たぶん、特別。①
聖女がカリーナの味方であることが分かり、ずいぶん気持ちが楽になった。
死亡フラグもどうにかなりそうだし、このまま平和に過ごせるのかもしれない。
死亡フラグがなくなったらどうしようかな。これだけ強大な力だもの、死亡フラグさえなければ、国の管理から抜けても平気だろうし、憧れていた冒険者みたいな生き方を選択することもできるかもしれない。
あの日、聖女と話す決断をした自分を褒めてあげたい。
……それに、そんな機会を図らずも作ってくれたレヴィ、背中を押してくれたシャフィには、感謝してもしきれない。
学園でヴェールを使う必要もなくなり、気楽な学園生活を送り始めていた。
「カリナ、帰ろ。」
「うん。……あ、今日は少し寄りたいところがあるんだけど。」
遠目にユイを確認して、教室を出る。
ユイには学園内ではあまり話しかけないようにしてもらっている。
原作プレイヤーである彼女のおかげで死亡フラグが管理できているとはいえ、表立っては、メインキャラとの接触はあまりしたくない。
放課後、週に何度か屋敷に足を運んでもらい、植物園でエリアヒールの特訓をしながら、時折他愛もない話をする。
ユイは憧れのカリーナ様との時間を嬉しそうにしているし、カリナも割とその時間を気に入っている。
レヴシオンは遠くから見守って、特訓の時間に付き合ってくれていたが、気づくといなくなっていることも増えた。
カリナとレヴシオンの関係は曖昧なものだ。護衛をすると言ってくれたレヴシオンが死亡フラグが無くなった時にいなくなってしまうのではないかと、視界からレヴシオンが消える度にカリナは不安を感じていた。
「カリナ、どこに寄るの?」
いつもと変わらない、あたたかくて優しい声。
この声に、ずっと支えられている。
「ずっと前にさ、お揃いのものを身につけようって言ってくれたこと覚えてる?」
「聖女騒動の日ね。結局買えなかったね。」
「今更だけどさ、レヴィの気がまだ変わってなければ、今日買いたいなと思って。」
レヴシオンがニヤリと笑う。
「確かに今更。もっと早く買うべきだったね。何にするか検討ついてるの?」
「とりあえずアクセサリーショップに行って一緒に悩もうかと思ってたんだけど。」
「いいね。行こう。」
カリナは乗り気のレヴシオンを見て安堵する。
実際は、さりげなく身につけられるピンキーリングがいいのではないかと思っていたが、ペアリングは少し重いようにも感じてしまい言い出せなかった。
そもそも、お揃いのアクセサリー自体、特別な間柄で身につけるものだ。それを許されているだけでもカリナには十分だった。
転生直後の混乱しているカリナを元気づけるためだったとはいえ、先にレヴシオンが提案をしてくれていたから、今回カリナからも提案する気になった。
この特別がずっと続きますようにと、こっそりと、願いを込めて。
「いろいろあるね。」
「レヴィはどんなのがいい?」
「僕はカリナとおんなじやつ。」
「ふふ。そうだね。身につけて邪魔じゃないものがいいよね。普段使いする?たまにつける?」
「たまにつける?ねえカリナ、カリナにはそんな選択肢あるの?僕は今日から肌身離さず身につけるよ。」
いつも通り甘々で応えてくれるレヴシオンをまともに見られなくなる。目には涙が溜まり、溢れそうになる。
カリナは口をキュッと結び、レヴシオンに悟られないように涙を鎮める。
ずいぶん自分勝手な想いだ。
いつまで一緒にいてくれるの?いつまで優しくしてくれるの?死亡フラグが消えたらその後はどうするの?いつか私以外にお気に入りを見つける日がくるの?
私は自分の不安を無くすためだけに彼にそばにいて欲しいのだ。自分のためだけに彼を欲している。
彼の長い人生の中で、私に使う時間はほんの少しだ。きっと願えば、優しい彼はその短い時間分、ずっと私のそばにいてくれる。それはすごい贅沢なことだ。それだけで十分なのに。
それに逆を言えば、彼の長い人生で私はすぐに消えてしまう存在だ。仮に人生で一番大切だと言われることがあったとしても、私がいなくなった後のことを思うと、彼の中の一番は積極的に更新するべきだし、私である必要はない。
「もちろん、肌身離さず身につけるよ。もっと素敵なデザインのものを見つけるまでね。」
「その時はまた一緒に買いにこよう。」
レヴィ、あなたのその言葉がどれだけ私を嬉しい気持ちで包み込んでいるのか分かってる?
「ピアスはどう?さりげないし小ぶりなものなら邪魔にならないよ。」
「それもいいね。ねえカリナ、でももっといいのがあるよ。」
「どれ?」
「指輪。」
手を自分の顔の前にあげ、その手の甲をカリナに向けて、指を逆の手で指差しながら、レヴシオンがあざとく笑う。
カリナはまた泣きそうになりながら笑う。
「ねえ、私もそう思ってた。」




