ぼくの決意
「どうしたんですか?呼び出して」
どうやら賭けには勝ったようだ。数分後、地学倉庫に来た草加さんを見て心の中で安堵する。
でもそれは自信のある賭けだった。ぼく達が数回訪れたこの地学倉庫、ここなら草加さんだけにしか気付かれずに済む。そう思っていたから。
「えっと、まあ要件っていうのは……」
深呼吸を一回だけゆっくりとする。
呼吸を整え、決意を固める。
そしてぼくは、告白した。
「明日、吉川さんに告白しようと思う」
宣言し、彼女を見つめる。
草加さんは一瞬、儚げな戸惑いを見せたもの、まるでその表情がなかったかの様に、明るく、健気に笑った。
「そうですかっ!それは良いですっ!それならば私も援助するのはやぶさかではないです」
「ありがとう」
ありったけの気持ちをこめて、礼を言った。彼女はそれを素直に受け取ったが、一秒後、訝しげな視線をぼくに送った。
「でも、なんで急に告白する気になったんですか?」
「あぁ、えっと……。まあ、心境の変化ってやつ?」
「そうですか?そんな風には見えませんが……」
「逆にどう見たら心境の変化って分かるの?」
ぼくをジロジロと眺める草加さんに言い返す。唸る草加さん。どうやら納得してもらえたようだ。
「でも、プランはあるんですか?」
心配そうな口調で尋ねられる。
「うーん、この前草加さんが言ってたみたいに、部活紹介が終わった後でいいかなって……」
「甘いっ!……ですっ!」
草加さんはきっぱりとぼくの計画を指摘し、遅れて口調を元に戻す。
「告白はそんな簡単なものじゃないんですっ!…………多分」
「多分?ねえ、さっき多分って言ったよね?」
「と、とにかくっ!緻密な計算に基づいて作られた計画じゃないと、あっけなく失敗してしまいます!」
「……まあ、確かにそうだけど」
ロマンチックな場所で告白されたいとか、何かを渡されながらがいいとか、告白には様々シチュエーションがあるだろう。その好みに吉川さんがどんな理想を抱いているか。そういうことを検討しろという意味だろう。
「まず彼女と話してみて分かったことですが……、あの、羨ましそうな目で見ないでください」
「し、してないって!」
そんなぼくの否定を無視して、彼女は続けた。
「綾瀬さん、あんまり場所とかにこだわりはないと思います。あと彼女の場合、プレゼントは逆効果ですね」
「え、なんで?」
「えっと、人を物で釣るのは嫌いって言ってましたし」
「……へ、へぇ~~」
危ねぇーーッ!学校に薔薇を持ってくるとこだった!
「もしかして『薔薇でもプレゼントしようかな~』とか思いませんでした?」
「ぁぉっ⁉」
芝居がかった口調で、ぼくの心中を読んでくる草加さんに驚愕し、仰け反る。
「ほんと、図星ですね……」
さっきまで芝居じみていたそれは、呆れに変わっていた。
「本当に持ってこないでくださいよ、薔薇」
その口調で念を押してくる草加さん。持ってこないよ!
「それで大事なのは台詞の方だと思うんですね」
「へぇ?」
どうして?という意味合いも入っている相槌を軽く打つ。
「やっぱり彼女はサッカー部のマネージャーってほどですし、熱い言葉のほうが心を打たれると思うんです」
「ははぁ……」
柄でもなく熱くなるのは嫌だけど、こういう時は一念発起する事が大事だ。
「それで熱い言葉というのは──」
熱弁を振るう草加さんの声を遮る音が聞こえた。
ぐぅ~~、というまるでいびきのような、獣の唸り声のような。
その音が聞こえたとき、ぼくはある感想を抱く。
お腹すいたなぁ……。
自分の腹の虫が泣いた音を聞き、お腹がすいていたと認識する。
「ははっ、ごめんごめん。ぼくのだよ」
頬をかき、苦笑しながら草加さんを見やると、
「──ッ!」
彼女は笑いを堪えるためか、お腹を抱えて頬を赤くしていた。
「えっと、そんなにおもしろかった?」
尋ねると、草加さんは片手を持ち上げぶんぶんと左右に振る。え、違うんだ。
他の可能性の思案をめぐらそうとする前に、草加さんがぷるぷると震えながら打ち明けてくれた。
「えっと、私も、鳴りました……」
一瞬、彼女が何を言っているか理解が出来なかったが、やがてお腹のことだと理解した。
「えっ!草加さんもお腹すいたの⁉」
それにしても、同じタイミングで腹の虫が鳴くとはとんだ偶然だ。興奮せずにはいられなかった。
「うぅ……、ばかぁ……」
最後の方は聞き取れず、彼女はただただ俯いて唸っていた。
「それじゃ、教室に戻ろうか」
苦笑しながら、草加さんに話しかけた。
教室に戻り、中に入る瞬間、自然と目が勝手に吉川さんの姿を探す。
だが、
「おせーぞ。何やってたんだー」
とぼくを見つけて、いつか聞いたことのある台詞を言い、ぼくの席で弁当を食べる葵しか見つからず、その隣の席の彼女は見つからなかった。
それでも葵が出て行った少し後、つまり昼休みの終わり頃には快活な吉川さんを見れたので良しとしよう。




