防災持ち出し袋
学生の頃以来かな?紙の本をめくるのも久しぶりだなどと感慨を覚えながら、少し厚めの黄色い本をペラペラとめくっていた。ノスタルジーにひたっているが、本どころか、見渡す限り人工物の気配すらなく、控えめに言って原初の森で遭難状態なのである。この山葵、かなりの楽天家のようだ。
「東京防災」と書かれたその本は、都民全世帯に配布された防災について書かれたガイドブックである。備蓄品についての啓蒙、もしものときマニュアルなど災害対策ガイドブックになっている。電子版で読んだので、紙の本は防災用の持ち出し袋にそのまま突っ込んでおいたのだが、この原生林のなかでは競馬の勝ち馬情報が書かれた紙束よりはいくぶんか役に立ちそうだ。
非常時用の持ち出し袋の中身をバサバサと岩の上にぶちまけてチェックする。
■ 非常用品
懐中電灯つき携帯ラジオ(手回し充電ライト付き)
携帯電話用充電器、充電用ケーブル類、変換アダプター
防災用簡易ケミカルライト(折ると10時間発光)× 4本
ろうそく(30分)× 12ヶ
サバイバルシート(防寒保温アルミシート)× 2枚
ブランケット× 1枚
軍手
ホイッスル
■ 食品
アルファ米 × 6食分
バタークッキー × 4本
飴 × 一袋
ペットボトル水(500ml×2本)
野菜ジュース(500ml×1本)
■ 生活用品
炊飯袋/輪ゴム(お米を炊き出す用の袋)
ゴミ袋(30リットル数枚)
ラップ1本
アルミホイル1本
ジッパー付き大きめの食品袋 5枚
荷造りビニールヒモ
使い捨てカイロ
■ 貴重品用の小袋
ライター、缶切り、折り畳み果物ナイフなどが入った缶
保険証のコピー
通帳/印鑑
現金(非常時持ち出し用の細かいお金と硬貨)
道路地図
■ 衛生品用の小袋
持ち運び用医薬品セット(風邪薬、下痢止め、ビタミン剤、絆創膏、ガーゼ、伸縮ホータイ、消毒薬、綿棒、マスク)
歯ブラシ
旅行用エチケットセット(爪切り、爪やすり、鼻毛切りハサミ、耳かき、手鏡、クシ)
ポケットティッシュ
トイレットペーパー × 1ロール
■ 衣類
衣類(長袖シャツ、トレーナー、長ズボン)
下着類(1組)
ジャージ(兼パジャマ)
タオル
ウインドブレーカー(兼雨具)
通帳が入っていて、かつカバンを探すのがめんどくさかったからという理由だけで非常用持ち出し袋を背負ったことは現状を鑑みればラッキーだった。あの時、靴を履きにいったのも非常用持ち出し袋を持ったという非日常的な高揚感があったからだと思う。もしこのような状況で靴もはいてなかったらと思うとゾッとする。
だが、同時にツイてないなとおもうのは、このような事態を想定しての手荷物ではないということ。あくまで緊急持ち出し用の軽い袋でしかない。
地震などの災害発生時にちょっと家を離れるぐらいのものでしかない。家に帰ればローリングストックしていた数ヶ月引きこもっても生きていけるだけの買い置きの水やバリエーションに富んだ食料の備蓄がある。非常用持ち出し袋ではなくキャンプ用のバッグであればもっと色々なものが入っていたのに、いまはこんなものしかない。
さっそくペットボトルを一本開け水を口に含む。
アルファ米の袋に書かれた説明を読む。アルファ米とは炊いたお米をカピカピに乾燥させた長期保存が可能な非常食だ。お湯なら約15分、水だと約60分浸しておくことで、再び食べることができる。
「鍋もないような状況は想定してなかったなー。」
お湯も沸かせない現状に、あらためて途方にくれる。袋から乾燥剤とスプーンを取り出すと、ペットボトルから水をジョボジョボと注ぐ。食べられるようになるまであと1時間か……。
太陽の位置をみるに、あと1時間もすれば日が陰りだす頃合いだ。




