第63話 服まみれの家 後編
「それにしても、すごい服の数ですね」
「私は服を作るのが大好きなんです。毎日編まないと、気が済まないんです」
一種の依存症だな、こりゃ
「いつから服を作ってるんですか?」
「物心ついた時からですね。今は亡き母から服の編み方を教えてもらいました。母も服作りが好きな人でしたから。でも、私が17歳の時に母は病で亡くなったんです」
「お父様は?」
「父は、私が生まれる前に魔物に襲われて帰らぬ人になったと母から聞いています。なので、父の顔は覚えてないんです」
ちょっと重い空気になってしまった
それにしても、これだけの服があるのにずっと置きっぱなしっていうのももったいない気がしてならない
何かいい方法はないものか・・・
でも、気になることがある
「セルドアさん、糸はどうされてるんですか?」
「糸?」
「いや、だって、こんな大量の服があれば当然膨大な糸が必要になりますよね?」
「ああ、それなら、こちらへご案内します」
セルドアさんに同行して、裏口から出ると
あたり一面、綿花畑が広がっている
ぷっくらしているものもある
収穫できるものかな
「うわあ、凄い」
「きれい」
「俺はこんな景色初めて見るよ」
「素敵でしょ?毎朝収穫してるんです。乾燥させて、糸を紡いでいるんですよ」
「毎朝ですか」
「でも、綿だけじゃなくて麻も育てているんです」
「麻も?」
「はい、この奥に亜麻を育てているんです」
綿花畑を通って、一味違う景色が見えた
薄紫の花を咲かせている亜麻
「これもきれいだな」
「ええ。もうちょっとしたら、収穫時です」
「でも、一人でこの仕事をされてるんですよね?大変じゃないんですか?」
「そうでもないですよ?私はただ、こういったものが大好きというだけで、大変と思ったことは一度もありません。むしろ、自分にぴったりだって思ってますから」
だが、収入はどうなんだろう・・・
そう思ったとき、ふと前世の記憶がよみがえる
僕が住んでた街には月に一度、フリーマーケットを開催していた
僕や妹も何度も足を運んでいて、人形やトレーディングカードを買ってたな
これだ!
これは使える!
「セルドアさん、一旦リビングに戻りましょうか?」
「え?」
「もしかして、ベル君。何か思いついたの?」
「うん」
シーナさんは、目をキラキラ輝かせていた
金に関することだろうなと察したんだろう
リビングに戻って
「単刀直入に言います。セルドアさん、ここにある服を売りませんか?」
「はい?」
「待って、ベル君。売るとしても、どこに売るの?」
「ザーク地区にだ」
「まさか、そこで店を構えろって言うんですか?私はお断りします」
「確かに店を構えることなんですが、毎日店を開くという訳ではないんです」
「・・・?」
「月に一度でも構いませんので、ザーク地区でご自分の服を売ってみてはどうでしょうという提案です」
「月に一度・・・」
「でも、それだとセルドアさんだけが店を出すという事になるから、他の人から見ると不公平じゃないかしら?」
「その人たちにもいらないものや手芸品などを売ってもいいんじゃないかって考えてる」
「ベル君は、セルドアさんみたいにいっぱい物を持ってて困っている人がいるんじゃないかって思ってるのね?」
「さすが、シーナさん。話が早くて助かる」
「それはつまり、お父様の領民たちにもお願いしたいのね?」
「うん。でも、まずは企画だけを作って、みんなに見てもらって意見を集めて、賛成かどうかも領民たちに決めてほしいんだ」
「私は大賛成!この後、お父様に相談してみるわ」
「と、彼女は言ってますけど、セルドアさんはどうでしょうか?」
「そうですね・・・、月に一度でしたら、そこまで自分の仕事に支障は出ないと思いますし、私的にはいいと思います」
「では、賛成という事で」
「はい、お願いします」
握手を交わして、交渉成立
「では、これにて失礼します」
「今日はありがとうございました。結果楽しみにしています」
一応、挨拶回りという事も忘れずにセルドアさんに礼をしてから
帰路に就く
「お帰りなさいませ」
「ただいま戻りました」
「どうでしたか、挨拶回りは?」
「こんなに大変な仕事とは思ってませんでした」
「ですが、この最初の一歩は大事ですよ?これから、もっと複雑な仕事も増えてくると思いますよ?」
「何か、嫌みにしか聞こえないのは気のせいですか?」
「本当の事を言ったまでですよ?」
ちょっと、悪戯じみた言い方だな
でも、これから忙しくなるのは確実だな
その前に
明日から、フリーマーケットの件で意見を集めないと
どうも、茂美坂 時治です
リーヴェル、前世の知識をまた活かしました




