7 彼の理由
太陽が昇りはじめると共に、チトセは庭に出た。
エプロンをつけ、手にはバスケットと小さな細身の鋏を携えている。
庭の植え込みから、柔らかな緑の葉を茎ごと鋏で切り取り、収穫していく。切り口から清涼感のある香りが立ちこめた。ある程度収穫すると、次の株へ移動する。
移動を繰り返しながら、バスケットが半分ほど埋まったところで、布の仕切りを入れた。
次にチトセは、小振りな花をつけたコンテナに向かう。鋏をエプロンのポケットにしまうと、花首を指で直接摘み取った。
白い花びらに、盛り上がった黄色の花心を持つ花が、バスケットの中で甘く香る。
やがてバスケットがいっぱいになる頃には、チトセの指先は植物の汁で淡い緑に染まっていた。
「あの、」
立ち上がると、不意に背後から声がかかった。振り返ると、そこに少女が立っていた。
強い意志のこもった瞳が、朝の陽射しにきらめいて美しい。ゆるやかに肩にかかる黒髪が艶々と光の輪を浮かべていた。その眩しさにチトセは目を細める。
「チトセさん。私、決めました」
花のような唇から、決然と言葉が放たれる。
「私を、ここにおいてください」
そうして頭を下げた小雪の言葉に、チトセは少し驚いたようだった。彼の纏う空気が揺らぎ、穏やかな気配が増す。
「ああ。――よろしく頼む」
小雪の想像よりずっと柔らかな声音で、チトセが言った。
かくして、二人の共同生活は始まったのだった。
共に朝食を摂りながら、チトセは小雪の身体――「白雪姫」の主に機能的な面について説明をした。
曰く、「白雪姫」の動力はチトセの魔力であること。魔力が不足すると、感覚が段々と消えていき、特に痛みや温度を感じとることが出来なくなること。因みに、最終的には自力で動けなくなるらしい。きわめつけに、魔力不足を防ぐ為にはチトセとの接触が必要なことが判明した。
「ち、チトセさん?」
「……なんだ」
「接触、とは? というかなぜ接触を補給方法に……?」
もっと他にやりようがありそうなものだ。ツッコミを入れると、チトセはふい、と目を逸らした。フォークを口に加えたままの仕草は、どこか子どもじみている。
「チ、ト、セ、さん?」
じと、と小雪が視線を注ぐと、チトセは居心地が悪そうに身動ぎした。
「――――そ、その」
いやに長い沈黙のあと、無言の圧力に耐えかねたチトセが、観念した様子でぽつりとこぼす。
「……接触が、一番楽な方法だったからだ」
「本当に、それだけですか?」
言い渋ったにしてはまともな理由だった為、訝しんだ小雪はチトセを追及した。ぐいぐいとテーブルに身をのり出すと、その分チトセが身を引く。
「う……いや、その」
「その?」
「その……、――に、――――から、だ」
「え? あの、もう一回」
俯いたチトセの声が小さくて聞き取れない。小雪が聞き返すと、チトセの顔が音を出す勢いで赤く染まっていった。耳まで真っ赤になって、ぷるぷる震えている。
「し、『白雪姫』に、触る理由が欲しかったから、だ……!」
「え」
えぇええぇえ――!?




