電子書籍配信記念ss ルドニークの不調①
電子書籍版の配信記念小話です!
本当にありがたいことに、ついに配信日が決まりました!!
5/21日(木)配信予定ですので、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです^^
柔らかい光が差し込み、目を覚ます。
そよ風がカーテンを揺らし、鳥が穏やかに鳴いている。
いつも通り、穏やかな朝だ。
「……?」
けれどオレ――ルドニークは、わずかな違和感を覚えた。
「少し……怠い、か?」
体がなんとなく重い気がする。
思い当たることと言えば……。
「昨日の豪雨のせいか。しっかり拭いたつもりだったんだがな」
ここ最近、グレノス公国は不安定な天候が続いていた。
温かくなったと思ったら急に寒くなったり、突然の雷雨や突風に見舞われたり……。
昨夜、剣の訓練をしていたときもそうだった。
気持ちのいい夜だと思っていたら、急に土砂降りとなり、結果的にずぶ濡れになってしまったのだ。
しっかりと拭い、風呂で温まったつもりだったが、不十分だったらしい。
「とはいえ熱っぽさはないし、悪寒もない。公務に支障はないだろう」
単純に怠いだけ。
普通に動けるし、大公としてやることは山積みなのだ。
この程度で寝ている訳にはいかない。
オレは甘えたがる体を奮い立たせ、ベッドから起き上がったのだった。
◇
朝食会場へ移動すると、イレーネがすでに待っていた。
こちらに気が付くと、柔らかい笑みを浮かべられる。
「おはようございます、ルドニーク様」
「ああ、おはよう」
彼女の笑みを見ていると、頬が自然と緩んでしまう。
イレーネと共に過ごす時間が、なによりも愛おしい。
オレは幸せを噛みしめながら、彼女の隣に腰を降ろした。
「夜の公務はなにごともなかったか?」
「はい! いつも通り結界を張った後、少し刺繍をしていました。最近はたくさん時間もとれるので、難しい模様に挑戦中なんです!」
「そうか。楽しめているのならなによりだ」
大魔との決戦の後、魔物はその数を大幅に減らした。
けれどまだすべてが消滅したわけではなく、少数の魔物の目撃情報が寄せられている。
だからイレーネは夜の聖女として、夜の間は未だに結界を張ってくれているのだ。
「他に変わったことはないか? あるのならなんでも言ってくれ」
イレーネはすぐに無茶をする。
だから小さな変化でも見落とさないよう、彼女の様子には注意しておかなくては。
「変わったこと……」
イレーネはそうつぶやくと、オレの顔をマジマジと見つめて首を傾げた。
「変わったことは特に。でも……、あの、ルドニーク様」
「どうした?」
「もしかして今日、体調悪かったりしますか?」
「えっ」
予想外のことに、思わず短い声が漏れる。
「どうしてそう思ったんだ?」
確かに彼女の言う通り、怠さはある。
けれど使用人たちにも気が付かれないよう、顔には出していないはずだ。
「えっと……。なんだかいつもよりぼんやりされているような気がして……」
「そ、そうか?」
ぼんやり、していただろうか?
そんなつもりはなかったのだが、オレの返答を受けたイレーネの中ではもう、疑念は確信に変わったらしい。
血相を変えて傍へと寄ってきた。
「ちょっと失礼しますね」
「お、おい。イレーネ?」
イレーネは自分の額と、オレの額の温度を比べるように手を当てた。
「やっぱり! 熱いですよ!」
「いや、熱はないはずだが」
「いいえ! ご自覚されていないのなら余計にダメです! 今日は休まれてください! お仕事は私が代わりますから!」
「いや、平気だ。というか、そんな無茶をさせる訳にはいかない。君は今から寝る時間だろう?」
「今無茶しているのはルドニーク様の方ですよ!」
オレは結局、ぷりぷりと怒るイレーネに押し切られ、部屋へと逆戻りすることとなってしまった。
◇
「イレーネ、本当に大丈夫なのだが……」
「ダメです。お眠りになるまで見張っていますから、ちゃんと寝てください!」
ほとんど強引に部屋へ連れ戻されたオレは、ベッドから一歩も降ろすまいとするイレーネに見張られ、寝転がっていた。
イレーネは意外と強情なところがある。
今も絶対に自分の意見を通すぞという意気込みを感じる。
諦めたように力を抜けば、頭がだんだんと痛みを主張してきた。
これから熱が上がってくるのだろう。節々も痛くなっている気がする。
(……本当に体調不良になっていたのか)
自分の体調を甘く見ていたらしい。
イレーネが気が付いてくれなければ、執務中に倒れていたかもしれない。
そうなれば部下や民に、不必要な不安を与えてしまう。
それは国を納める主として一番やってはいけないことだ。
(イレーネに感謝だな。……とはいえ)
「イレーネ。後は大丈夫だ。君も忙しいだろう。戻るといい」
己の弱っているところを、最愛の人に見せる訳にはいかない。
というか男として、夫として、そんな無様な姿を晒すなど、オレのプライドが許さないのだ。
「いいえ、看病いたします。お一人ではつらいでしょう?」
「……そうはいってもな。移してしまうかもしれないのだし」
「構いません。ルドニーク様のお力になれるのなら」
なんとか帰ってもらおうと平気そうに振舞うが、イレーネは首を横に振った。
なんならやる気をみなぎらせており、つきっきりの看病をする気満々だ。
「大丈夫です! お仕事ならこちらでやらせていただきますから!」
「……」
これはもう、何を言っても聞かないだろう。
なによりこれ以上説得する気力が湧かない。
(……ああ、熱い)
どうやら本格的に熱が上がってきたらしい。
思考がぼやけ、輪郭を失っていく。
オレは休息を求める体に抗うことなく、いつの間にか意識を手放したのだった。




