百五十八戦目
エリシアの声が脳裏に響く。
(咲羅、あなたのやろうとしてる事分かるけど・・・貴方わかってるわよね!?)
(エリシア、なんの話?)
(私達を憑依したところで得武とのステータスの差が埋まらない。それを補う為にスキルがあるんだけど真似されたら意味がないのよ。)
耳が痛い。事実、ステータスに差が開いている為簡単に真似されてると言っても過言ではない。
(そうだけど。)
(模倣剣技のスキルを止めないと。)
(止めるって言ったってどうやって?スキルよね。)
(得武ってさ、あり得ない事に装備にスキルが付いてるじゃない。)
得武兄のそれって装備というのかな?裸に半袖のワイシャツ、短パン、サンダルのラフな格好をしているけど。
いや、見た目で判断したらダメ。その一つ一つの衣服に半端な攻撃ではかすり傷さえ付かない程の防御力と特殊スキルを持っている。
(あ、そっか。模倣剣技自体は得武兄の固有スキルじゃないんだ!!)
(そう。あの剣を弾き飛ばせばスキルは使えなくなるんだけど。)
(そういう事ね。)
目的は決まった。実行に移すのみ。
エリシアに精霊魔術で風の大精霊シルフを召喚してもらい私のサポートにあてる。
私自身には強化魔術を掛けて常に素早さを10倍に上げる。
魔女の鎌を召喚し、アルちゃんには神降しを掛け突撃する。
「二刀流?その気配、エリシアとアルちゃんか。懐かしいな。」
得武兄のもう一つの手にも魔剣が召喚されていた。
私が前に踏み込むと、同じタイミングで得武兄も動き出す。
アルちゃんの剣技は多数が半端ない。
無駄無く、流れるような斬撃を右左交互に撃ち込んでいく。
上段突き、横凪ぎ、袈裟斬り、足払い、切り上げ、回転斬り、大振り降ろし。
攻撃と攻撃の合間が無く隙が無い。
適当に斬撃を繰り返しているように見えるが、相手の死角や重心移動の難しいポイントを突く為に大抵の場合全てを捌ききるのは不可能だ。
それを強引に可能にしているのが得武兄の憎いところ。
私を嘲笑うかのように全く同じ動きで返すのだ。
「無駄だ。」
「そうかしら!?」
最後にスキル、クロスエッジで攻撃する。
それすらも寸分狂わず同じ技で相殺してくる憎らしい奴だ。
衝撃で宙に投げ出された私。それは得武兄も同じ。違うのは私にはエリシアの魔法で召喚した大精霊シルフの助けを得てる事。
シルフの魔法により空間に空気の厚い壁を発生させる。
それを蹴る事により私は空中でも自在に体制を変えられる。
「神気・絶影!!」
「神気・絶影!!」
放った技はなんと寸分狂わず同じ動きで相殺された。
得武兄にシルフの加護はない。私と同じように空中を縦横無尽に動く事なんて不可能な筈なのに・・・。
ああ、得武兄って空飛べるんだった。
「これならどうかしら?アーティファクトレベル10 !!」
これは私固有のユニークスキル。模倣剣技というスキルはあくまで動きを真似するのであってスキルをコピーする事は出来ない。
7年前の時点では。
「おいおい咲羅、そんな大きな鎌持って・・・このホテルを跡形もなく消し去るつもりか?」
「得武兄が逃げなければホテルは無事よ。」
「おいおい、冗談はよしてくれ。」
この反応を見る限り得武兄はやはり、魔女スキルを所有していない。これならいける!!
「行くわ!!。」
「来いよ。魔剣解放!!」
得武兄の剣の刃先から黒い雫が滴り落ちる。
それが蒸発し霧となり、周囲に充満する。
この霧は魔力だ。つまり下手に突っ込んだらこの魔力の霧はきっと魔術となって私を襲う。
スキルは違ってもアーティファクトレベル10 と同等のスキルという訳だ。
スキル、ヨグソートスで内側からダメージを与えようと思ったけど、そしたら得武兄の最大の一撃を受けてしまう。
こうなったら徹底的にぶつかってやるわ!!
「解放!!」
巨大化した魔女の鎌を魔力と神気を纏って振り下した。
また同様に得武兄は私の攻撃に合わせるように振り下ろす。得武兄の魔剣は私の剣に近づくにつれ霧の魔力を吸い上げ巨大化する。
ーーー甲高い轟音と弾ける火花が閃光のように光る。
魔力と魔力がぶつかり合い、巨大な渦となって空へと拡散する。
魔女の鎌は魔力を失い通常サイズにもどる。
反対に得武兄は刀身が砕けた魔剣を捨てる。どういう原理か知らないが、地面に転がりながらその剣は砂に変わる。
ああ、耳がキンキンする。
得武兄がポツリと何かを呟いたのだがなんと言ったのか聞こえない。
剣を失ったのだから「俺の負けだ。」と言ったのかな?まさかね。
「なに?」
聞き返すと得武兄はニヤリと笑った。やはり第二ラウンドが始まるようだ。
得武兄の手には弓が握られている。
あれ?得武兄ってボウガンじゃなかったっけ?
「模倣剣技。」
って聞こえんだけど、私の耳どうにかなっちゃったのかな?
得武兄は綺麗なフォームで弓に3本の矢を番えている。
「もはや剣技じゃないし。」
「ユカナって奴のスキルだ。ちゃんと止めてみろ。」
え、ユカナちゃんの?
と思ったら同時に放たれた!!
2本は・・・無視。何故なら空高く舞い上がり直近では脅威がないからだ。1本は真っ直ぐに私を狙う。
最小限の動きで躱す。
弓矢って追尾性能スキルが付与されたものが多いけど、掠ってしまうぐらいのダメージはご愛嬌だ。
嫌な予感はするけれど、これはチャンスなのだ。
肉を斬らせて骨を断つじゃないけど代わりに私が一太刀入れる!!
<咲羅、ダメだ。>
<アルちゃん?>
アルちゃんが勝手に私の身体を動かした。
オーバーアクションなぐらいに真横に飛んで矢を躱す。
<せっかくの攻撃のチャンスが!!へ?>
矢がスピードを殺さずに物理的法則を無視して180度反転して私を追尾して来た。
それをクロスエッジで叩き落とす。
「ほう。気配を絶った狙撃だったんだがな。」
気配を断とうと私達には無意味。
「得武、お前は実の妹を戦闘出来ない廃人にする気か!?」
アルちゃんが怒っている。
「アルちゃんか。そうだな。こうでもしないと第一線から退かないだろ。」
「気に食わない。咲羅の覚悟を蔑ろにする気かぁ!?」
(アルちゃん?説明しなさい。)
(あの攻撃は最大HPを削る。お前の第六感は危険を訴えなかったか?)
(へ?鳴らしてたかな?)
警笛は鳴らしていた。でもそこまで脅威とは感じて無かった。
待って、なんでそこまで脅威とは感じて無かったのだろうか。嫌な予感を感じたら反射的に身体は反応してたのに。
(咲羅は気配遮断にまんまと嵌められたんだな。)
得武兄の気配遮断の使い方がエグいという話。
「大塚とのコンビネーションには骨が折れた。咲羅、対策しないとそろそろ詰むぞ。」
余裕の表情の得武兄。
私に何かをした。私は何故か身動きが取れなくなっている。
何故?
状態異常系ではない。
大塚会長のスキルといえば結界術にある。
つまり私は結界という壁に挟まれて身体の自由を封じられているのだ。
そこへ、先程得武兄が空へと放った矢が隕石の如く私目掛けて急降下。
音速を越える速度で迫り大気との摩擦により矢先が強い光を発している。
対策ね・・・。
私が対策しなくても、エリシアがもう既に動いている。
大精霊シルフの加護により今の私は風魔法に関して高い適正値を持っている。
精霊魔術に関して特化したエリシアは私の持つ叡智のスキルを得て強力な魔術師としても育っている。なら信じて待つだけで良い。
「トルネード。」
矢が当たる直前、私を護るように竜巻が発生した。
矢は勿論、私を拘束していた結界ごとフードプロセッサーの如く粉々に粉砕して見せる。
エリシアが操るまま得武兄に指先を向けると高密度の風の刃が得武兄を切り刻む。
・・・はずだった。
一瞬黒い繭が得武兄を覆った。
その繭の破片が風に飛ばされ宙を舞う。
仕切り直し。
あの繭はなんだろう。叡智スキルを発動して魔法の詳細を探ってみると、「影魔法」って表示が出てきた。
結界術のように自らの意思で発生させるスキルとは全く別のもの。
無意識のうちに発動する自動防御という奴だ。
クイーンエリザベツとは全く別の意味でダメージを与えられる気がしないんだけど。
そう思っていると、得武兄の手には先程とは違う色違いの赤い魔剣が握られていた。
私と得武兄との距離はホテルの端から端。かなり離れているのだが、ここから接近戦を持ち掛けるというのか?
ここは魔法で牽制するのがセオリーなのだろうけど。
私は縮地を警戒しつつ、風魔法を集結させる。
荒ぶる突風が得武兄の行動を阻害する。
街を彩る多種多様な看板達が私の風魔法に巻き上げられ得武兄を襲う。
「おいおい、街の景観破壊するなよ。」
得武兄は突風に煽られながら、何とも余裕そうな声が響く。
あろうことか、各会社のロゴを主張する看板達が瞬く間に砂になる。
更に私は目を疑った。屋上から街を見下ろすと私が巻き上げてしまったカラフルな看板達は何事も無かったかのように元の位置に居座っているのだ。
得武兄の錬金術だ。呼吸するように砂に変え、それを素材として使用し看板達を錬成する。一瞬にして街を保全してしまった。
その事実に驚きつつも私は魔法を止める事はしない。更に追加で派生魔術を得武兄に見舞う。
「ライトニングボルト!!」
真昼の空が一瞬真っ暗になった。
遥か上空から黒光りする鞭が得武兄に向け叩き付けられる。
太陽が光を取り戻すと・・・得武兄の姿はそこには無い。
躱されたのだ。
大通りを挟んだ向こう、高層ビルの壁にへばりつく得武兄の姿があった。
得武兄は魔剣に大きな魔力を込める。
魔剣はその手の中で激しく燃え上がると、放物線を描き私目掛けて飛んでくる。
私はそれに、激しく命の危機を感じた。
「ネオグラビトン。」
磁石に吸い付けられるように魔剣は垂直落下する。投げられた魔剣を重力操作魔法で地面に縫い付けたのだ。
ホテルの屋上に刺さると・・・耳をつん裂く騒音が!!
何が起こった!!?
気配察知スキルにより情報を収集する。
ホテルの全窓が粉々に吹き飛び、景色は真っ赤な炎に包まれた。
こんなに火の回りが早く大火事ってあるのだろうか?
一瞬でホテル全焼である。
生活魔法により、大火事による私へのダメージは無いのだが・・・。
「ちょっと規格外すぎでしょ。」
と思わず私は声が出た。
でも規格外なのはここからだった。
得武兄は指を鳴らす。
すると、全焼中のホテルは何事も無かったかのように元の姿を取り戻す。
私は幻術にでも掛けられた気分だ。
割れた窓も、現在進行形で空高く燃え上がっていた炎の柱は何事も無く消え去っているのだから・・・。
もう、なんなのよ一体。




