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電子書籍配信記念ss ルドニークの不調③

 

 キャンドルド聖神国にきてしばらく経ったある日、オレを助けてくれたオレンジ色の少女――ルイに聞かれた。



 どうしてそんなに力を欲しているのか、と。



 ルイはオレより三つ年上のようだが、姿はまだあどけなさが残る少女だった。

 けれど師匠の一番弟子らしく、剣の腕も信仰力も高い……もしかしたら聖女の力を手にするのではないかと、将来を有望視(ゆうぼうし)される人だった。



 オレとは違い、人望も、実力もある人。



 年齢が近いため一緒に行動させられることが多かったけれど、あまり話をすることはなかった。



 だってルイはオレとは正反対な人だ。


 なんでも持っているルイからすれば、みすぼらしく得体(えたい)の知れないオレとセットにされるなど、いい迷惑(めいわく)だろう。


 そんなオレと、個人的な話をしたがるわけがない。



 だから距離(きょり)をおいていた。

 ルイも必要以上に近づこうとしようとしていなかった。



 それなのにあの日から、ルイはオレについて回るようになった。



「ねえ~、答えてよ」

「……」

「あ、待ってってば!」



 どれだけ無視をして過ぎ去ろうとしても、ルイは執拗に追いかけてきた。


 部屋や訓練場は当たり前に、ひどいときは屋根の上や秘密ででかけた町にまで出没(しゅつぼつ)した。




「分かった。話す。話すからこれ以上ついてこないでくれ」




 オレはついに根負けし、全てを話すことにした。

 生まれも、育ちも、そして――イレーネのことも。




「――もう分かっただろう? オレと関わっていいことなんてない。だからもう、放っておいてほしい」



 オレと関われば不幸になる。

 そう知れば、きっとこれ以上ついてくることもない。そう思っていた。


 非難(ひなん)される準備だってしていた。


 自分が関われば不幸になるのなら、なぜ師匠の手を掴んだのか。

 そのせいでこっちにまで不幸が移るではないか、と――。



 開かれた小さな口からそんな言葉が出てくるのではないかと、体がこわばる。



「それじゃあルドニークは、その子を助けたいから力を求めているってこと?」

「……そうだ」

「じゃあもしも、自分をそんな目にあわせた人に復讐(ふくしゅう)する機会と、イレーネを助け出すチャンスが同時に訪れたら、あなたはどうする?」



 けれどルイの口から出てきたのは罵声(ばせい)ではなく、そんな質問だった。


 どうしてそんな問をかけてくるのか、それは分からなかった。

 けれど、答えなど考えるまでもない。



「イレーネを助ける。それ以外には考えられない」

「復讐したくないの?」


「復讐……したくないわけではないけど、オレには時間がない。そんなことする暇があるのなら、彼女を探すよ。……オレにできることはそれくらいだから」

「……そっか。()()()()()んだね」



 ルイはなにか、納得(なっとく)したような顔をしていた。

 そしてなぜかそれ以降、手を貸してくれるようになった。


 師匠が剣や魔法、政治などを教えてくれるのに対し、ルイは心の持ちようを教えてくれた。



 不安や悲しみに押しつぶされてしまいそうなときにどうすればいいのか、どうやってそれと見つめ合うのか。

 そういう心の在り方を、乗り越え方を教えてくれた。



 だから『イレーネはもう生きていないかもしれない』……。

 そんな嫌な想像を抱えつつも、ひたすら訓練に取り組むことができた。



 何が彼女に変化をもたらしたのかは分からない。

 それでも力を、知識を貸してくれるのはありがたかった。


 ……おせっかいすぎるというか、非常にうるさかったけれど…………。


―――

――



 そして師匠とルイに教えを請いながら、数年が経った。


 本当はすぐに追い出されると思っていた。

 けれど二人はその間、オレを追い出すことも、(しいた)げることもなかった。


 ……いや、二人だけじゃない。


 キャンドルド聖神国の民は皆、オレを受け入れ、庇護(ひご)し、育ててくれた。



 この国の人たちはドーラン王国のように、人を、オレを所有物(しょゆうぶつ)としてみていなかった。


 そこにあるのは、純粋な心配。

 たったそれだけのことで、オレを受け入れてくれたのだ。


 ……この人達を表す言葉があるのだとしたら、きっと『優しい』だろう。




 世界には優しさを与えてくれる人もいる――




 イレーネに出会って、知ったはずなのに。


 忘れてはいけない大切なことだと分かっていたはずなのに……、怒りや悲しみで曇ってしまっていた。

 そんなことすら、忘れていた。



 オレはイレーネの優しさで救われた。

 この国の人達のおかげで思いだせた。



 オレがそうであったように、優しい人達に救われる命は、きっとたくさんある。




 ……オレは優しい人が奪われるのは、傷つけられるのは嫌だ。

 どうかそのまままっすぐと生きていてほしいと願わずにはいられない。



 けれど……悪い奴らはいつだって彼らを狙う。



 だから守りきれるだけの力が欲しい。

 優しい人が踏みにじられないように、その優しさを捨てなくてもいいように。



 そう思うようになり、心が温度を取り戻したのを感じた。



 キャンドルド聖神国の皆はオレに、一人ですべてをやる必要はないということも教えてくれた。

 誰かを頼ることも、仲間を募ることも、力を合わせることも大切なことなのだと。


 誰かを守りたい、救いたい。


 自分のためではなく、誰かのために力を求めるのなら、助けてくれる人は必ずいると教えてくれた。



 そのおかげで、オレはドーラン王国で虐げられていた者達をまとめることができた。

 虐げられた人の気持ちは、オレにもよくわかったから。


 そして誰も彼も同じだと思っていたドーラン王国にも、優しい人がいたことを知った。

 ただ優しさ故に搾取(さくしゅ)されて、外に出せなかっただけなのだと。



 だったら、()()()()()()



 優しい人達がこれ以上苦しまないように。温かさを思い出せるように。

 国自体を変えてやる――。


 オレに関わったから不幸になるのなら、そうさせないようにもっと強くなろう。力も、心も。



 だからいつか――




 ◇



「……ん」



 (まぶた)を開くと、映ったのは見慣れた白い天井。

 落ち着いたワインレッドを基調(きちょう)にした部屋は、間違いなくグレノス公国の主、ルドニーク・グレノスの部屋だ。


 どうやら熱に浮かされて、悪夢を見ていたらしい。

 じっとりと肌に張り付く寝巻が気持ち悪い。


 だが汗をかいたおかげで、熱はだいぶ引いたみたいだ。



(……シャワーでも浴びてくるか)



 起き上がろうとして、ふと体に重みを感じる。

 横を見ると、会いたくて仕方がなかった人が、そこにはいた。


 ルビーを思わせる赤い瞳は閉じられ、規則的に上下する肩には絹のような白い髪がかかる。

 イレーネはオレの手を握りながら、すうすうと寝息を立てていた。


 ずっと傍にいてくれたのだろう。

 胸が温かくなった。



 ふと、その顔にカーテンで遮りきれなかった夕日が差し込んでいるのに気が付き、隙間(すきま)を閉めようと手を伸ばす。



「ん……」

「あ、起こしてしまったか」

「あれ、ルドニーク様?」



 寝ぼけ眼をこすりながら起き上がるイレーネは、思い出したようにオレの額に触れた。



「熱は……少しは下がったんでしょうか? ルドニーク様、ずっとうなされていたので心配していました。大丈夫ですか?」



 心配そうに見つめてくる双眸(そうぼう)に、ふと気が付く。



(そういえば、途中から寝苦しさが消えていたような……)



 いつもは最後まで苦痛で終わる夢が、今回は少し違っていた。


 悔しさや、悲しさを乗り越えた先、最後には温かい光へと手を伸ばしていたように思う。

 あの光は……。



(……また君に救われたんだな)



 いつだってオレの生きる意味には君がいる。

 昔も、今も――。



「ルドニーク様?」



 何も答えないオレに不安になったのか、イレーネは小首を傾げて見上げてきた。

 心配そうに眉が下がっているその顔は、本当にオレのことを案じてくれていたのだろう。


 そう思うと、愛おしさがこみ上げてくる。



「――いや、何でもない。少し夢の内容を思い出していただけだ」

「夢の?」

「ああ。君を、そしてこの国を守ろう。その気持ちを思い出させてくれる夢だった」



 イレーネは少しだけ不思議(ふしぎ)そうにしていたけれど、やがてふわりと笑った。



「では、良い夢だったのですね」

「そう……だな。……そうだ」



 オレを作り上げている過去は消せない。

 そしてそれは、間違いなく悪夢だった。


 けれど始まりが悪夢だとしても、そのままでは終わらせない。



「イレーネ。オレはずっとこの場所を、君を守り続けるよ。何者からも、ずっと」



 不屈(ふくつ)の意志で国を変えたように、イレーネを見つけ出したように。

 これから先、どんな困難が襲おうとも、オレは守りたいものを守り続ける。


 それこそがオレの存在意義。そのための力なのだから。



 ふわりとほほえめば、彼女もまた笑みを返してくれた。



「ええ。私もお守りします。ルドニーク様も、この国も、全部。あなたと共に」


 イレーネもオレと同じ気持ちらしい。


 共に守る、そう言ってくれたのが、どれほどオレを救ってくれていることか。

 君は知らないだろう。



「――ああ、よろしく頼む。これからも、共に」



 今のオレは、心からの笑みを浮かべていることだろう。

 そんなひとときだった。



お読みいただきありがとうございました!

これにて電子書籍配信記念小話はおしまいです。


こちらの話、電子書籍のとある部分と深い関係があるお話となっております!

ぜひどの部分と関わっているのか、お楽しみいただけたら幸いです!


実はですね、電子書籍は加筆修正がけっこうな文字数になっているんですよ~。

なのでウェブ版では分からなかった関係性や、キャラの思いなども入れさせていただいてます~^^

とても楽しく書かせていただいたので、ぜひともお手に取ってみてくださいね!

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