四十戦目
本日連続投稿です。
咲羅が帰って来る数時間前に戻る。
俺の妹がそう簡単に死ぬ訳がない。だけど咲羅がいた場所はダンジョン攻略の最前線。何があってもおかしくない。
「どうした得武よ。浮かない顔して。」
俺の部屋で考え事してたんだ。
男とも女とも表現しがたい中性的な容姿。美男もしくは美女とも言えるその見た目は神々しさを放っている。
こうして顔を見せたという事はブラハム様は俺の事を気を遣って現れたという事。
なんか気を使わせてしまった。
エリシアもブラハム様の隣に立っている。
心配そうに俺の目を覗き込んでいた。
「咲羅が……。いやなんでもない。」
実物を見た訳ではない。途中で言いかけて辞めたのは死んだ事実を受け入れてられないからだろう。
「お前の妹は死んでない。安心しろ。」
「ブラハム様?」
「帰ってきたら今後の方針を話すと言ったな。妹の事を含めてなんだぞ。」
「それは一体。」
「まあ、落ち着け。」
そういえば綾香も言ってたっけ。
私はまだ咲羅ちゃんの眷属よ。死んだなんて嘘だ。と。
「異世界人どものトラブルに巻き込まれてるようだ。」
「異世界人?」
「詳しい事は分からないのだが、異世界人が水面下で暴れておる。上手く利用されたのだろう。」
咲羅が利用された?異世界人?許せない!!
「なんだよそれ!!詳しく教えてくれ!」
「熱くなるな!ワシにもわからぬ。何か特殊なスキルによって囚われておる。」
「どうすれば助けられますか!!」
「まず、話を最後まで聞け!救い出してお前の特製の万能薬をかけてやれ。それで充分だ。」
「えっ!?そんな簡単に助けられるの?」
感極まって思わずタメ口になってしまった。
慌てて口を抑える。
「逆に言えば、得武、お主の作った薬がそれほど異常なんじゃ。わかっておるか?」
「そうなんですか?」
「そうじゃ。風の噂でな、こんな情報がある。咲羅の魔力を強く受け継いだ魔物が我が家に向かっておる。今晩あたりにでも到着するだろう。丁重にもてなしてやれ。」
なんだって!?咲羅が帰って来る?
「咲羅が今晩!?了解です!なんだよ!生きて帰って来るのか!心配した。本当によかった。」
「馬鹿、咲羅本人ではない。咲羅の僕じゃ。喜ぶな!!」
「しもべ……。」
「ワシは精霊界でもう少し情報を探って見る。異世界人風情が、ワシらの子孫に手を出した事後悔させてやる!!」
「ありがとうございます。ごゆっくり。」
ブラハム様、エリシアに向き直る。
「それからエリシア。しっかりサポートするんじゃぞ。知ってると思うがこの世界のモンスターはどうもきな臭い。」
「わかってます。どうぞいってらっしゃいませ。」
ブラハム様は奥の部屋へと消えていった。
「エリシア、きな臭いって?」
「モンスターがどこから来たのか。何故、魔力無しの物理攻撃は通じないのか疑問じゃない?」
「そう言うもんだろ。」
エリシアは首を横に振る。
「異世界では少なくとも魔力無しの騎士様も活躍してたわ。バーサーカーなんて物理最強ジョブが存在するほど魔法も物理も活躍してたのに。」
「異世界よりもハードモードなんだな。」
「そう。」
情報が少なすぎる。
憶測すらも出来ないほど情報がない。
情報と言えば学校。皆元気にしているだろうか?
「明日、学校に情報収集に行こうと思う。着いて来てくれるか。」
「もちろんよ。パートナーでしょう。」
「ありがとう。」
いろいろあったけど、まだパートナーって言ってくれるのは嬉しい。
エリシアも精霊界で大精霊になった。
パートナーという意味ではその瞬間にそばにいてやれなくてパートナー解消だ!!と言われても仕方ない状況でもあるのだが。
エリシアは本当に強くなった。
姿形も大きくなり、大人の女性だ。
なんか2人でゆっくり話するのって何年ぶりだろうか。
現実世界では数日の話だけど。
「ところで妹さん、どんな感じだったの?」
なんでも無い話題だった。
「双子だから顔つきとか俺と似たところはあるんだけどな、顔合わすと文句ばっかりで可愛くないんだ。」
「可愛くないのね。」
「剣道が強くて、クラスの女子からもてまくる。」
「あら、男子じゃないんだ。」
「それでな………」
30分以上は話しただろうか。
「それでな………」
「まだ続くの!!得武、あなたが妹が好きなのは良くわかったから。」
「なんでそうなるんだよ。手が掛かるとか文句が多いとかすぐ暴力振るうとかそんな話しかしてないじゃないか。良いところ全然語れてない。」
「ノロケにしか聞こえないわ!」
「なんだよ。エリシアが聞きたいって言ったんだろ。」
「まさか1時間も話されるとは思ってなかったわよ!!」
そんな馬鹿話もしながら楽しんでいた。
エリシアと会うのは久しぶりだ。懐かしい。
エリシアの話も聞いてみる。
「エリシアの方でもラウダさんとは関係上手く行ってるのか?好きだったんだろ?」
「得武が常に一緒にいたから進展なしよ。」
それは……なんかすまん。
考えたが弁解の余地無しだ。
「そう、そうか。また会いに行こうな。できる事はなんでもする。告白する時はいつでも言ってくれ。呼び出せる名刺を3つも持ってる。」
「そこまでしなくていいわよ。遠くから眺めてるだけでいいのよ。私精霊よ。立場が違うわ。その名刺は倒せない敵が出た時用に大切に取ってなさい。そんな事より……。」
そんな馬鹿話を含めながら、あっという間に夜は更けていった。
魔物の気配を感じる。
モンスターならこの家が勝手に迎撃している事だろう。この家が凄い歓迎している。
ブラハム様が言っていた咲羅の魔力を強く受け継いだ魔物。間違いなく近づいて来ている。
玄関が開くのを待つ。玄関は静かだ。
意表を突いて裏口から侵入してくる魔物。なかなかに癖強めだ。
さすが咲羅を強く受け継いだ魔物。
姿が見えるまでじっと待つ。
ひょっこり現れたのは一匹のスライムだった。
しかも通常より姿が小さい。
堂々と出現しておきながら顔はそっぽを向いている。ツンデレ具合、まさに咲羅だ。
裏口から入ってくる行動といいまさに咲羅だ。
ぼろぼろな姿にも気がついた。この道中大変だった事が伺える。自分の身を削ってでも無理矢理にでもこなしてしまうこの精神力。まさに咲羅だ。
言葉を失った。なんて言えばいいんだろう。
眷属?とんでもない。魂はあの中に入っている。そう確信した。
「咲羅、帰ってくるのは知ってたよ。おかえり。よく頑張ったな。」
何を言ってるんだろうか。冷静ぶって声かけて。
もっと驚いた感じで出迎えられなかったのか?
「知ってたよ」ってセリフ一体なんなんだろな。
そんな事考えながら出迎えて抱きしめた。
待て、咲羅の事だから腹減ってるはずだ。これで何も出さなかったら俺、永遠に齧られ続けるのでは?
「腹減ってるだろう。ばあちゃんが用意してくれたご飯がある何か食べるか?」
プルプル震えてる。きっと、「言わなくても分かるだろ!早くいっぱい飯を持ってこい!」と言っているはずだ。
これは厄介だ。
目の前に用意してみた。
案の定、お腹空かせていた。ご飯粒をかじっている。
その姿。目から涙を見た。
「おい、泣いてるのか?何があったんだよ。教えてくれるか?」
返事はない。
ただ、満足はしてくれただろう。
(得武、失礼な事考えるのね。)
俺の心の中を覗いたエリシアはそう呟く。
(失礼とはなんだよ。俺には死活問題だ。)
(大体、本当に妹なの?合ってる?)
(間違いなく咲羅の魂が宿ってる。)
(凄い自信ね。)
しばらくするとスライムはすやすやと眠りに着いた。
(不思議ね。スライムって本来眠るように出来てないのに。)
エリシアはまだ疑ってスライムを見ていた。
次の日。
「おはようエムル!!」
「綾香、咲羅が帰って来たんだよ。」
「咲羅ちゃん!?え?このスライム可愛い!めっちゃ小さい!!」
撫でくり回していた。
そのスキンシップに嫌そうな咲羅。
便乗してアルちゃんまで出てきて舐め回す。
困ったように逃げ出した。
「咲羅だっただろ?」
「確かに私と同じ眷属の紋章は付いてたけど。本当に咲羅ちゃんなのかな?飼い主に似るって言うし。」
「いや、どう見ても咲羅本人だろ?」
「私はわかんないな。なんか喋れたらいいんだけどね。」
「喋れもしない。念で会話も出来ない。」
「ペンを持たせて見たら。」
「なるほど。その手があったか。」
持たせて見る。
咲羅は必死にボールペンを動かそうと頑張るが………文字にはならない。
「必死に動かして可愛い!!」
「文字になってないぞ。終了!!」
コミュニケーションが取れない!!
次第にアルちゃんと追いかけっこを始めた。
凄く楽しそうだ。
「アルちゃんとは通じ合ってるみたい。」
「ただ追いかけられてるだけって言う説ないか?」
「ないよ。絶対楽しんでるよ。」
コミュニケーションが取れない以上どうしようもない。
当初の目的通り学校で情報収集をする以外方法は無さそうだ。
学校へ到着。
想像以上に学校は変貌していた。
まずは教育機関ではなく、難民の生活の場になっている。
「なんか空気が暗いな。」
「そうだね。」
俺の反応に綾香が苦笑い。
これについてはエリシアも意見があるようで、
「ちょっと、地球の学校っていつもこんなんなの?異世界の学校は陽気よ。」
俺の頭の上から聞こえる。
妖精サイズになって来てもらってる。
「昔っからテンションは低いが、ここまで悲壮感漂ってないぞ。」
俺はフォローする。
「エムルは知らないかも知れないけど、この学校内で、たくさんモンスターの餌食になったんだからね。モンスターが出てから暗いよ。今日のは特に異常だけど。」
綾香から少し補足が入った。
難民が集まっていると言うので仕方ない話ではあるのだが。
体育館にも教室にも怪我人で一杯であった。
学校の生徒も総出で医療に携わっていた。
「リノちゃん、この状況、どうしたの?」
綾香がクラスメイトを見つけて声を掛ける。
「綾香おかえり!それがね。」
状況はこうだ。
まずは大分川より向こうへの侵攻に難色を見せている。
敵が強く、怪我人も増え。回復薬の製造が間に合わず、怪我人に溢れてる。
食糧問題も加速し、一日一食のカップ麺しか支給されない。
怪我のケアより、一人一人の心のケアが深刻な課題となっているらしい。
「綾香、保健室には明日にでも死んでしまいそうな人たちがいっぱいいるの!!1人でもいいの。あなたのスキルでなんとか出来ないかな?」
「なるほどね。そんな事ならお安い御用。」
エリアヒール!!
無詠唱。綾香が手を挙げると空中で魔法陣が広がる。
校舎全体を包むと光の粒子が空気中を漂う。
通行人がその光にびっくりして綾香を凝視した。
幻想的な演出。
その粒子に触れるだけで心が芯から温まる。
「今の光何?もしかしてスキル?私、保健室でって言ったと思うんだけど。」
戸惑うリノさん。
「怪我が治った!!」
「俺、歩けるよ!!どうして?」
「腕が生えてきた!何が起こってるんだ!!」
体育館から響く歓喜の声。
「一体、どうなってるの?」
理解が追いついて無いリノさん。
「今、この空気中に舞ってる光の粒子が怪我人を治してるよ。大丈夫。保健室も範囲に入ってるから」
と綾香は微笑む。
「何そのスキル。やばい凄すぎる。私達看護要員要らないじゃないの。」
「いるよ。心のケアが大事なんでしょ?」
「怪我してるから心のケアが必要なんであって根本問題今一瞬で解決しちゃった。」
目を丸くしているリノさん。
すると一部始終を見ていた通行人が叫んだ!
「神だ!神が降臨した!!」
と指を指して。
視線が綾香に釘付けになっていた。
手を組んで拝む者も出てきた。
次第に綾香の顔が紅くなっていく。
紅くなりながら皆に笑顔で手を振る。
「いや、どうも!」
「どうもじゃない!!恥ずかしいのかサービス精神旺盛なのかよく分からないわ。」
リノさんが突っ込む。
「やばい。人だかりが出来たら面倒だ。移動するぞ。」
俺の指示に無言で従ってくれた。
校舎内にて、学校の現場をリノさんから聞く。
想像以上に不便だった。
怪我人だけでなく精神的不安から対人トラブル、暴動も絶えない。
集団生活のストレス、生活環境は最悪だった。
何より食糧問題も深刻だ。
支給されるのは1日一回のカップラーメンのみ。飢餓に苦しんでいた。
よって結論から言うと。
「綾香、料理作るぞ!」
エリシアのアイテムボックスには相当の食糧が詰め込まれている。それを使う予定だ。
「ここに収容されてる人の数って2000人を超えてるんだけど、もしかして人数分?」
「もちろん。家庭科室でやらせてもらえるよな。」
「多分。鍋足りるかな。」
さすが綾香、俺の意図を阿吽の呼吸で察してくれた。
それに対して困惑するリノさん。
「待って!なんで鍋の心配?材料どうするの?」
「説明は難しいけど材料はあるの。リノちゃん、手空いてる人とか集められるかな?」
「材料どこにあるの?」
「あるって言ったらあるの。信じて。」
綾香も説明しようとしたらアイテムボックスの存在をバラさないといけない。あまりこう言うスキルは口外しない方がいい。上手く説明出来ない。
信じてと言われても反応に困るのはリノさんだ。
顔、めっちゃくちゃ皺くちゃにして考え混んでいる。
理解の範疇を超えている。
「理解出来ないけどわかった。看護に回っていた人とか集めてみる。先生とかにも声かけるけど。みんな死ぬほど疲れ切ってるからあまり人集まらないかも。」
「いいよ。大丈夫。」
「人集めるけど、本当に材料あるの?今から取りに行くって言ったらブチ切れてもいい?」
「本当にあるから心配しないで。」
「わかった。信じる。」
そして集まったメンバーが俺たち含めて7人。
2000人前を7人か。何時間掛かるんだろ。
「ドンキホー○のお姉さん!お久しぶりです。文化部のお二人、お元気そうで良かったです!他の4人は元気ですか?冬月先生、ご無沙汰しております。」
「ドンキホーテ○の姉さんって言い方辞めて欲しい。私には裏切られた思い出しかないし。辛い。あら!?もしかして、隣にいるのは新子さん?新聞で死んだって聞いてたけど。」
お姉さん、俺の方を見て言ってる。
新子で間違いないとは思うんだけど……
「双子の兄の新子得武です。妹の咲羅がお世話になりました。」
「お世話っていうか。咲羅さんとはいろいろあったの。あら兄さんだったの。妹さんの事は残念ね。」
「まだこの目で確認した訳じゃないので。俺は何処かで生きてると信じてます。」
お姉さんは気まずそうに笑った。
別方面から声がする。
同じ女生徒なんだけど、
「田辺さん、あの時モンスターから守ってくれてありがとう!本当助かったわ。他の4人は実家に帰ったわよ。」
「それは良かった。私も錬金術少しは使えるようになったのよ。」
「錬金術使うのは私の後ろに隠れてるこの子なんだけどね。記憶ごっちゃになってない?」
「そうだった。ごめんなさい。」
綾香は口を抑えながら赤面。後ろの子に平謝り。
それから先生もいた。
「田辺さん。本当久しぶりね。」
「はい!冬月先生、5年ぶりですね。お久しぶりです。」
「5日ぶりよ。大丈夫?」
「あれ?そうでした。」
苦笑いの綾香だった。




