百五十七戦目
ナツメさんからのLINEの数が凄い。
「大丈夫だべか?」「心配だから連絡くれろ。」「生きてるべな。」等、私を心配する内容ばかりのもの。やはりナツメさんは優しい。
心の中がポカポカしてくる。
気遣われるというのはやはり嬉しいものだ。
でも疲れている為なかなか返信する気になれない。小休憩を挟み、やる気を振り絞って「生きてます。」とだけ返しておく。
それ以降の返信は見ていない。
嗚呼・・・疲れた・・・
自宅で部屋着のままテレビを付けて横になっていると、嫌でも情報が入ってくる。
今回の件、全国的に大規模な災害として扱われていた。
<第二次ダンジョン災害>とまで名称まで付いてニュースで取り上げるほどだった。
今回の災害は日本に12箇所の新規ダンジョンが発生。それだけでも異質なのに同タイミングでのダンジョンは暴走だ。初めてダンジョンが発生した時程のインパクトではないが、大事件には変わらない。
でも被害は思った程、そんなに酷くないのかもしれない。
市街地まで被害が及んだのは青森のダンジョンだけだと聞く。それ以外のダンジョンは暴走こそしたものの優秀なダンジョンスコアラー達の活躍により早期収束を見せている。
逆に、被害がこれだけ小さく済んだのかと考えると・・・得武兄の活躍ありきなのだと思ってしまう。
聖女様のニュースになって私は飛び起きるのだった。
私は綾香ちゃんが大変な目に遭った事も知らなかった。
勿論すぐに電話した。
綾香ちゃん、しばらくは病院で精密検査を受けるそうだ。
凄い落ち込んだ様子ではあったけど、声のトーン的に健康には問題は無さそう。
・・・本気で心配した。
私はニュースに怒っている。
トップニュースはなんと大塚会長の白鯨との死闘。及び、私が白鯨の腹を切り裂いて出て来る瞬間だった。
あれはやばい。ニュースで私の名前が大々的に上がっていた。
ネットを開けば、12箇所のダンジョン出現は同時多発テロの陰謀説を囁いている。
誰が陰謀を企ててるか判明はしていないけど、『脚光を浴びる為に咲羅が自作自演でやっている』という書き込みを見てイラっと来た。
それ以降、ニュースは見ていない。
結論から言うと寝落ちしていた。
時間は早朝。
身支度を整えて朝ご飯を軽く済ませると得武兄の居場所を追跡する。
使うのはダンジョン内ワープだ。
まず飛んだのは北海道。
タクシーを捕まえて、アルちゃんが感知した得武兄の居場所へ向かう。
(得武の野郎。俺たちの気配に気が付きやがった。埼玉に飛んだ。)
「運転手さん。止めて下さい。ここで大丈夫です。」
「え?市街地までは車で30分以上ありますけど?」
「いいんです。止めてください。」
私はタクシーの運転手を困らせてしまった。
何故なら両サイドに誰かの育てた小麦畑が地平線まで伸びている。先の見えない畑の道のど真ん中で降ろして貰うのだからタクシー運転手も驚いて仕方ない。
私はタクシーを見送り、見えなくなったところでダンジョン内ワープを起動した。
景色が変わる。
瞬間移動的な早さで東京のダンジョン内へ。
そこから最寄り駅に向い、電車に乗って埼玉へ。
「嘘っ!!」
向かっている途中で追ってる気配が消えたので電車内で思わず声が出てしまう。
(咲羅、今度は徳島だ。)
私は心の中で「了解」と呟き行動する。
車内のトイレに駆け込み、鍵を閉めずに中へ・・・。
人の視線を避けた上でダンジョン内ワープを起動する徳島県の所有ダンジョンへ飛ぶ。
ダンジョンを出てすぐに得武兄の気配が消えた。
(次は熊本県阿蘇市)
渦潮を眺めながら私は思う。
私達が得武兄の気配が分かるように得武兄も私達の気配が分かるのだ。
ワープしても埒が開かない。これじゃ追っては逃げられての繰り返しだ。
(咲羅?)
(アルちゃん、わかってるわよ。熊本県ね。)
人目のつかない場所でダンジョン内ワープを起動する。
私は大分県黒川温泉ダンジョンに降り立つ。そこからタクシーアプリで足を確保。森を進みながら阿蘇山へ・・・
(鹿児島だ。)
逃げるわね・・・。
タクシーから降りながら、吐く息にため息が混じる。
不意に杉の香りが鼻を刺激した。
立ち止まって考える。
公道だというのに森が深く、昼前なのに光があまり届かない山道を眺め。
都心から始まり、海、山、森、川。様々な環境がこの数時間で一気に移り変わるのだ。
なんか軽くプチ旅行をしている気分になる。
何の為に私は得武兄を追ってるのだろう。決して旅行する為に追ってるのではないのだけど。
(どうした?咲羅。)
諦めたくなる。どうせ追っても逃げられる。
逃げられるなら追っても無駄だと考えてしまう。
(なんでもない)
そんな事考えるな。得武兄が諦めるまで追い続けるだけ!!
私はそんな決意を胸にダンジョン内ワープを起動し、いざ鹿児島へ。
しばらくすると案の定気配が消えた。いつもと違うのは
(香港だ。行けるか?)
そっち方面に・・・所有ダンジョンなんて無い。
飛行機に今から乗ったって得武兄はワープして逃げるだろう。
「行かない。絶対に向かうから会いに来させてやる!!」
涙を拭きながら私はそう決意を胸に刻む。
(そうだよな。海外に逃げるなんて手に負えないよな。)
なんかこのまま逃げられたままだとムシャクシャする。
やっぱり追い詰めたい。
なんか向こうから会いに来てくれるような事って何かないか?
無視出来ないもの。
(アルちゃん、いい事思いついた。)
私はステータスオープンと心の中で唱える。
ステータス画面2枚目のダンジョンマスター専用の画面にとっておきの乗り物があったはず。
(咲羅、過去最高レベルの悪寒がしてるんだけど・・・)
(気のせいでしょう。)
<魔石を消費して、クイーンエリザベツを復活させますか?>
そりゃYESでしょう。
突然空に巨大な白い鯨の要塞が出現した。
(さ、咲羅ぁぁぁあ!!)
アルちゃんの悲鳴が聞こえる。
これには今まで傍観していたエリシアも声を上げる。
(ちょっと!!幾らなんでもやり過ぎでしょ!!)
私は意を決して白鯨の口の中に飛び込んだ。
(得武兄を追うならこれぐらいしないとダメ。覚悟決めなさい!!)
いざ、香港へ。
クイーンエリザベツの中はダンジョンになっている。
その中でもダンジョンマスター専用ルームはクイーンエリザベツの見ている世界をスクリーンに映し出してくれる。
一言で言うなら空飛ぶ潜水艦。
この司令室から攻撃を飛ばす事も出来る。だからこの機能は使わない。
やる事は全力で目的地へと動く事だと心に決める。
突如ダンジョン内が揺れた!!
「えっ!?なに?」
動いてる最中、ダンジョンスコアラーだろう人達の攻撃を受けたのだ。
このクイーンエリザベツは膨大なHPと耐久力。周囲の魔素を吸収しエネルギーへと変えるスキルにより不死身なのだ。
敵の姿をスクリーンへ補足する。
ちゃんと人の姿をしている。
・・・反撃・・・。
しちゃダメな気がする。それより先に進もう。
無視してもクイーンエリザベツには超再生能力がある。
数分でまたHPは全回復するんだから好きなようにやらせておけばいい。
飛行時間3時間程で目的地へと到着した。
ホテル上空にクイーンエリザベツを停止、私は飛び降り屋上からホテル内へと侵入する。
とあるホテルの一室、得武兄の気配のする場所へ向かう。
今回は逃げずに待っていてくれている。
国外に逃げた事が得武兄にとって切り札だったかもしれない。
しかし私は、国外に逃げても感知出来る程の気配察知能力と有事が起きてもびくともしないであろう乗り物を見せ付ける事で「地の果てでも追いかけてやる」という強烈なメッセージを伝えた。
さすがの得武兄も観念しただろう。
私は部屋の前で刀を構える。何故なら得武兄の周囲には10体の魔族の気配がするからだ。
手で扉を「コンコン」と軽くノックした。
「素直に出て来なければ蹴破る!!」なんて考えてると、扉はゆっくりと開いた。その隙間から黒い空気が漏れ出す。
いや、私の目の錯覚なんだけど、そう感じる程に殺気が強く漏れ出している。
扉を開けたのは女の魔族。
「邪神様がお待ちです。」
妖艶な笑みが心に引っ掛かる。
「何故開けてくれたの?」
「開けなければその刀で斬り伏せてたでしょう?」
「うーん。どうかな?」
流石に斬らないよ。だって蹴るもん。
奥へと進むと私は引いた。
奥にいるのは子どもの姿の得武兄なのは変わらないのだが、取り巻きの魔族の姿がエグい。
全員女なのは勿論の事ほぼ裸の透け透けのネグリジェで、得武兄に肌を寄せ合っている。その中には見知った2人の姿も。
ブルーノとレイチェル。
「えっ・・・得武兄の趣味?」
「そうだと言ったら?」
「最低!!こんな趣味があったなんて。綾香ちゃんは?」
「7年も経つと人は変わる。立場も何もかも。」
「記憶失ったままなんだよ!?」
「記憶を失ったままの方が安全だ。」
「そう。責任感じてないんだ。私は今でも感じてるよ。あの日の私の力の無さに。招いてしまった結果に。なのに得武兄は・・・。」
「俺だって感じてるよ。」
「嘘だ。魔族達を侍らせて貴方は十分楽しそうね!!」
「彼女達は大切なパートナーだ。侍らせてる訳じゃない。」
「あっそ。じゃあ綾香ちゃんに近寄らないで。」
好きだった癖に。明らかに両想いだったでしょう?兄がこんなだらしないのなら、綾香ちゃんは渡せない。
頭にくる。本気でなんなの?
そもそも私来るの知ってたよね?芝居?
「近寄らないって約束したら、咲羅はもう俺の事は追わないか?」
「え?」
「後ダンジョンマスターの権利を放棄しろ。それが条件だ。」
何を言ってるの?
「ふざけないで?私がどんだけ心配したと思ってるの?追うな?これとそれとじゃ話が違うじゃない?何条件付けてるの!?」
「咲羅。お願いだ。」
「嫌よ。得武兄こそ、帰って来てよ。一緒に住もうとは言わないけど、年に一度くらい家族で集まってもいいじゃない。」
「無理だ。」
「なら、得武兄のやろうとしている事の手伝いをさせてよ。」
「俺のやる事は変わらない。この世界からダンジョンを無くす。咲羅が持っているダンジョンを放棄してくれたら目的の一部は達成する。」
「それじゃ私、得武兄の隣で戦えないじゃない。」
「戦闘のパートナーなら既にいる。魔族達だ。お前じゃない。」
私じゃないんだ。
魔族達を取るんだ。何よそれ。私の努力って一体・・・
「得武兄の馬鹿!!」
思いっきり殴りたい衝動に駆られた。しかしそれが出来ないのは私とここにいる全員とは天と地とも呼べる程の実力の差がある事を肌で感じている。
「とはいえ、帰り道にクイーンエリザベツを使って八つ当たりされたら堪らない。そうだな。屋上に来い。俺に一撃入れれたら考えてやる。」
「言ったわね!!」
私達は移動する。
魔族達に見守られながら私は刀を構える。
対する得武兄も上空から一振りの刀を召喚し私と同じ構えを取る。
得武兄の持つ刀は刀身から禍々しい黒いオーラが溢れ出していて存在をアピールしている。
「得武兄、剣って下手じゃなかったっけ?」
「そういうなら打ち込んで来いよ。」
「言ったわね!!死ぬ目に遭っても知らないわよ!!」
縮地!!
これは空間を捻じ曲げて繋げる事により、瞬間移動する技となる。
私は得武兄の背後から斬りかかる。
「模倣剣技!!」
嫌な予感がして背後に刀を回す。
得武兄の斬撃を背後で受ける形となった。
咄嗟に前に倒れ込みながら振り返る。
何故背後をとった筈なのに得武兄が更に私の背後にいたのだろうか。
まるで私と同じ「縮地」を使って背後を取ったみたいだ。
「神気・絶影!!」
気を纏わせる剣技の中で豪気の更に2ランク上神気。その技と上段から急所へと振り下ろすクリティカル攻撃。
それを涼しい顔で同じ技で返す。
技と技がまるで鏡合わせのようにぶつかり合い、左右に弾き飛ぶ。
「模倣してるのは私?」
「見ての通りだぞ。」
得武兄は詳細は語らない。しかし私には優秀な精霊達がいる。
(得武の奴、0.0001秒毎に情報をアップデートしてるみたい。)
少なくとも私の知ってる模倣剣技じゃない。
ブラハム様の剣技しか真似出来て無かった筈なのにリアルタイムでアップデートするコピースキルってチートだ。
(エリシア、何それ反則じゃない。)
(相手が得武だからね。)
(ちょっと!どっちの味方!?)
(ふふっ、咲羅も同じくらい反則じゃない。どうする?降参する?任せるわよ。)
私、エリシアに遊ばれてる?エリシアの声のトーンもいつもより高い。
これはきっとエリシアは楽しみなのだ。7年ぶりに得武と対戦する事にワクワクしている印象。
(しない。)
(策はあるの?)
(アップデートするより早く強くならなくちゃダメって事よね!)
少しの間。
(咲羅、それ策って言わない。)
呆れた反応が返ってきた。
(エリシア、アルちゃん、いつものお願い。)




