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18話 狂いだす聖女

 


「あ、おかえりなさいませルドニーク様」

「ああ、ただいま」


 休憩室から戻ると笑顔のイレーネに出迎えられる。

 カリンから渡された食事を楽しんでいるようだ。


「1人にしてすまない。何もなかったか?」

「ええと、ガイア様から戻ってこないかというお誘いがありました」

「なっ!?」


 ルドニークは目をむいた。

 まさかパーティーの最中にそんな申し出をしてくるとは思っていなかったのだ。


 自分が追い出した者を連れ戻そうとするなど、恥はないのだろうか。


「……それで、どうしたんだ」

「もちろんお断りしましたよ!」


 いい笑顔で言ってのけるイレーネに少し安堵する。


「手は出されなかったか?」

「あ~。えっと」

「出されたのか!?」


 ルドニークは瞬時に怒りの形相ぎょうそうになった。


「陛下~。落ち着かれてください~。あたしがいるのに手出しさせるわけないじゃないですか~」


 イレーネの後ろに控えていたカリンが声を上げる。


「む。それはそうだが……。いやしかしっ」

「もちろんこちらからも一切触らずに撃退しましたとも~」


 カリンは指を何本かくるくると回し微笑む。

 その笑みは見る者が見れば何かをしたのだと一目で分かる笑みだった。


「そうなんですよ~! 何故かガイア様途中で止まってしまって。不思議なこともあるのですね」



 イレーネは不自然に上機嫌だ。

 まるで酒が入ったときのように。


「怖い思いをさせてすまない。それから大丈夫だったのか?」

「はい! お料理を頂いてました。お酒もすこし」


 そういうイレーネの顔は少し赤らんでいた。

 恐らく手に持ったグラスの中身が酒だったのだろう。

 今はもう中身がないが。


「君、酒は飲めないのではなかったか?」

「えへへ~。少しだけチャレンジしてしまいました~」


 どうやら極度の緊張と不安からアルコールを取ってしまったようだ。


 へにゃへにゃと笑うイレーネは愛らしい。

 守りたい、この笑顔。


 ルドニークは改めてそう感じた。


「ああ、私少しお手洗いに行ってきますね~」

「お、おい。大丈夫か? ふらふらだぞ」

「大丈夫れす~」


 どう見ても大丈夫じゃなさそうである。

 だがトイレと言われてしまえばついていくわけにもいかず、結局カリンに付き添いを頼んだ。


「じゃあ頼んだぞカリン」

「了解ですよ~! さ、行きましょうかイレーネ様~」






 ◇




 なぜわたくしがこんな扱いを受けなくてはならないの?


 なぜわたくしはこんな場所にいるの?


 なぜ、なぜなぜなぜなぜっ!!!



(それは誰のせいだ?)



 どこからともなく声が聞こえる。



(その元凶は誰だ?)



 しわがれたその声はすっとわたくしの意識に落とし込まれた。


「そうだ、全てはあの女の……イレーネのせい……」


 わたくしはまとまらない意識の中、聞き覚えのある声を聞いた。

 廊下を見ればそこには憎きあの女が従者の女に支えられて歩いているのが見えた。



(ならば、返してやらねばなるまいな?)



 なおも頭に響く声。

 でもその声は、その声の言っていることは、()()()()


「そう……そうね。こんなのおかしいわ」


 わたくしは誰もいないはずの部屋で一人笑みを零した。


「身分にふさわしい場を用意してあげなくちゃ」


 わたくしは走り出す。

 早く早く! あの女を引きずり降ろしてやらなくては。


 手には休憩室に置かれていた酒の入ったビン。


 だって、それが……


()()()()()()()()()()()()()





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