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6話 その聖女、決意する


 

 祈りを終えて外に出ると、公国民の数がさらに増えていてぎゅうぎゅうになっていた。

 警備兵達がいなければもみくちゃになっていただろう。


 夜だというのに、小さな男の子の姿まで見受けられる。


 最前線でもじもじしている姿が気になって、話しかけてみることにした。

 しゃがんで子供の目線に合わせる。


「こんばんは。遅い時間なのに見に来てくれてありがとうございます」


 優しく微笑みかけると男の子はぽぽぽっと顔を赤くした。

 確かに人口密度が高くて熱くなるよねと心の中で思った。


「こ、こんばんは……」


 語尾がどんどん小さくなっていくが、後ろ手に何かをかくしてもじもじしているのは変わらない。

 一体何が男の子をそうしているのかが分からずに首をひねる。


「あっ! あの!! こ、これ!!」


 そういって男の子が出してきたのは小さな赤い花、一輪。

 ずっと握っていたせいか、少しだけしおれていたがきれいな花だった。


「きれいなお花ですね」

「せ、聖女様にお礼!! いつもありがとう!!」

「えっ。これを……私に?」


 私は瞬いた。誰かに贈り物をされたことなどなかったから。


「貰っていいのですか?」


 男の子はこくこくと何度も首を縦に振った。


「あ……ありがとうございます」


 嬉しい。

 私は大事にその花を受け取り心から微笑んだ。


 男の子は顔を赤くして親と思われる女性の後ろに隠れてしまった。


「はは。きれいな花ではないか。良かったなイレーネ」

「陛下。ええ、とても嬉しいです」


 陛下は隣に立つと花と私を交互に見る。


「うむ。イレーネ、その花を貸してもらえるだろうか」

「え? はい」


 陛下は何を思ったのか私の髪にその花をさして頷いた。


「うむ。やはりイレーネは花がよく似合う。きれいだ」

「へへへ陛下!?」


 耳元でささやかれ耳が熱くなる。

 耳だけじゃない。顔も真っ赤になっているだろう。


 私も悲鳴をあげたかったが、それよりも先に周囲から複数の悲鳴が上がった。

 見ればご婦人達がキラキラした目でこちらを見ていた。


(はっ。そういえばここ公国民がたくさんいる前でした!? は、恥ずかしい!!)


「あらあらあらあら~まあまあまあまあ~!! 仲の良いご夫婦だこと!!」


 男の子のお母さんが頬に手を当て満面の笑みでそうつぶやいたのが聞こえた。


「ふ、夫婦!? いえ、その」


(夫婦と言えばそう、ですけど。でも! まだその!)


 一人口をハクハクとしていると陛下に肩を抱かれる。


「夫婦、だろう?」


 熱っぽい視線に絡めとられるとうまく息ができなくなる。


「は、はひぃ」

「ははは。では視察を始めようか」


 私は顔を覆って馬車へと乗り込んだのだった。




「疲れていないか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」


 それからほかのエリアも3つ程回った。

 そのいずれでも国民の皆さんに囲まれ歓声を上げられ歓迎された。



 今はその帰り道。


「それなら良いが。それにしてもすごい量だな」


 陛下が指さすのは馬車の中に積まれた花束の山だ。

 国民の皆さんから送られたプレゼントである。


「皆さん本当にお優しい方ばかりで……とても嬉しいです。贈り物ってこんなに温かい気持ちになるのですね」

「それは何よりだ。……だが、君に花を贈りたかったのはオレも同じだ。だから少し複雑だな」


 陛下は少し困ったように微笑んだ。


「え?」

「君は優しいから、誰からの贈り物も受け入れるのだろう。けれど君を一番喜ばせるのはいつだってオレがいい。だから、あの男の子にも嫉妬しているのだ。……余裕のない男と、君は笑うだろうか」


 恥ずかしそうに頬を掻きながらそれでも眼を逸らさずに真っ直ぐに見つめられる。


(陛下も、私に花を?)


 贈り物は確かにとても嬉しかった。

 ただ、心のどこかでは陛下から花を頂けたら何よりうれしいだろうな、と思っていた。


 だから陛下がそう言ってくれて、飛び上がる程に嬉しさがこみ上げてくる。



 少しだけ欲を持ってもいいのだろうか。


「……では。陛下からのお花をお待ちしておりますね。その時はまた、髪にさしてくださいますか?」


 膝の上に置いた手に力がこもる。


 だけど何故か確信がある。

 陛下ならその願いをきっと叶えてくれると。


「ああ! その願い必ず叶えよう!」


 ほら、こんなにも笑って約束してくれる。

 私はそれだけでどれだけ救われているか。


 だから私はそれにむくいよう。

 受け入れてくれた陛下の為にも、彼が愛する国民の為にも。




 私は夜の聖女。この国、グレノス公国の夜の聖女だ。


 この国の夜は私が守る。

 そう決意し空を見上げれば丸い大きな月が美しい光でこの国を照らしてくれていた。




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