民主化の嵐
私はさらに身を乗り出して話を続ける。もともと、大学の政治学科だったから、こんな話ならいくらでもできる。ただし、そのキャリアが現実社会の役に立っためしはない。
「民主化の風について、説明をしなきゃいけませんね。これは1990年のベルリンの壁崩壊を合図にして、東欧から吹き出したものです。その原理はとても単純であり、社会主義の計画経済よりも、民主主義の資本経済の方が豊かな暮らしができるという、当たり前の事実に人々が気づいたのですね」
「ふむふむ」
「しかし、それは、中南米や中東ではまだ早いのです。だから、多くの革命は挫折しましたが……東欧の人々には資本主義の方がマッチする土台があったのです」
「民度の高さなのかね」
「いや、たまたま民族性の性質が合ったのだと思います。まあ、とはいっても、何の要因が民主化を促進させるかというのはまだ未知数ですが、結果として、東欧はドミノ倒しのように民主化しました」
「なるほど」
「プーチンが恐れていたのは、こういう時代の趨勢です。NATO拡大も勿論、その一環でありますが、独裁政権が成り立たなくなるのを恐れていたのです」
「で、ウクライナを速攻で攻めて、傀儡政権にして中立化を図ろうとしたのだな」
「はい。それで、プーチン帝国をあと数十年は続けようとしたのですが、今回の戦争で、強烈なこれまでにない経済封鎖をされました。これで、おそらくは彼の帝国は崩壊するでしょう」
「ふむふむ」
「仮に、この危機をやり過ごしたとしても、二波、三波と、民主化の波はロシアにやってきます」
「つまり、どう考えてもプーチンは詰んでいるってことだな」
「はい。そうですね。自他共に詰んでいる、と認められている私が言うのも何ですが、彼は詰んでいますね。確実に」
「静馬君」
大五郎は暫く押しだまってから、こう切り出す。生やしている髭がRPGに出てくる王様の髭のようであった。これは蛇足かもしれないが、私は、自由度が高いドラクエ型よりも自由度の狭いFF型の方が好きである。だから、四条大五郎が何か生きる指針をくれるのではないかと、変な期待というか、望みがあった。それは、別の意味で果たされることになるのであるが……それはまた後の話である。彼は苦悶の表情を浮かべるあまりに、眉毛が繋がりそうになっている。
「プーチンだけではない。君だけでもない。実は私も詰んでいるのだよ」
「えっ」
驚きの告白であった。




