山の留守村
山の斜面に8軒ほどの竪穴式住居が建っていたが、いずれの建物にも現在は人が住んでいる気配がない。もしかしたら誰かが帰ってくるかもという淡い期待をしつつ、一番大きな建物に入り、今晩はここですごすことにした。この建物だけ土間でなく高床式だ。
「なあ、夕飯どうする?」
この村にたどり着く途中、近くの川で立派なニジマスのような魚が何匹も泳いでいるのが見えたが、岩場を縫うように細く深く流れる川で、釣り竿のような漁具もないので泣く泣く諦めた。魚も獲れず、木の実などの採集ポイントもわからず、夕飯になりそうな食材が採れていないのである。
手元にあるのは、道中に採集したすごく小さなサクランボのような実が房で実っていたもの。時期がすこし遅かったようで食べごろは鳥に食べられていてわずかしか採れなかった。さわやかな酸味にほのかな甘み、清涼感があっていいのだが、これをいくら食べたところで腹にはたまらない。
池の村に習って、クワガタやらカミキリだのの幼虫を倒木からほじくり出して姿焼きにしようにも今日はそれすらも集めている余裕がなかったし、これらか取りに行くのは時間的に無理だろう。なにせほどよい倒木がどこにあるのかも知らないのだ。つまるところ食べものを得るあてがないのである。
「もう、暗くなるし今晩は食べなくても平気。」
一日ぐらい食べなかったからと言って死にはしないのだけれど、お土産にと持ってきた塩がきつめの魚の丸干しをいくつか焼いて食べることにした。保存食バンザイである。山の民に会えるのがいつになるかわからないので、このまま土産として渡せないまま食べつくしてしまうかもしれないが、もしそうなるようなら浜の村に戻ることも検討しなくてはならない。なんの成果もないただの遠足になってしまうが、いつ戻ってくるのかわからないまま永遠に待ち続けるよりはいいだろう。
火をおこすために、薪を集めるついでに二人で集落の近辺を散策した。村から人が離れて数ヶ月は経っている気配がする。人の手で刈られていた植物が育ってしばらくは経っているようだし、ゴミ捨て場とおもわれる場所には茎が太くなった雑草が茂りはじめていた。すこしほじくってみると、割れた土器に混じって、砕けた貝器も混じっている。アワビなど海の貝殻の破片だ。やはり、ここが目指していた玉石ノ大川奥のようだが、皆どこにいってしまったのだろうか?
同じように誰もいなかった鯨水の留守村と大きく違うのは、この村は土器を豊富に持っているようで、それぞれの建物に土器が据え置かれたままになっていたことだ。毛皮や、蔦の鬼皮が丸めて束ねられたものや、服の仕掛りだろうか、織り途中の繊維の束などが天井からかけられていたり壁から吊り下げられたままになっていた。
とるものもとりあえず夜逃げでもしたかのよでもある。戻ってくればそのまますぐにでも生活を再開できるような様相で、ここを後にした彼らは一体どこにいったのだろうか? ゆぐりさは故郷には夏村や冬村のような風習はないと言っていたのだが・・・
火を焚いて、干し魚を炙ったものを齧るだけの簡素な夕食をすます。
魚を焼いた匂いが山にまで広がってしまったのか、山から聞こえる狼の遠吠えがさわがしくなってきた。
「狼おりてこないかな?」
日も暮れ、ののめが不安そうである。山葵も口には出さないが相当怖がり、小屋の外で薪に火をつけたままにしていた。小屋からこまめにでては、火が消えないように太めの丸太をくべて無駄に燃やし続けているのだ。火の爆ぜる音と、狼の遠吠えだけが静かな夜を支配する。
薪を火に焼べるための何度目かの往復のとき、ふと建物の入り口にかかっていた枯れた植物の束が目にとまった。それまで干し草の束だとおもっていたのだが、気になってそれを手に持って広げてみる。草が編み込まれて結ばれているものだった。
「引っ越し先・・・、わかったかも。」




