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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第九話 逆巻の疵痕

 南山郡 南補給所 BAR クォーツ


 逆巻市出発から九日目




 老人を見送った四人は店に戻り、マスターは田中の好きなパフェを二つ作り始め、二人も元の席に戻り話をする。




「いやーまさか五十年以上前の軍人さんに会えるとはね。」




「学校で習った所もありましたがAIが艦を乗っ取ってしまったという話は初めて聞きますね。」




「そりゃそうだよ護くん! そんなこと公表したら軍の汚点になるからね。もちろんなかったことになって、自律させた彼女たちが自らの意思で特攻した! という筋書きになっているよ、後年作られた映画なんかでもね、見たことあるだろ?」




「あの人はこの店の出資者の一人だ、港のために貢献してきた会社を経営していた、ご隠居さんでね、本人から言われてるから爺さんなんて呼んでるが立派な方なんだよ、ああやって声を荒げるなんてことは今までなかったんだが、あの様子だと他にもなにかあったみたいだな。」




 そうやって話していると、最初にこの店に入ろうとした護を咎めた店員である制服を着た女性が、道具を持ってきて老人のいた席の清掃を始める。




(さっき飲み物を運んできてくれていたのはこの女性ひとかな? 全然気がつかなかったけど)




 護は見れば見るほど店員にしては無駄がない女性の動きに眼を奪われる。




 その作法でもあるかのような動きは、親友であるスポーツマンである高野よりも、同じく親友である軍人の家に生まれた戦闘狂である松浦に近い洗練された戦う者の動作に護には見えたようだ。




「おっ護くん! もしかしてカナちゃんに興味ある? 彼女、ここでは珍しく若い娘でね今十――――」




 喋っている田中の頭に彼女の手が掛かりボタンを押したように口が止まる。




「今、何を言おうとしたんですか? 口は災いの元だって施設長さんにも言われてましたよね? 勝手に女性の年齢を喋ろうだなんて失礼じゃありませんか?」




 なぜか口が開かなくなった田中は両手を挙げて降参の意思を表明し、やっと開放される。




「――――いえ、すみません友人に似た綺麗な動作に魅入ってしまいまして。」




「そうですか……その方は戦闘に心得があるのかもしれませんね。」




 興味がなさそうに言うとカナと呼ばれたウェイトレスは掃除を終え、洗面台などがある方へ向かう。




「悪いな若い――――護さんよ、さっき問答無用で入店を咎めちまったから、ちょっと恥ずかしがってるだけなんだよ。」




「護でいいですよマスターさん、やっぱり彼女は店の護衛ですか?」




「そうかい? いや……ただの接客に雇ったんだが、たまに酔って入り込んでくる奴もいるからよ、自主的に通信教育とか始めた後はたまに来る社長の護衛と仲良くなって、なんか達人みたいに鍛えられたみたいでな。」




「……一度結晶泥棒が来た時は酷かったよね。」




「まーな、結晶体の価値を考えれば撃ち殺されてもおかしくないから、その点、まあ運が良い方だったが。」




 やはり松浦が聞いたら喜びそうだな、と思いながら、いつか共に訪れようとも考えていた護も本題を忘れていた訳ではない。




「すいません脱線させちゃって……大丈夫ですか?」




「なんなんだろねこの技、痛みはないんだけど顔が動かし難くて、まあぁ支障はないから手早く済ませよう。」




 鞄からデータが入っていると思われる品を取り出すと説明書きと共に護に渡す。




「マスターは口が堅いから大丈夫だけど、これは部外秘の情報で流れるとまずいもんだから使い終わったら破棄して欲しい。潮流のせいで観測が難しくなってるあたりでは役に立つはずだ。」




「そんなデータを? 私達のために危ない橋を渡る必要はないんですよ? 物資の供給をして戴いただけでも、こちらは――――」




「なーに甘いこと言ってるんだい、ほんのちょっぴりルールには違反するけど命には替えられないでしょ? こういう時は少しでも役に立つものはガッチリ掴んでおくこと! 先輩からの忠告だよ。確かに出会ったばかりだから不審に思うかも知れないけど、将来有望な君たちへの投資と思って受け取って欲しい。」




「いえ……ありがとうございます、利子を付けてお返しできるといいのですが。」




「まーた、護くんは! 固い固い! マスター、パフェまだ?」




「待ってろ。」




 二人はパフェを平らげるとマスターとしばらく談笑し、支払いで揉めつつBARを後にする。




 すると店員であるカナが後ろから声を掛けてきた。




「あの……」




「どうしたのカナちゃん? 僕、忘れ物したかな?」




「いっいえ、これ護……さんに。」




「私に?」




「先程は失礼しました。ここは若い方はあまり来ませんので話も聞かずにお帰り願おうとしてしまって――――」




「いえそんな、無理もありません、気になさらないください。こちらこそ、まず入ろうとせず説明をするべきでした。」




 ゆっくりと頭を下げて謝罪する動きも綺麗だな、などと考えながら気にしていないことを告げる護に、カナは包を渡す。




「……よかったらこれ、船で食べてください。……また来てくださいね、その……マスターも嬉しそうでしたから……。」




「ありがとうございます、でも、新参者の警備隊員が気軽に入り浸っても……田中さん?」




「くくっ……「も」って! ――――はっ!?」




 一瞬冷や汗をかき危機を感じた田中は笑う口を閉じて真面目な顔になり、護の方を向くと誤魔化すように早口になる。




「――――よかったね護くん。それはここの名物だから皆も喜ぶだろう、数は足りるかな? それからマスターのあの様子なら次回からは顔パスだよ、遠慮なくまた来てあげてくれ。」




「そうですか、ではまた、任務で来たら数名でお邪魔するかもしれません、その時はよろしくお願いします、カナさん。」




 護はカナと分かれ無重力の道を田中と移動する。




 その道すらがらも田中は話足りないのか色んな話題を振ってくる。




「いやーすまないねペラペラ喋っちゃって、僕も施設長のことをとやかく言えないや。まあ、これを最後にしておこうかな。――――ココだけの話、逆巻港はまずい、今起こってる市長への抗議もそうだけど、色々な面で外資が寄り付かなくなってるし人口も頭打ちだ、まったく資源宙域の責任者の一人として責任を感じるよなぁ。」




 悲しそうに話す田中は個人レベルではどうしようもないレアメタルの産出量に責任を感じているようだった。




「あの潮流のせいで他の資源宙域にも影響が出てるんだよ、現在から十年程度の採集予定宙域では、レアメタルの産出があまり見込めない。なのに、これ以上は遠くに探しにもいけないんだ、ありふれた資源はまだまだバランス良く出るんだけど、宇宙中で資源を開拓してるから製品としてしか買い手がつかないんだよね実際。」




「それは別に田中さん達のせいじゃ――――」




「そうだねぇ、でも、それで屋台骨が揺らいじゃったらやっぱり僕らのせいって気がするんだ、会社だって色んな人が頑張って支えてるじゃない? なんかあった後に、あの時、僕らが頑張って支えていたらなんて思いたくないし、今でこそ港のためにもっと何か出来たんじゃないかって――――いやまあ、そんな話は置いといてだ。」




 軽く背伸びをすると、田中は護告げる。




「今回も本当は止めたいんだけど、応援してるよ。でも、命に関わるような任務を強いられたら逃げることも考えるんだよ? 港がやばい時に市長が万が一変わったら何をさせられるかわからない、仕事も大事だけど、ちゃんと色んなことを天秤に掛けて自分の身も守らなきゃダメなんだ、大人ってやつは。」




「……そうですね、ご忠告感謝します。でもその時は解体されると思いますから、みんなと再就職先を探さないとですね。」




「あっそっか! そうだったね。じゃあうちに来なよポストは空いてるよ?」




 二人は冗談を言いながら分かれ、それぞれの船へ向って行った。

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