たぶん、主人公④
想像していなかった展開に、カリナは咄嗟にレティを抱きしめる。
「レティちゃん、本当にごめんね。泣かないで。」
自分が泣かせるようなことをしてしまったのに、泣かないで、と声をかけるのは悪手に思うのだが、そんな言葉しかかけることができなかった。
「本当にごめんなさい。」
改めて頭を下げるカリナに、レティがやっと口を開く。
「カリナお嬢様は、お優しい人です。」
溢れてしまった涙を拭いながら続ける。
「けれど、その強大な力が貴女のものだと広まったり、国に敵対する意思があると見なされてしまったら、カリナ様の優しさを、彼らは仇で返してきますよ。」
「ごめんなさい……。」
レティの優しい怒りに、返す言葉もない。
なんとかなると思って行動して、なんとかなった。……今のところは。
けれど、今までカリーナがしなかったピアスを外して力を使う、という行動をとってしまったせいで、『もしも』の出来上がる状況を作ってしまったのだ。
「カリナ様とは昨日たくさんお話ししたきりです。偉そうに知っているような口はきけません。ですが、私は貴女のことを素敵な人だと思っています。カリーナ様に言われたからだけではありません。私自身がカリナ様のお側でお使えしたいと思っているんです。だから、貴女が傷つくかもしれない状況にしてほしくないのに、貴女があの状況を見逃せない人だって、分かってるんです……。」
レティの瞳から、ポロポロと涙がこぼれだした。
その真っ直ぐで純粋な、あたたかい気持ちに触れ、カリナの両目からも大粒の涙が流れた。
「レティちゃん、ごめんね。……ありがとう。」
ぐすっ、ぐすっ、と響く室内に、呑気な声が聞こえてくる。
「ねえ、着替えってそんなに時間かかるの?もう終わった?外、すごいことになってるけど。」
二人は目を見合わせると、自然と笑った。
「逃亡中でしたね。」
「ね、急ごうか。」
今行くよ、とレヴシオンに声をかけ扉へ向かうカリナの後ろで、もう一度レティが笑う。
「カリナ様。お時間いただいてありがとうございました。私は、カリナ様がどんな選択をなさっても、しっかりついてまいります。」
真っ赤な目の二人組が扉から出てくると、レヴシオンは二人の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「レヴィ、お待たせ。外、どんな感じ?」
「多分さ、誰も予想してない展開だと思うよ。運が良いってこういう時に使う言葉なのかな。」
「もしかして、コソコソしなくてよかったりする?」
「うん、コソコソしなくてよかったりする。まあ着替えたのも大きいけど。」
レヴシオンはニヤッと笑って今度はレティの頭だけ撫でた。
その目には、変装用のメガネがかけられていた。
「まあさ、外に出てみようよ。見た方がはやいと思う。」
三人は店員にお礼を言って店を出た。
すると、門の近くから歓声が上がり、先ほどまで散り散りになっていたはずの人々が、また集まっている様子が伺えた。
「え、なに?もしかして聖女様見つかった?」
カリナが冗談まじりに言うと、レティちゃんが驚いた顔で頷く。
「はい、カリナ様。どうやらそのようです。」
「え???」
いやいやいや、あなた達が探していた人物は私で、私はここにいるのでそこにいるはずはないんですが……?
しかし、歓声に混じり確かに「聖女様!」と喜びを含んだ声がたしかに聞こえてくる。
つまり、誰かがカリナの代わりに聖女役を買って出てくれたらしい。
人混みの隙間から、歓声の上がる中心を覗き込むと、そこには先ほどまでカリナが着ていたドレスとどことなく似ているドレスを着た人物が目に映った。
ピンクがかったブロンドヘアは背中まで垂れ、困ったような嬉しいような顔をした可愛らしい顔には、琥珀色の瞳がまあるくくっついている。
「いえ、私ではないんです〜。」
「謙遜しないでください!」
「我々は貴女にお礼をしたいだけなんです!」
「あなたでなければ他に誰がいると言うんだ!」
「いやあ……。」
自分ではない、と言っても収拾がつかない場面に困っているようにも見えるが、一方で楽しんでいるようにも見える。
もし満更でもないと思ってくれているのであれば押し付けてもいいかな?とカリナが思案していると、ワッと大きな歓声が上がった。




