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エピローグ

 



 目覚めてから1か月が経った。


 少しずつ元の調子を取り戻し、今では支えられながらではあるが少しの時間なら歩き回れるようになった。



 私はあの時、自分の体を受け皿に夜の神を降臨させた。


 その対価として魂は消滅した。

 したはずだった。


 だけど今、私は生きている。

 きっとそれは夢で見た金の綿毛――初代聖女様が昇っていく私の代わりになってくれたからだろう。



 とはいえ体が無事であるはずもなく、後遺症でなんと2か月間も生死の境を彷徨(さまよ)っていたのだそうだ。



(意識を失ってすぐ目が覚めたと思っていたのだけど違ったのよね。本当に驚いたわ)


 そういう訳で2か月間寝っぱなしだった体は相当リハビリが必要で、私はこの一か月で相当キツい思いを経験した。


 当然ながら夜の聖女としてのお役目も果たせていないのだが、ルイに認めてもらうときに作った聖物が未だに作用してくれているおかげでこの国の夜は平和そのものだった。



(それは嬉しいのですが、未だに魔物がいるのは心配です)



 報告によれば世界的に魔物の数が減ってきているらしいのだが、災禍(さいか)の玉(ぎょく)を壊したというのにまだ魔物がいるということは、災禍の玉以外にも魔物の発生源があるのかもしれない。


 私の役目はまだ続くようだ。



 私はクスリと笑う。


(心配なことなのに、まだ人の役にたてるというのは嬉しいですね。不謹慎(ふきんしん)でしょうか?)


 まあまだ本調子ではないし聖女の勤めもできないのだから今考えても仕方がないだろう。



「よし! 今日もリハビリを頑張りましょう! とそうだ、もうそろそろ来る頃だと思うのですが……」




 ――コンコン



 ドアがノックされ、控えめに開かれた隙間からカリンとミルテが覗いている。


 その様子がおかしくてくすくすと笑ってしまった。


「入ってきてください二人とも」



 その言葉におずおずと向かってくる二人はシュンとしぼんでいる。

 実は今日が彼女達の謹慎(きんしん)が終わる日だったのだ。


「また二人の顔が見られてとても嬉しいわ」


 彼女達は私が目覚めた時、土下座をしながら……というか床を突き破る勢いで額を打ち付けながらずっと謝りっぱなしだった。


 私を守れなかったこと、危険に晒(さら)し、攫(さら)われてしまったことをよほど気に病んでいたようだ。


 その謝罪は激しく、二人は自害するとまで言い出した時はさすがに焦ってしまった。



 幸いルドニーク様は彼女達の処罰を私に任せてくれた。

 なので1か月の謹慎を言い渡したのだ。


「謹慎させて悪かったわね」

「いいえとんでもないです!」

「むしろあんな軽い罰では罰を受けたことになりません! どうかもっと罰をお与えくださいぃ!!」


 傍に寄って来た二人は号泣しながら立ち尽くしている。


 ルドニーク様にも罰としては随分甘いと言われたが、元はと言えば私の采配(さいはい)ミスで起きてしまったことだし、二人は私を諫(いさ)めていた。


 それなのに強引に自分の意見を通したのは私だ。



「いいえ。今回の事の発端は私です。それに私は自分の力を過信しすぎていたようです。それ故に貴方たちにはいらぬ怪我を負い、いらぬ心配までかけてしまった」



 二人を見る。

 怪我自体は既に癒えているのだが、体や顔に残った傷痕が戦闘の激しさを物語っている。


 ミルテは肩から胴体にかけて広範囲の噛み跡が残っているし、カリンは顔に爪痕が残っている。

 魔物に傷を負わされながらも勇敢に戦ったのだろう。


 その傷を見ていると心が痛む。


「ごめんなさい……傷、まだ痛みますか?」

「謝られないでください!」

「そうです~! どれだけ頑張ったとしても守れなかったのですから……」


 そうはいってもセイブリア王子も血だらけの傷だらけだった。

 彼をあの状態にしたのは間違いなくこの二人だ。


 ルドニーク様から聞いた。


 二人は私が攫われた後もセイブリア王子を追ってセイア王国へと向かっていたことを。

 自分の傷の治療もしないまま追い続けていたと。


「私はあなた達が生きていてくれて本当に嬉しいです。あなた達は強い。肉体的にも、精神的にも。そしてそれはきっとこの先も公国にとって必要なものです」


 二人が自分の怪我を押しても追ってきてくれたのは、私のことを諦めていなかったからだ。


 私を攫われた時彼女たちの矜持(きょうじ)は折られてしまっただろう。

 それでも立ち止まらずに追いかけて来てくれた。


 そんなことができる人はごくごく少数だ。

 そしてそれはきっと国には欠かせない人たちとなる。



「それに何より私にはあなた達が必要です。罰が欲しいと言うのであれば、今ここで誓ってください。今後、何があろうとも公国の為にあり続けると。どれだけ悔しい思いをしても決して諦めずに居続けると」



 たとえ私が死んでしまったとしても。

 守るべきものが消えてしまったとしても、この国のためにあり続けること。


 それは命を投げ出すことよりも難しい、そして重い罰となる。


「そう、誓ってください」



 二人は零れ落ちる涙もそのままに跪(ひざまず)き私を見上げた。


「「誓います。何が起ころうとも、イレーネ様の愛したこの国を守っていくことを」」


 そうして私たちは微笑み合う。

 この国に彼女たちがいてくれる限り、きっと公国が滅ぶことはないだろう。



◇



 穏やかな昼下がり。

 良く晴れた気持ちのいい天気の中、私はリハビリのために庭に来ていた。


 庭にはリハビリスペースが作られ手すりがいたるところにつけられている。


 その周りには私が楽しめるようにと様々な花が植えられおり、見ても楽しめるし香りも良いので動けそうな時間があるたびにここへと来ているのだ。


(一日中寝ていては体の回復も遅くなってしまうでしょうし、動けるうちに動いておかなくては)


 カリンとミルテに支えられながらよたよたと歩いていると、何やら良い香りがしてきた。

 そちらの方に向かって行けば、広いスペース一面が紫色に染まる程の花が咲いていた。


「うわあ!」


 私は思わず感嘆の声を上げる。

 紫は私が一等好きな色。


 それを知っていて植えてくれたのだろう。


 嬉しくなりその道を進んでいくとガゼボが建てられている。

 その中には美しい紫色を持つ方が一人。


「イレーネ」

「ルドニーク様」


 よろよろと向かうと途中で段差につまずいてしまった。


「あっ!」

「おっと」


 痛みが来ると思いきや、ルドニーク様が抱きとめてくれたおかげで転ぶことはなかった。


「ありがとうございます」


 私は軽くぶつけた鼻をさすりながら離れた。


(うう、やはりまだ長時間はうまく歩けませんね。お恥ずかしい……)


 ちらりと彼を見れば柔らかく微笑んでくれる。


「ちょうど良かった。オレも休憩をしようとここに来たんだ。よかったらイレーネも共に休まないか?」

「え? あ、はい!」


 突然の申し出だったが断る理由はない。

 それにルドニーク様と一緒にいられる時間は他の何にも代えがたい。


 私はありがたく申し出を受けることにした。




 ガゼボの中にはお菓子や軽食、お茶のセットが用意されていた。

 よく冷えたジュースもある。


 運動をして火照(ほて)った体にはとてもしみわたった。



「これ、ルイから」


 しばらく昼下がりのお茶会を楽しんだ後、ルドニーク様は手紙を一枚渡してきた。


『イレーネへ


 お元気ですか? 最近お体の調子はどうですか? こっちは相変わらず忙しいけど元気よ!

 でも会えるのはまだしばらく先になりそう。セイア王国の後始末がまだ終わらなくて……。


 もう! 本当に面倒な役目を押し付けられたわ!!

 イレーネに早く会いたいな。あ、でも結婚式には絶対に行くから安心してね!


 楽しみにしているんだから! そうと決まったら早く仕事を終わらせないと!

 もう少しだけ待っていてね!


 あなたの友人、ルイより』


 読み終わると笑みがこぼれる。


「ふふ、元気そうでよかったわ」


 あの事件の後セイア王国は王族が滅んで滅亡。

 セイア国王の持っていた災禍(さいか)の玉(ぎょく)は粉々に砕け散って消滅したそうだ。


 長い期間瘴気を間近に浴び続けていたセイア王国の民もまた精神汚染が進んでいたそうで、聖神国が共同で分散して管理しているという。


 ルイはその指揮官に任命されて大忙しなのだ。



「セイア王国のあった場所はルイをはじめとした聖女たちや大神官によって浄化作業が進められている。今回の事件を戒(いまし)めにするために新たな聖神国が作られるんじゃないかって話だよ」


 ルドニーク様は紅茶を飲みながらそう言った。


「そうですか。それではもう、あの国は名実ともになくなったのですね」

「ああ。……寂しいか?」



 私にとっては17年もいた国。

 それなのに感傷的な気分にはならなかった。


 どうやら私の心はこの程度ではもう動じなくなったようだ。



「いいえ。私にはもう居場所がありますから」



 帰るべきところならここに。

 虐(しいた)げられるだけのイレーネはもういないのだから。



 そう思い笑い掛ける。

 さあっと爽やかな風が吹き、花の良い香りが鼻をくすぐった。


 目を向ければ一面に紫の花。



(そういえばあの指輪の色もあの花のように綺麗でしたね)



 私は左手の薬指をなぞる。

 そこにあの指輪はもうない。


 あの指輪は私のもとにルドニーク様を運んで砕け散ってしまったのだ。


「指輪、気にしているのか?」

「ええ……せっかくルドニーク様とお揃いだったのに、残念です」



 後から聞いたのだが、あれは開発中の魔道具だったらしく対のリングを持つ者のところまでワープすることができるものだったらしい。


 だが一回きりのものだし指輪に閉じ込められる魔力だけでは遠すぎると届かない。

 そのためルスランの魔法陣も合わせて使わなくていけなかった。


 そのためにルスランはルドニーク様についていなくてはいけなかったそうだ。



 あれがあったから私は助かったのだとわかっていてもルドニーク様から貰ったものがなくなるというのはやはり残念だ。



「イレーネ、左手を出してくれるか?」

「え? はい」


 言われるがままに手を差し出す。


 ルドニーク様は懐(ふところ)から何かを取り出して私の薬指につけた。


 きらりと光るシルバーリング。その中には紫色の煌(きら)めきが入っていた。


「えっ。これ……」


 驚いて見上げればルドニーク様は顔をわずかに染めながら視線を反らした。



「オレとしても君とお揃いのモノが欲しくてな……。改良に改良を重ねてつい先日完成したばかりなのだ。受け取ってくれると嬉しい」


 そう言って見せてくれるルドニーク様左手にも同じものが輝いている。

 ジワリと涙が滲んだ。


「~っ!! はい! はい!! ありがとうございます!!」



 私は嬉しくなりルドニーク様に抱き着く。

 彼はしっかりと抱きとめてくれて、ぎゅうっと抱きしめ合う。


 ああ、幸せだ。


 平和な国で平和な時を過ごし、周りには友人も頼れる仲間だっていてくれる。


 そして最愛の人が私を見つけ出してくれた。


 何も持たなかったあの時からは想像もつかない幸せな今を。


 愛おしいこの人たちと、この国と、この世界で私は生きていこう。

 いつまでもいつまでも。





完結までお読みいただきありがとうございました!

皆様の応援のおかげでここまで走ってこれました!!

この場を借りて感謝を申し上げます!!


「面白そう・面白かった」

「続きがあったらいいな」

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また、ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。


皆様から頂いた時間や手間が作者にはとても励みになりますので是非とも!宜しくお願い致します!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初から一気に見ました! 面白くて楽しめましたよ!
[一言] 初代聖女様。(´•̥ ω •̥` *)が助けてくれたのね。 無事で良かった。๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐
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