表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の人形姫  作者: 銀シャリ
9/11

7 彼の理由

 太陽が昇りはじめると共に、チトセは庭に出た。

 エプロンをつけ、手にはバスケットと小さな細身の鋏を携えている。

 庭の植え込みから、柔らかな緑の葉を茎ごと鋏で切り取り、収穫していく。切り口から清涼感のある香りが立ちこめた。ある程度収穫すると、次の株へ移動する。

 移動を繰り返しながら、バスケットが半分ほど埋まったところで、布の仕切りを入れた。

 次にチトセは、小振りな花をつけたコンテナに向かう。鋏をエプロンのポケットにしまうと、花首を指で直接摘み取った。

 白い花びらに、盛り上がった黄色の花心を持つ花が、バスケットの中で甘く香る。

 やがてバスケットがいっぱいになる頃には、チトセの指先は植物の汁で淡い緑に染まっていた。

「あの、」

 立ち上がると、不意に背後から声がかかった。振り返ると、そこに少女が立っていた。

 強い意志のこもった瞳が、朝の陽射しにきらめいて美しい。ゆるやかに肩にかかる黒髪が艶々と光の輪を浮かべていた。その眩しさにチトセは目を細める。

「チトセさん。私、決めました」

 花のような唇から、決然と言葉が放たれる。


「私を、ここにおいてください」


 そうして頭を下げた小雪の言葉に、チトセは少し驚いたようだった。彼の纏う空気が揺らぎ、穏やかな気配が増す。

「ああ。――よろしく頼む」

 小雪の想像よりずっと柔らかな声音で、チトセが言った。

 かくして、二人の共同生活は始まったのだった。






 共に朝食を摂りながら、チトセは小雪の身体――「白雪姫」の主に機能的な面について説明をした。

 曰く、「白雪姫」の動力はチトセの魔力であること。魔力が不足すると、感覚が段々と消えていき、特に痛みや温度を感じとることが出来なくなること。因みに、最終的には自力で動けなくなるらしい。きわめつけに、魔力不足を防ぐ為にはチトセとの接触が必要なことが判明した。

「ち、チトセさん?」

「……なんだ」

「接触、とは? というかなぜ接触を補給方法に……?」

 もっと他にやりようがありそうなものだ。ツッコミを入れると、チトセはふい、と目を逸らした。フォークを口に加えたままの仕草は、どこか子どもじみている。

「チ、ト、セ、さん?」

 じと、と小雪が視線を注ぐと、チトセは居心地が悪そうに身動ぎした。

「――――そ、その」

 いやに長い沈黙のあと、無言の圧力に耐えかねたチトセが、観念した様子でぽつりとこぼす。

「……接触が、一番楽な方法だったからだ」

「本当に、それだけですか?」

 言い渋ったにしてはまともな理由だった為、訝しんだ小雪はチトセを追及した。ぐいぐいとテーブルに身をのり出すと、その分チトセが身を引く。

「う……いや、その」

「その?」

「その……、――に、――――から、だ」

「え? あの、もう一回」

 俯いたチトセの声が小さくて聞き取れない。小雪が聞き返すと、チトセの顔が音を出す勢いで赤く染まっていった。耳まで真っ赤になって、ぷるぷる震えている。

「し、『白雪姫』に、触る理由が欲しかったから、だ……!」

「え」

 えぇええぇえ――!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ