何なる時も改心をお許しになられますよぉ?」

「大体そんなに教えを説いたいのでしたら、異常性癖者の誘いを受けて魔王になれば良かったじゃないですか。魔王ともなれば簡単に信者を増やす事も可能だったはずですよ? ワイアット毟り終わりました」


 短くお礼を一手に蟇目の内臓を取り出し始める


「それはただの洗脳に近いからやりたくないんですぅ」

「俺にしたら宗教ってのはただの洗脳行為に等しいんだけどな」

「これだからぁ、無神論者って恐いねぇ。その考えは野蛮だよぉ」


 「すげぇ平行線だなこの会話」口調は違うもののワイアットとアイザックの口にした言葉が見事に重なった。ワイアットが綺麗にさばいた鶏肉を見て一言


「焼きますか? 煮ますか?」

「焼きですぅ」「焼きます」


 満場一致の指定で、胸肉、ササミ、もも肉、手羽先、ボンジリ、ハツを竹串に刺し焚き火の周りに刺して行く。そして鶏ガラとなった部位を鍋へと入れ、羽むしりとして減った分を付け足す様に水を加えた

 鼻歌交じりに料理をしているワイアット。料理を待つだけとなり眠気眼を擦るアリアナ。再びラサンを見下ろすアイザック


 次第に暗くなる中焚き火が光源を保つ。ふと、アイザックが背後にある自分らの光源以外を見つけた。それはなんと二カ所。西と東に別れ、仄かに確認できる程度だ

 確認しに行っても良いかと思った矢先


「アイザック飯出来たぞ」


 という言葉に、アイザックは直ぐさまその思考を閉じた


「串焼きの方はじっくり焼いたから中までしっかりと火が通ってるはずだ。スープは明日の朝が一番うまいかもだが、まあいけるだろ」

「確かにこれは美味いねぇ!」

「悪くないですね」


 出来栄えの話をしている最中からがっつく二人に続きワイアットも慌てて食べ始める

 料理は瞬く間に減っていき食事を始めてからものの十数分で完食されてしまった。三人は食べ終えると焚き火を囲って、大の字に寝転がり空を見上げる


「中々宗教への勧誘が鬱陶しい依頼だったが明日で終わりだな」

「ああ、確かにそうですね。本当に面倒な仕事でした。まあ、今日で料理を用意してくれる使用人が居なくなるのも悲しいものです」

「そう言えば、ラサンに何しに行くのか教えてもらってないけどアリアナ。お前そろそろ教えてくれても良いだろ」


 二人の疑問にアリアナは身体を起こして胸を張った


「ふふ〜ん! 信仰心の無い二人でも流石に教えてあげても良いかなぁ。まあ、お茶片手に話でもしようぅ」


 意気揚々のアリアナにお茶を頼まれ、黙って三人分用意する。満足げにお茶を飲むアリアナは終ぞ旅の理由を話し始めた


「私が旅を始めたのは他でもないぃ。戦争の起こっているラサンで私のスキルの有用性をヴァーニアに解ってもらう為ぇ」


 お茶を口に含んでいたワイアットは見事に口の中を全て吹き出し、啜ろうとしていたアイザックは吹き出した息によりお茶が顔面にかかった。のたうち回るアイザックの代わりにワイアットがアリアナに近づく


「アホかああああ! お前は! 事を考えろアホンダラ! お前のスキルを戦争中に、戦場の真ん中で発動したらどうなるか解ってますかねえ!?」

「もちろん! 範囲内のありとあらゆる人型の生物が私の体型、筋力、知能ありとあらゆる能力が平等となるぅ。それが私のスキル『平等ピース』の力だよぉ」

「ああもう! これだから貴女はキョウ心者の一人とか呼ばれるんですよ。どこが平和ピースですか。混沌カオスでしょうに」


「この場に居る全員がキョウ心者じゃんかぁ。なあぁ? ワイアット」

「俺はアンタより狂っちゃいないよ。……アイザック。俺はラサンに用があるから頼んでも良いか?」

「致し方ない糞依頼ですよ。解りましたとも! 私がこの馬鹿女を持って首都に戻りますとも!」


 いやいやぁ、帰りませんよぉ。と言わせる間もなくワイアットはアリアナの項を叩き気を失わせた


「猿轡と目隠し、後は身体を縛って今日の所は寝てしまいましょう。明日には持って帰ります」

「頼むわ」


 二人はワイアットが立てた簡易的なテントの中にアリアナを放り込むと、どちらが先に見張りをするか話し合う。結果としてアリアナを担いで帰るアイザックが先に見張りをして、朝の体力を残しておく事になった


「アイザックはホントに可哀想だな」


 横になったワイアットの呟きが静寂に包まれた夜に消えて行った


 〜   〜   〜


 夜が開け、空に明かみが射してきた頃。ついでに言うならば、ワイアットが朝食の準備を始めようかとした頃。気のせいかと思う様な些細な振動を感じた。そして、気のせいの様な振動が確信に変わる時。見えた

 八メートルの木を越える位置に緑色の頭が、その下には一つしか無い目玉。振動がどんどんと大きくなっていく。しかしそれは一つではない。大群だった

 見えただけでまだ距離があると解ったワイアットはテントで暢気に寝ているアイザックの頭を足で小突く


「アイザック。アレ見てみろよ」

「……なんですか。ご飯ですか? ん? 地面揺れてないですかね」


 文句を言いつつもワイアットが見ていたものを見る。眠そうだった目は、見たものを理解すると狩人の目になった。並んだ二人は実に楽しそうに、実に邪悪に微笑む

 魔獣種が最も産まれやすいサイクロプスの大軍勢がラサンに目掛けて真っ直ぐと進軍してきたのだ





 アイザックの口調の悪さは疲れますね

 サイクロプスとか色々言いたい事はあると思いますが、やや、やらなきゃいけない事です。

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