犯人は貴方です。
夜明け、リターは第2の事件があった甲板に最初の事件被害者が雇った冒険者パーティーと関係者、そして船長とスタッフリーダーを呼び出した。他のスタッフや乗客は呼び出していない。
「皆さん、招集に応じて頂きありがとうございます。こんな朝早くから申し訳ありませんが、事件現場での探偵からの呼び出しともなれば、この先、私の口から出る内容は察していますね?」
誰かの喉がごくりと鳴る音がした。誰でもいい。今更顔色で犯人探しをする必要はない。
「皆さん把握していると思いますが、情報整理のため事件について改めて説明します。助手」
「自分で説明しろよ」
「ケチな助手だなぁ......」
「緊張してんじゃねぇよ、早くやれ。徹夜でレシアが眠そうなんだ。必要なら口出ししてやる」
「......眠いけど、大丈夫」
「......わかったよ」
眠たそうに目を擦るレシアを見て、リターは口を尖らせつつ、素直に関係者らの元へ向き直る。そして最初の事件とその後に続く事件について説明した。
「まず、第1の事件。発生時刻の昨日の朝方4時から5時の間。場所はこの船のちょうど中央部分に当たるホールエリア。被害者は貴方達パーティーを雇った本部長さん。死因は......」
「不明だ。だが、死体となった本部長の体に原因となった傷はなく、滞留していた魔力が1人のものじゃない。もっと言うなら、船長除いたあんたら全員の魔力が、あの死体に滞留しているのが確認できてる。んで、殺害した後に治癒魔法を使った可能性が高い。と言っても呪いによる遠隔の呪殺も有り得るから可能性はいくらでもだ。とりあえず他殺だって理解して貰えればいい」
「そういう事です」
リターの説明にリゼル本人が見つけた情報を付け足す。
この説明もリターから推理を披露する時も助手として手伝えと指示を出されたもの。リゼル本人は断りたかったが、あの場に同行するなら、と厄介な条件を出されて渋々頷いたのだ。
助手の付け足し説明に頷いて肯定し、次の事件へと続きを語る。
「第2、第3の事件は、この甲板で起きました。被害者は、そちらのパーティーの......」
その後も第2、第3の事件の被害者や発見時の状況、殺害方法やそれに繋がる情報を時折、リゼルが注釈を入れながら、リターは淡々と語る。ここまではこの場の全員が知っている情報だ。では、何故改めて、事件の詳細について確認のような説明を行ったのか、それは第4の事件について船長以外は誰も知らないからだ。
「そして、昨日最後に起きた第4の事件......」
「第4の事件!?」
「そんなのがあったのか......」
「はい。第4の事件の発生場所は、この船の最下層、エンジンルームでした......」
リターの言葉に呼ばれた者全員が目を見開いて反応する。一人一人の反応を冷静に観察しながら、丁寧な説明口調で事件について詳細を語っていく。
「以上が事件の詳細です。そして、これから話すのは、私達が事件を調査して得た情報、そこから導き出された事件の展開です。」
その場の全員に緊張が走った。そう、ここからが本題だ。
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「まず、第1の事件。先程も説明した通り、被害者の体には一切の傷跡がなく明確な死因は分かりません。ですが、第2の事件では、被害者の魔法使いの方は心臓を貫かれ潰されているという見てわかる死因がありました。その直後の第3の事件でも、死因は失血死で、その原因となった傷も人為的に降ろされた錨による内臓の損傷です。ここで不自然なのは、何故最初の事件では死因を残さなかったのに、以降の事件では残したのか、です」
「......そりゃ、忘れてたとかじゃないか?」
「そうです。忘れてたんです」
「は?」
「いえ、正確には、死因を消す暇がなかったのでしょう」
「どういうことだ?」
リターの言葉に関係者達は意味がわからないと頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。彼らへの説明に重ねるように、リターは推理を続ける。
「第3の事件の時、私達は被害者の死に直面しています。つまり、彼の殺害は、私達が第2の事件の被害者を発見するよりも少し前に行われた可能性が高いです」
「少し前.....」
「また、第4の事件の被害者は全員ではありませんが、多くが魔法使いでした。魔法使い以外の被害者もほとんどが冒険者です。そして第2の事件の被害者も魔法使いです。恐らく、事件を起こした"実行犯"は意図的に魔法使いを狙ったんだと思われます」
「魔法使いを、意図的に? どうしてですか?」
「それは"魔法使いだから"犯人とわかる証拠を見つけられた。そして"実行犯"の動向を把握する術を持っていた」
「動向を把握する術?」
「『魔力探知』」
再びリゼルが口を挟む。
「『魔力探知』は、魔力の動きを観測するものだ。人や物に宿ってる魔力なら数cm動かしただけでも、"動いた事"がわかる。魔法使いにおける初歩の必須技術だ。習得してなきゃ落第言われるレベルでな」
「彼の言う通りです。恐らく、第2の事件の被害者の彼女は魔力探知で最初の事件の犯人......つまり、雇い主を殺した実行犯か連なる証拠を見つけたのでしょう。後を追った彼女は実行犯に遭遇。争った形跡はなかったので裏を突かれたのか、不意打ちを受けての即死でしょう。仲間に報告しなかった理由は不明......恐らく単独で行動していて報告が後に回した感じですかね。カメラでスキンヘッドの方と直前で会話してる様子が映ってるので、まあ......」
最後の言葉に、被害者の仲間達が目を逸らしては「一人で突っ張りしりやがって......」と小さくボヤく声も聞こえるので、リターの推測も正しいのだろう。
「第3の事件も、恐らく被害者の男性がその場、或いは実行犯の姿を目撃し、そのまま戦闘になった結果でしょう」
「あいつもか......」
パーティー内で2人目の突っ走りが判明した時の仲間達の声はやや呆れ気味だった。
「で、でも、なんであいつは錨に突き刺すなんて面倒な殺し方だったんですか? 海に放り投げれば遺体は残りませんし、わざわざその場で殺さないで、生かした状態で放置なんて......」
「それは、きっと意識をそちらに向けるためでしょう」
「どういう事ですか?」
「助手」
「へいへい、仰せのままに」
リターの指示でリゼルは証拠品として保管していたあるものを取り出す。
「これは......花火ですか?」
「はい。この甲板で発見されました」
「でも、なんで花火が?」
至極当然の疑問はパーティーの茶髪の男が問う。普通の客からすれば、この花火の残骸が事件と関係あるとは思えないだろう。そう思えないように、伝えられていたのだから。
「第2の事件発見前、時刻としては12時過ぎ、甲板の上で花火を打ち上げられたのは皆さんご存知だと思います」
「はい、運営からは誤射だと......」
「あの時の花火は誤射ではなく、我々を甲板へ誘い出すためのものだったと思われます」
「誘い出す?」
彼らの知る情報を裏返し、紐解くように、リターは真実を明かしていく。
「恐らく、実行犯からすれば第2、第3の事件は本人が想定していなかったもの。元から殺す予定はあっても、タイミングとしては想定外だったのでしょう。魔法使いが自身の居場所を把握し、その後仲間もやってきた。手を下したは良いが、殺した相手も含め魔法使いなら自分の行動を把握する術を持っている事を知ってしまった。そこで実行犯は、こう考えたでしょう「船の中には雇われた魔法使いがまだ何人かいるだろう、彼らなら同じように動向を追うことが出来るかもしれない」と。だから、魔法使いの後に追ってきた男を錨に引っ掛け致命傷を追わせ、花火で存在を知らせて意識をこの2つの事件に向けたのでしょう」
「そのために花火を?」
「はい。第3の事件の被害者を生かしたのも、恐らく生きて見つかった方が治療と事情聴取で時間を稼げると踏んだのでしょうね。仮に発見が遅れて海に流されても、人為的に降ろされた錨と大量の出血痕から海の捜索に出てくれるかもしれませんし。実際、発見して少ししてから亡くなったとはいえ、事情聴取分の時間は稼げた。その間に第4の事件を起こした」
ごくりと再び誰かの唾を飲む音がする。より険しい緊張感が全体に伝染していくような感覚をリゼルはうっすらと感じた。
「第4の事件、魔法使いの大量殺人は、第2の事件で発覚した魔力探知という自身を追う術を封じるため。同時に、実行犯である自身と、命令を下している主犯の繋がりを示す証拠を消すための事件だったんです」
「繋がりを示す証拠?」
「先に明かします。全ての殺人事件の実行犯は、召喚魔法によって召喚された悪魔です」
「ちなみに上級悪魔な」
「「「え」」」
間の抜けた声が重なり、リゼルの元へと視線が集まる。その中にはリターも。なんでだよ。
「上級悪魔!?」
「そんなものが召喚されてたの!?」
「全然気づかなかった......」
「ちなみにその2。その悪魔の持つ能力は多分透過だったんだろうな。魔力までは消せないタイプ。第2の事件で単騎とはいえ、魔法使いが為す術なく心臓貫かれて即死ならそれが妥当だ」
「それは聞いてないんだけど」
「聞かれなかったからな」
白々しく答えるリゼルを、リターはじとーっと呆れたような視線で睨んだ。助手なんだから重要な情報はさっさと吐けという目だ。怖い。
ぶっちゃけた話をすれば、悪魔の階級自体、事件との直接的な関連性はそこまで高くない。不必要な情報としてリゼルは伏せていたのだろう。伏せておいたなら今更明かす必要性もないが。
「とにかく、その悪魔は全ての事件の実行犯で間違いありません。そして第4の事件発見時、私達はその悪魔と遭遇。そのまま討伐まで至りました」
日用魔法の不意打ちやレシアとの連携込みだったとはいえ、1回の攻撃魔法で上級悪魔を倒してしまうのは、この助手、実は結構強いのは? と助手から新たに明かされた情報と自分自身が口にした言葉と共に彼らの戦闘を改めて振り返る。
(もしかしたら、あの子と同じくらい?)
リターは役職的立場も相まってある程度は戦える。だが一線級の冒険者と比べれば何段も落ちるだろう。故に、自身との比較も彼の強さの底を測ることも正確には出来ないが、それでもリゼルの強さは他の冒険者とは別格のものだろうと感じていた。
(今は関係ない話ね。大事なのは推理だから)
「そして上級悪魔討伐後、私達はその上級悪魔と召喚者の繋がりを示す決定的な証拠を見つけました」
気持ちを切り替え、リターは推理を続ける。この場の彼女は戦闘員ではなく探偵なのだから。
そんな探偵少女の様子を横目で見ながら、リゼルは静かに腕輪を外しておく。抑えられていたリゼルの魔力が解放され、それに気づいた者の視線が彼へと集まる。そして、目が合う。
(......やっぱりな)
不自然さなく交わった視線に予想通り、と心の中で呟きながら、リゼルは探偵少女の推理を待った。
「それは、召喚魔法陣です」
「召喚魔法陣、それが証拠なんですか?」
「はい。ここにいる助手は、魔力を瞳で読み取ることが出来ます。そして、彼の眼を持って確認しています」
リターの言葉に、その場の全員が遅れて彼の方へと視線を向ける。その瞬間、その者は気づいた。自分は嵌められたのだと。
「上級悪魔を召喚し、役員や多くの冒険者を殺した犯人は貴方です」
ビシッとリターがその相手を指差した。従業員服を着用した茶髪の男、テリープシップのスタッフリーダーを。
悪魔について。
悪魔と精霊は低級、中級、上級、最上級、公爵級、神王級の6段階に分かれています。と言っても基本的な召喚魔法で呼び出せるのは上級まで。それより上は特殊な術式や触媒、莫大な魔力など色んな条件を加えた上で召喚に応じてくれるかの運ゲーです。特に神級は1体しか居ないのでほぼほぼ召喚されません。狙って召喚しようとしたら材料だけ取られてスカされます。
また悪魔の強さは結構ブレがありますが、上級ともなれば基本的にどの個体も冒険者教会からパーティー単位での討伐が推奨される竜種と同等の評価をされています。夏の国編で例えるなら最低でもラピリア以上。個体によってはシラフネ級も居ます。作中で倒されたらあの悪魔もレシア単騎だと厳しかったでしょうね。




