事情聴取パートは1回で十分。
男の死を見届けてリゼルは治癒魔法と結界を解除し、男の瞼を閉ざしてレシア達の合流を待つ。
5分程経ってからレシア達が医者らしき白衣を羽織った男とスキンヘッドの男と同じパーティーの女聖職者を連れて甲板へと到着。リターから大まかな事情は聞いているらしく、スキンヘッドの男の様子を見てもある程度覚悟していたのか「そうですか......」小さく呟くだけだった。その表情は今にも崩れそうなのを、堪えているような真っ青だったが。
それからは割とスムーズに進み、医者がそれぞれの遺体の状態から死因を確認し、リターの指示で現場を保存。場所を移して事情聴取を行った。と言っても、今回の事件に関しては第1発見者がリゼル達という事もあり、後から来た医者と女聖職者はもちろん、船長とバイトリーダーへの聴取も軽くで終わった。
事情聴取パートとか何回もやってたらダレるからね!
---------------------------
「事件発生時刻は13時30分頃から14時00分の間、男性の方は10分ほど前まで息はあったので正確な時間はズレますが、犯行が起きた時間としては2人共同じ時間帯ですね。死因から見ても他殺で確定だと思います。ただその時間帯はこの場の全員にアリバイがあり、犯行はほぼ不可能」
事件の状況や事情聴取等から知り得た情報を、リターは丁寧な口調で語る。
「防犯カメラは出入り口の扉だけ。その扉も私達が利用した1箇所のみ。他の客や従業員が出入りする様子が映ってはいますが、事件発生時刻と被ってる人は確認できず。一応、近い時間帯に出入りした人は何人か居るので後ほど事情聴取をしますが......まあ、あまり期待は出来ないでしょう」
「花火の件に関しても、管理されていた倉庫の監視カメラから事件の時間帯で出入りしてる人物の確認はできませんでした。甲板出入りの監視カメラでも同様です」
「錨の方は船内の操作盤ではなく、手動によって下ろされています。つまり、誰かが錨に男性を刺した後、錨を下ろしたという形になると思います。指紋も海水で濡れているので確認も出来ませんね」
肩を落とすような動きを見せて「大体これくらいでしょうか」と締めるように呟きリターはメモを閉じる。そして、様子を伺うように目の前の2人の顔を覗く。
現在、犯行現場である甲板にいるのはリターとリゼルとレシアの3人のみ。他の者は一時解散しており、探偵である彼女とその助手の2人が調査を続けるという事でこの場に残っていたのだ。
「私、冒険者じゃないから詳しくないんだけどね」
視線を向けるだけでは反応は帰ってこないと思ったのか、単に痺れを切らしたのか、リターが問うように再び口を開く。もう丁寧に敬語は使わない。
「普通錨に引っ掛かる形で内臓貫通で突き刺さった人って、波に流されるものじゃない? 冒険者ならそういうのって耐えられるの?」
「......」
「......」
「......あ? あぁ、俺に聞いてんのか。考え事してた」
沈黙の視線が自身に向けられてると気づいたリゼルがようやく顔をあげる。話自体は彼の耳に届いていたが、リターの「冒険者じゃないから詳しくない」という前置きがレシアに対する質問だと錯覚させたのだろう。
「そうだな。断定はしないが、魔力で肉体を強化したり、身を守るための術を用意してるなら不可能じゃないはずだ。実際あのスキンヘッドは耐えてたし。ただ誰でもって事はない。肉体の耐久もそうだけど、意識を落とさないって精神力も重要だろう。肉体強化にしろ、それ以外の方法にしろ意識がない状態での維持はかなり難易度が高い。内臓が損傷してる状態なら尚更な」
「そっか。ちなみに、君だったらどうやって耐える?」
「俺には治癒魔法があるから、それで治癒を掛け続けて耐える、というか錨を破壊するか何かして抜け出すだろうな」
「なるほどなるほど」
リゼルは冒険者としての見解を答えに、リターは納得したように頷きメモに書き込む。そして、ペンの動きが止まると同時に、彼女は再び視線をリゼルへと向けた。
「じゃあ次は君の番。何を考えてたの? 助手なんだから隠さず答えて欲しいな」
好奇心のような瞳で覗き込むように問う。
リターは思った。最初の方は面倒だと繰り返していた即席助手のリゼルが、まとめを聞いている間も顎に手を置き、こちらの質問に反応が遅れるほど考え込んでいる。その様子は間違いなく何か気づいているのだろうと。そして、それは自分が気づいてない事だろうという確信もあった。
リターの問に、リゼルは少し悩んだ後、ゆっくりと言葉を漏らす。
「......一応、犯人と犯行方法は何となくわかった」
「え」
「ただ、証拠と動機が分からん。とりあえず証拠の方を確かめるなら......例の件だな。リター、船長から許可取れたか?」
「......あ、うん。こっちの好きなタイミングで船長室に来て良いとの事だよ」
犯人と犯行方法はわかった。この一言に思わず間の抜けた声を漏らし、固まってしまうリター。そのせいで次のリゼルの質問には反応が遅れるし、若干上擦った声が出たような気もする。
リターの感は当たっていた。リゼルは確かにリターの気づいてない部分に気づいていた。だが、それが犯人と犯行方法だと誰が思うだろう。彼女は冒険者ではないが、相応の知識はある。仮にリゼルの持ち合わせる知識に差があったとしても、リターですらまだ辿り着けてない犯人にリゼルが到達してるとは思いもしなかった。
同時に察した部分もある。恐らく、彼の推理は冒険者や魔法使いとしての知識によるものだろうと。
「じゃあ、早めに行くか」
「待って待って。行くのはいいんだけど、その前に、そっちの犯人と犯行方法について知りたいかな。君の推理を教えてよ」
そして、彼が口にした「証拠と動機が分からない」という部分は、探偵としての自分ならわかるのではないかと。リターは下から覗き上げるように助手の顔を見つめながら聞いた。
「あー......そうだな、先に話しておくか」
周囲を探るように視線を泳がせ、少し悩むように沈黙を置いた後、リゼルは自身の推理を語り出す。冒険者、魔法使いとしての知識によって組み立てられた推理を。




