第17話 マスターの過去と行方不明の兄
「リーヴェルの言う通り、俺はアスター家の人間だが、母親が違う」
「やっぱり」
「俺のお袋は、一般市民だ。どこにでもいる普通の女性だった」
「だった・・・?」
「もういねぇんだ、この世には。俺が10歳の時に病で亡くしちまった」
「そう。でも一つだけ聞きたいことがあるんだけど、あなたのお父様とお母様はどうやって知り合ったの?」
「これはシーナ嬢じゃないですか。リーヴェルと協力してるんですかい?」
「ええ、それよりも質問に答えて」
「そうだった。俺も詳しくは聞かされてねぇんだが、何でもカジノで知り合ったとボソッと言ってたのは今でも覚えてる」
「つまり、お父様は本当にギャンブルをしていたと」
「そういう事だろうな。俺もその話はほんとによく知らねぇんだ」
「それなら、これはどう説明するんですか?」
ベイデルさんが家系図を見せる
「これは?」
「アスター家の家系図です。この赤で示しているのがあなたと直接つながっているはずの人たちです。なのに、あなたやお母様の名前はどこにもありません」
「そうか、お袋は何も伝えてなかったのか・・・」
「知ってるんですね?」
「ああ、俺のお袋は未婚の母だ」
「ワイアットさんは不倫をしていたと?」
「だと思う。さっきも言った通りお袋はほとんどこの事については話してくれなかった」
「で?」
「え?」
「そこから、どうして私のお父様があなたの事を知ったのかのを聞きたいんです」
「ああ、結論から言うと兄に脅迫されている」
「脅迫ですか・・・」
「どうやって俺の素性を知ったかは分からないが、5年前に初めて会ったんだ。最初の一言は今でも鮮明に覚えてる」
「何と言ってたんですか、お父様は?」
「『汚れた使用人のもう一人の子供がお前か?』と」
「汚れた・・・使用人・・・」
「その言葉で確信したよ。アスター家は名のある使用人一家だと思ってたが、本当の姿は放蕩一家だと」
「ほ・・・、放蕩?」
「その言葉通り、アスター家は代々多額の借金を背負ってることも兄から聞かされた。もちろん、兄もギャンブルで借金を返そうとギャンブルで賭けまくってるみたいだ」
「「「は?」」」
僕を含めた3人の言葉が見事にハモる
「ちょ、ちょっと待って。賭けまくってるって、いったいどれぐらいの額を抱えてるの?」
「ざっと金貨1万枚と聞いている」
「「「い・・・、1万枚!!?」」」
ここも見事にハモる
ここで、この世界の通貨について話しておこう
この世界の通貨は共通しており
銅貨、銀貨、金貨、白金貨、王金貨、大王金貨の6種類の通貨がある
銅貨は前世の日本の額で100円程度
銀貨は銅貨の10倍、金貨は銀貨の10倍つまり1万円
ちなみに、白金貨は金貨の100倍、王金貨は白金貨の10倍、大王金貨は王金貨の10倍
そう、ワイアットさんが抱えている借金は大王金貨1枚分、1億円相当の計算になる
「そ・・・、そんな大金どこから・・・?」
ベイデルさんが小刻みに震えている
「俺もそれを聞いたときは、頭が真っ白になったよ。何でアスター家がこんなことになってるんだってな」
「ていうか、何でそんなに余裕な感じで話せるんですか?それに、兄さんから脅迫されてるって言ってましたよね?」
「そうだ、さっきお袋は一般市民といったが、ただの市民じゃない。犯罪者なんだ。俺は、犯罪者の息子なんだよ」
「は、犯罪者」
「俺の名前は、アリアス・ベンナート。お袋の名前は、ピッチェル・ベンナート」
「ピッチェルって、まさか・・・」
「シーナ嬢は知ってると思いますが、殺人鬼なんです」
「王都では知らない人はいないほど有名な殺人鬼。これまでに、3~40人男女子供問わず殺したと」
「シーナ嬢が知っているのはそこまででしょうね。俺は生前のお袋から『私は100人以上殺したこともあるのよ』と謎の笑みを浮かべながら言ってました」
「尋常じゃないわね」
「それにこれもお袋から受けた傷なんです」
マスターがシャツを脱ぎ、背中を見せる
そこには、2つの大きな切り傷が
「お袋は笑いながら俺の背中をナイフで斬った。当然俺は母親の素性を知って、恐怖に陥ったんだ。でも、思いとどまったのか俺の姿を見るり『ごめんなさい』と謝ったんだ。そこからは、お袋はそのショックのせいか病に倒れ帰らぬ人となったんだ」
「そんな殺人鬼がカジノにいたなんて・・・」
「それを知った兄は、『犯罪者の息子なんて世間に知られたくなかったらおとなしく俺に従え』と脅してきた」
「そこからあの事件につながった」
「そうだ」
「ってことは・・・」
「信じたくもないでしょうが、あの事件の真犯人はワイアットさんだった」
「そ・・・、そんな・・・」
ショックだったのか、その場に倒れ込む
「無理もないな。実の父親がこんな犯罪に手を染めてるんだからな」
「だったら、どうして僕に依頼したときに言わなかったんですか?言ってくれれば、ことは有利に進んでたでしょうに」
「さっきも言っただろ。俺は犯罪者の息子だって。それを知られたら俺はどうなるかってわかるだろ!」
「・・・この」
「シーナ嬢?」
「このヘタレ野郎が!!!」
突然、シーナさんが怒鳴る
「あんたは、そうやってただ言う事を聞くだけの盲目的な人間なの?」
「ちょ、ちょっと・・・、シーナさん?」
「犯罪者の息子ですって?それが何だっていうのよ!あんたはギルドマスターっていう素晴らしい肩書があるじゃない。それに比べたら、そんなことどうでもいいわ!」
「そりゃ聞き捨てならないですね。どうでもいいとか」
「そうやって逃げる気なの?」
「何?」
「あんたは現実から逃げようとしてる」
「逃げてませんよ、おれはただ・・・」
「だから、それが逃げてるっていうのよ!兄にそう脅されてるのは自分の立場を把握してないことよ。把握してるんだったら、俺は犯罪者の息子ですが、親のやったことは許せませんとか言えるはずよ」
「そんなきれいごとを言っても、世間は認めませんよ」
「そりゃそうよね、あんたの親は許されないことを続けてきた。でも、あんたはその親の犯した罪と向き合い償う事は出来る。あんたはその覚悟がないの?」
「俺が償う?」
「そうよ、それが今のあんたにできるせめてもの救いよ」
「・・・・・・」
マスターはしばらく考え込む
「・・・確かに、俺は親が犯した罪から逃げていたのかもしれない。償うなんざ頭に入ってなかった。でも、それが俺の弱みだったんだな。だから、兄に脅される羽目になってしまった。シーナ嬢の言う通りだ。この件が片付いたら、俺はマスターをやめ親の罪と向き合って償うよ」
「え?」
「何だよ、その顔は」
「やめるって本当ですか?」
「ああ、こういう運命だったのかってうすうす気づいていたかもしれねぇ。それに、シーナ嬢のおかげで目が覚めた。俺も、もう兄のやってることを止めたい。だから、頼む。俺も協力させてほしい」
と深々と頭を下げる
「勿論です。この件を必ず片付けましょう」
「「「おーーーーーっ!!」」」
「と、いうのはさておき」
「ちょ、まだ何かあるのか?」
「はい、未だに引っかかることがありまして」
「何だ?」
「どうして五年も待ってSランク冒険者パーティーに子爵を襲撃させようとしたんですか?」
「う・・・」
「一つ分かってることは、ギルドの掟を利用したことです。ギルドカードにも掟が書かれてますが、その最後のか条『マスターの命令は絶対遵守』と」
「そうだ、俺はこれを利用した。いや、させられたという方が正確かな」
「ワイアットさんにですか?」
「ああ」
「お父様がそんなひどいことをするなんて」
ベイデルさんが握りしめるこぶしは少し血が滲んでる
これは、明らかに怒りの感情だ
「それで、質問に答えてください」
「そうだった。あの事件の後、解雇されたのは街の情報屋で知った。だが、そのあとに手紙が届いてな。差出人は兄の妻だった」
「お母様が・・・?」
「ここにその手紙がある」
マスターから手渡された小さな手紙には
「夫は突然意識を失って倒れました。今も生きてはいますが、いつ目を覚ますかは分からないと医者も言っております。あなたが夫から脅迫されていることは存じております。しかし、夫の目が覚め次第、もうやめるよう説得いたしますのでもう夫の事は気になさらないでください フェルート・アスター」とある
「お母様の字だ」
ベイデルさんが涙を流す
「でも、その説得もうまくはいかなかった」
「ああ」
「・・・お母様」
「さて、これからどうする?兄を探すか?」
「やみくもに探しても見つかるかどうかは分かりません。ですので、僕から提案があります」
どうも、茂美坂 時治です
何だか嫌な雰囲気になってきましたね




