第48話 母親
そして、その場所へとついた。
俺も行ったことも無い場所。そう、母さんたちの新たな家だ。
正直ドキドキなどはしない。
母さんたちに会うのは、実に三ヶ月ぶりくらいだ。だけど、その中で、生活の中で大きく変わったことはほとんどない。
だからこそ、緊張する。
「ミラ、準備はいいか」
俺が言うと、
「うん」
そう、ミラが言った。
その言葉に、ドアを開けた。
「いらっしゃい」
そう母さんが言った。
久しぶりに会うが、相変わらずの様子だ。
見る人によればまだ30台にも見えんとするその表情
認めたくはないけれど、中々の美女だ。
「ミラちゃん、久しぶり」
「久しぶりです」
そして、ミラと母さんがハイタッチをした。
まるで、イエーーーイなんて叫んでそうなテンションだ。
「お前ら、息子を忘れんな」
「え、いたの?」
「あまりにもひどすぎないか」
流石に人の心をどこかに忘れて来ただろう。
「ささ、上がって」
その言葉に俺たちは家に入る。
久しぶり、ではなくこの家に入るのは初めてだ。
だからこそ、俺にとっても見知らぬ家。
緊張は止まらない。
「そう言えばかあさん」
「なに、どうしたの?」
「あの日は酷かったな」
「何のこと?」
首をかしげる母さん。絶対何に対して怒ってるか、分かってるだろ。
「急に引っ越しだなんて酷いだろ。しかも何も伝えないで」
「あんたこそ、ミラちゃんと離れたくなかったでしょ。だから今のままでいいのよ」
「そうかもしれねえが。なんでその先が、クラスメイトの家なんだよ」
そう言うと、耳元でささやく。
「ミラちゃんに発破をかけるためよ」
ああ、そういう事だったな。
ミラが俺にアプローチするためにこうしたという事か。
「まあ、とりあえずは許してやる」
「やーん、とりあえずって何よ」
背中をパンパンと叩く。
何なんだよ、この人。
久しぶりに会ったが、この人は実の母ながら少し苦手だなと感じた。
「そう言えば父さんは?」
俺は訊いた。今はどこにいるのだろうか。
「まだ仕事みたい。それよりも、せっかくだから、部屋に入って」
「部屋?」
「そうよ。智也とミラちゃんの二人部屋よ」
「やったー!!」
ミラは分かりやすく悦んだ。
だけど別にいい。一人で寝るよりも二人で寝たほうが楽しいのだから。っしかし
ミラは大分豊満な体をしている。
一体理性をどこまで保てるのだろうか。とはいえ、今までも二人で寝たこともある。それを考えれば、環境は変わるが別に大したことではないだろう。
だけどもちろん、思春期の男女を同じ部屋に入れても大丈夫と判断しても大丈夫なのだろうかという疑問は当然生じる。
そして、
部屋にミラと二人きりになった。
「早速智也さ、いちゃつこうよ」
「お前は何を言っているんだ、早速」
「せっかく夢ちゃん唸員だし、いいじゃん」
「良くないと思うが」
俺がそう言うと、ミラが分かりやすく唇を尖らせる。
その仕草が愛らしい。
そして、一瞬間を置いた後、
「おばさん、私たちを呼んだ用事忘れてない?」
と言った。確かにそうだ。俺たちがどうしてここに来たのか、その理由を忘れられている気がする。
だけど、
「こういう歓迎ムードもいいもんだろ」
俺が言うと、
「そうだね」
と、彼女は微笑んだ。
そしてミラは早速布団に寝転がり、
「おいでよ」
なんていう。
俺はそれに、「はいはい」と嘆息して、」
「分かったよ」なんて言った。
そしてベッドに寝転がると、すぐさまミラが俺に抱き着いてくる。
相変わらずだ。
しかも胸の感触も覚える。
「わざとやってるのか」
「うん、勿論」
やっぱり勿論だった。
「おばさんって優しいよね。私と智也が一緒に寝られるように、部屋一緒にしてくれてるんだから」
「俺は別に一緒じゃなくてもいいけど」
「えー、そんなの冷たいよ。酷い」
もうと、頬を膨らませたミラの頭を軽く撫でた。
「そういやさ」
「どうした?」
「智也って私をここに連れてきてくれたってことはさ、私を選んでくれるってこと」
「っ」
まさかここで言われるとは。
「違うよ、とは言えねえけど。でもここに来たのはお前の件があるからで」
「それ、言い訳でしょ」
言い訳。いい訳なのか。
確かにそうだな。ここにミラを連れてきた時点で、夢子に対しては我慢を有している。
「俺は、幸原さん、緑の事もどうしたらいいのか分からないんだ」
「うん」
「俺は我儘だよ。何もわかっちゃいない」
だけど、
俺が今一番なのは――
「もしかしたら俺は夢子の家に住めなくなるかもしれないけど、いいか」
「大丈夫。その場合はこの家から学校通うから」
「そういう話じゃないんだけどな」
俺が誰を選ぶかなんて、決めてないわけだし。
「でも、その場合でも筋は通すつもりだよ」
夢子を選ばないとなると、夢子に対して申し訳のない事をしてしまう事になる。
その場合にどうするかなんて、
今から考えなければならない事だ。




