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1:非攻略対象の婚約者に

――好きな人とは結ばれない運命なんだ、私は。


 学生時代、好きになった相手には軒並み彼女がいた。

 社会人になってから好きになった人は、それなりに軽口を叩き合える関係になった頃、こんな告白をしてきたんだっけ。



「実は結婚するんだ。……あれ、ずっと付き合ってる彼女がいるって言ってなかったっけ?」



(――よし、現実はもう駄目だ)



 そう思って、私が手を出したのは乙女ゲームだった。

 恋愛するためのゲームなら、選択肢さえ間違えなければ結ばれないなんてありえない。仮初だってなんだって、意中の相手と恋人になって幸せになれる。

 


(もう現実なんて捨てて、ゲームでイケメンとのぬるま湯の恋に浸ろう)



 そう、思っていたのに。



「――公爵家令嬢となったからにはしゃんとしなさい。兄である私に恥をかかせたくないのならね」



 飴細工のようなブロンド、陶器のように透ける白い肌、飴玉のような菫色の瞳がよく似合う、中性的な美貌。

 貴族の生まれに誇りを持ち、才能に努力を重ね、将来の公爵家当主にふさわしい立ち居振る舞いを見せながらも驕らない青年――


 私が好きになったのは、よりにもよって、ヒロインであるシャーロットの実(・)兄(・)、シャルル・ウォーレルだった。


 この令和の時代、コンプライアンス的に『実兄と結ばれる作品』なんてほとんど皆無。当然、シャルルが登場する作品『魔法使いと飴玉の世界』でもそうだ。

 つまり私は、必ず恋愛ができるはずのゲームで、絶対に恋愛ができない非(・)攻(・)略(・)キ(・)ャ(・)ラ(・)を好きになってしまったのだった。

 この時、私は確信した。



(やっぱり、好きな人とは結ばれない運命なんだ……!)

 


*****



――けれど、事実は小説より奇なり。



「……おい、どうしたんだ?」

「ん……?」



 ぼんやりとしていた意識が浮上していく。数度目を瞬かせると、なんだかやたらときらきらしたものが目に映った。



「眠いのか。茶を飲んでいる最中、急に上の空になるくらい」



 甘く柔いのに、まるでうっとうしさのないすっきりとした声。



「それとも、私との茶会は、意識を他へやるほど退屈だとでも?」



 宝石をそのまま人間の形に拵えたような、現実ではありえないほどの美貌――



「あっ、ああっ……!?」



 みっともなく、言葉にならない声を上げる。目の前にいる青年は、さすがに怪訝そうに眉を寄せた。



「……本当にどうしてしまったんだ、婚(・)約(・)者(・)殿(・)」


(し、シャルル……!?)



 シャルル・ウォーレル――『魔法使いと飴玉の世界』の非攻略対象キャラクター。

 大好きな二次元のキャラクターが、なぜか目の前にいる……!?



(それに……今、なんだかものすごく気になる単語を言っていたような……)


「こ、こ、婚(・)約(・)者(・)殿(・)って……?」

「……? 今日の君は本当におかしいな」



 シャルルはアメジストのような瞳を瞬かせると、優雅にティーカップを置きながら答える。



「君は五年前、十二歳の頃から私の婚約者だと記憶しているが? 侯爵家ご令嬢、サラ・アッシュフォード」


(私が……シャルルの婚約者? 侯爵家の令嬢……?)



 何を言われているのかわからない。何が起こっているのかも。奇想天外な状況を前に、私の頭はついにオーバーヒートを起こして――



「あばば……」

「――おいっ!?」



 とても侯爵家令嬢とは思えない醜態を晒しながら、失神してしまった。


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