リゼル対神話魔獣リヴァイアサン。
リゼルは、自分が船長やリター達にした指示は最善だと考えている。レシアは戦わせないための都合の良い言い訳に近いが、それでも必要な役割だと思っている。リゼル自身の行動も、最善の一つだと。
(結局、か......)
リゼルの選んだ最善は、昔から何も変わらない。
退屈だと嘆いていたあの時から。
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甲板から飛び降り、着水のタイミングに合わせてリヴァイアサンごと周囲一帯の海面を覆い尽くす程の凍結を放つリゼル。器用にも自身の背後にある船とその経路となる海域は凍結しないよう制御もしている。
「ちっ」
リゼルが小さく舌打ちをした。その意味を探るまでもなく、直後、神話魔獣の氷像が砕かれ、本体が現れる。凍結は効いていなかった事を示す結果だ。だが当然、リゼルもそれで諦めるほど安い男ではない。
凍結が破られたのを確認したと同時に、砕かれていない海面の凍結から氷を放つ。人間サイズならその人体を容易に貫通できるだろう、先端が鋭く尖った氷の針。それは、リヴァイアサンにも突き刺さる、はずだった。
「くそっ」
2度目の舌打ち。1度目から何分も経っていない。このまま行けば、リゼルは今日一日だけで100回くらい舌打ちをするかもしれない。
そんなことはさておき、リゼルの放った氷の針は、リヴァイアサンに刺さらないどころか、その巨体を数m浮かすだけの結果に終わった。もっと言うなら、攻撃した側の氷の針は先端が砕け散っている。
舌打ちこそしたが、リゼルは依然冷静だ。攻撃が効かないのであれば次の攻撃に移すだけ。焦る要素は何一つない。
氷の針の攻撃によって浮いたリヴァイアサンが着地する前に、リゼルは飛行魔法で一気に距離を詰め、氷の針で攻撃した方とは逆側へ回り込む。そして強化魔法を重ねがけした肉体で、その鯨の巨体を殴りつけた。
「どっ、せいっ!!!」
緩さを感じる掛け声に反した重い一撃。氷の針で浮いた鯨の巨体は、再び逆方向へと流れるように飛んでいく。リゼルは更なる追い討ちをかける。
銃を象るように指を神話魔獣へ向けるリゼル。その指先からは、ラグラゼールのトドメに放った時と同程度まで膨れ上がった魔力弾を生み出され、そして放つ。
凍結させた海面を砕きながら、巨大な魔力弾はリヴァイアサンに直撃する。
「なるほどな」
自身が放った魔力弾と、その着弾結果、加えてそれに連なるまでの三撃の結果からリゼルは、リヴァイアサンの秘密を理解する。
(あの毛というか......鱗か、鯨のくせに鱗あんのか。まあ、いい。恐らくあれが、魔力と物理的な衝撃も霧散してんのか。初撃の凍結が効かなかったのも、魔力が霧散して芯まで凍結してなかったからだな)
「さて、どうするかな」
冷静に相手の特性を見極め、理解したリゼルは小さく溜め息を漏らした。
リゼルにとって、この神話魔獣は確かに脅威だが、初撃の感覚から先日戦った魔神程ではないという位置づけだ。彼らしくない考え方をするのならば、「勝とうと思えば勝てる」とも認識できる。
ただそれは、"普通に戦うなら"、の話。倒すかどうかともかくとして、最優先はこの鯨の敵意を自身に向けさせる事。リゼルを無視して船を狙われる事が、リゼルにとって1番面倒な事である。
「......杞憂かな?」
呟いたリゼルの視界には、氷を砕いて海面に着地したリヴァイアサンが、彼を睨むように向いている姿が写った。その矛が、彼を狙っている様子も。
「----!!」
リヴァイアサンが口を開き、空気を揺らすような咆哮を上げる。不快そうにリゼルが顔を歪めた時、リヴァイアサンの全身を覆う鱗が射出された。
風を切りながら勢いよく向かってくる鱗に対して、リゼルは3m程前方へ氷の盾を作り出す。上級魔法の氷によって生成された盾。その氷盾に鱗が突き刺さるの、1秒も満たぬ間に、容易に砕かれ貫かれてしまう。だが、リゼルは焦らない。盾が砕かれるまでの1秒未満は、飛行魔法を扱うリゼルが、射線から外れて回避するのに十分過ぎる時間だ。
リゼルの動きに合わせるように、リヴァイアサンも鱗を撃ち続ける。ご丁寧なことに、鱗は射出された傍から僅かな魔力で再生成されている。弾切れの心配は無いだろう。
(とりあえず、敵意は買えてるな。にしても、攻撃の軌道が分かりやす過ぎるな。神話魔獣と言っても、初見は獣か。とりあえず、あの雷撃が船に向かわないように......ん?)
氷の盾と飛行魔法を駆使して"小さな動き"で回避を続けるリゼル。攻撃が中々当たらない苛立ちを覚えたリヴァイアサンが再び咆哮を上げる。すると、顔から短く生えた2本の髭が触手のようにリゼルへと向かって伸びてきた。
「そんなのもあんのかよ.......」
呟きながらリゼルは更に氷の盾を増やし、弾く。今度は回避の時間を稼ぐものではなく、髭触手を弾いて軌道をズラすためのものだった。
合わせて飛んでくる鱗もリゼルは難なく回避する。リゼルの卓越した魔力操作技術とセンスを持ってすれば、相手の攻撃札が一手二手増えたところで問題はない、はずだった。
「あ?」
氷の盾で弾いた髭触手が、リゼルの足下にある凍った海面へと突き刺さる。そして、その髭と氷面を支えに、神話魔獣はその巨大を持ち上げた。
「うおっ、マジか!」
そのままリゼルの頭上へと飛び上がり、捕食を狙うかのように口を大きく開いて落下する。虚構のような真っ暗な口内が、真上から迫ってくる状況でも、リゼルは驚いた様子を見せつつも、冷静に対処する。
リゼルは飛行魔法の高度を落とし、限界まで引きつける。リヴァイアサンの開いた口がリゼルを捉え、飲み込もうと口を閉じ始めたタイミングを見計らって、リゼルは巨大な氷の盾を生成する。先程鱗を防ぐのに作っていた時よりも遥かに分厚い氷の盾。それは巨大なクジラの大きな口にすっぽりとハマる。込めた魔力と何層にも重ねがけるように作られた内部の氷の密度は、リヴァイアサンの噛力を持ってしても噛み砕けない。鱗も、リゼルの位置が射線から完全に死角になっていて、狙うことは出来なかった。この氷の盾による防御が悪手だと気付かされるのは少し後の話。
「流石にしてる暇はないか......」
口を開けたまま、尾を空に直立する神話魔獣という珍妙な状況。それなりに遠ざかった船からや自分自身の位置からではギリギリカメラに収められないと、リゼルは僅かに後悔する。まあ、現場にいる当事者達からすれば、決して笑って流せる状況では片付かないが。
噛み砕けず制止する神話魔獣を確認して、口の射線から外れようとした時、リゼルは、リヴァイアサンの口の中で魔力の流れが回転しながら1箇所に集中するのを感じ取る。
「あ、やべっ……」
そして次の瞬間、口に挟まった氷を砕きながら、螺旋状のうねりながら高圧の水流が放たれた。
回避の遅れたリゼルへ、リヴァイアサンのハイド〇ポンプが直撃する。




