たぶん、主人公⑤
「みなさん、落ち着いてください。みなさんの気持ちは充分受け取りました。僕たちにはもったいないくらいです。」
見ると、聖女と言われている少女の隣に、緩やかなパーマのかかった黒髪の青年が増えている。
「黒髪の君だ!」
「なんて謙虚なんだ!」
「あんな感じだったか?」
「聖女様も隣にいるし彼に違いない!」
どうやら聖女役だけでなく、黒髪の君役も現れたらしい。
「あれ、レヴィ雰囲気変わったね。」
「僕の方がいい男だけどね。」
謙遜した態度をとっていた偽聖女とは異なり、偽黒髪の君には代行する意思が強く見られた。
「素敵な聖女様ですね。」
押し付けて良いものか思案していたカリナの耳にレティの呟きが聞こえた。
「そうだね、そうだよね。聖女様も黒髪の君も見つかってよかったね。」
カリナは事実とするためにそう口にする。
あれは私たちの仕業ではない。
あの二人の偉業なのだ。
「もう今の時間は屋敷に戻っていた、って方がカリナには都合いいんじゃない?」
「たしかに!急いで帰ろうか。」
「僕たちは聖女騒ぎを知らない。」
「うん、知るとしたら屋敷で耳にするんだよね。」
あの二人がどんな人物なのか、どうして代行してくれようとしているのかは分からないが、自分に疑いがかけられるのは困る。
帰ろう、と振り返ると、レティが口を開いた。
「カリナ様、私は残って聖女様をこの目で確認してまいります。」
カリナとレヴシオンはこの場にいない方が良い。が、レティがいる分には問題ない。
その上情報を持って帰ってきてくれるのだ。それならお願いしたほうが良いだろう。
「分かった。お願いするね。そしたらレヴィと二人で先に帰っているね。」
「はい、カリナ様。お気をつけて。レヴ様、カリナ様をよろしくお願いいたします。」
「うん、また屋敷でね。」
帰りの馬車で、レヴシオンがカリナに問いかけた。
「ねえカリナ、気づいた?」
「え、なんのこと?」
「あの聖女。レティも魅了されてたね。」
「そうなの?そんな魅力的には見えなかったけどな。レティちゃんそんなにご執心に見えた?」
「分からなかったか〜。」
「レヴィはそういうの敏感なんだね。」
「範囲内にいたから聖女の魔力が肌に当たったんだけど、カリナは知覚できなかったんだね。」
「……魔力?なんのこと?」
「だから魅了。」
「……聖女の能力?スキル的なやつ?」
「あの場にいたみんなかかってたと思うよ。」
驚いて言葉に詰まる。
え、魅力的とかでなく魅了?チャーム?
レティちゃんは魅了にかかってたからあの場に残ったの?
「また変な顔してる。」
ふふっと笑って、レヴシオンが続ける。
「あの聖女、カリナは近づかないようにした方がいいと思うよ。魅了にかかってないってバレたら厄介でしょ。」
「うん、そうだね。……私たちが魅了にかかってないのって、魔力量が多いから?」
「そう。僕たちの方が強いから。魅了にかからないってことはカリナは強いってバレちゃうよ。」
「なるほど……。魅了の範囲?とか、継続時間もわからないし、知り合わないのが一番だよね。」
偽物が出てきたことでホッと安心したのも束の間、彼らとの接触に気をつけて過ごさなければいけない上に、場合によってはいち早く魅了に気づいて演技をしなくてはならない。
ややこしいことになったなぁとカリナは肩をすくめた。
「彼女が聖女として祭り上げられるなら、上の方の人の管理下に置かれるだろうし、全く接点を持たないのは難しいだろうね。」
「魅了ってどれくらい効果あるんだろうね。レティちゃんに悪影響ないといいんだけど……。」
考え込む仕草をしたカリナに近づいて、レヴシオンが囁く。
「僕に魅了かけてみたら?カリナならできるでしょ?」
「えっ!!!」
「大体さ、高火力の魔法に加えてレアな回復魔法が使えるだけでおもしろいのにさ、ステルスまで使ったのはびっくりしたよ。多分魅了もできるでしょ。」
「待って、回復魔法ってレアなの?」
「レアだし、普通の人間は適性のある魔法しか使えないよ。まあ僕は大体のことできるけど。」
「ええ…。レヴィもカリーナちゃんもチートすぎるでしょ……。」
チートもここまでくると、カリーナはラスボスなのでは?と頭によぎる。いや、悪役令嬢だもんね。間違いなくラスボスか。
誰も死ななくていい優しいRPGがあったなあ。悪役令嬢に死亡フラグが立たない乙女ゲームもあるのかなあ。
カリナは馬車の窓に流れる景色を眺めながら、ピクセルゲームに思いを馳せた。




