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賢者ってなんだっけ?  作者: 木林森
9/11

しばし悩んでいたが、様子がおかしい事に気が付く。

あいつ、攻撃してこない?

僕は全く動かずにいるのだが、あれから攻撃して来ないで威嚇するように低く唸っているだけだ。

何か攻撃してくる条件があるのだろうか。

少し考え、ちょっとした可能性に気付く。

ひょっとして、音だろうか?

最初に攻撃された際には僕はコンパスを見ながら声を出していた。

その後は動くに動けないから音を立てていない。

それにあの角に囲まれた頭部では、例え目が有っても見えないのではないか?

あくまで可能性だが、このまま動かない訳にもいかない。

試してみるしかないだろう。

僕はポケットに入っていたスリング用の小石を取り出す。

音を立てないよう慎重にだ。

それを右のウサギの集団に向かって投げる。


「…!」


兎達はそれに気が付き、まるでモーゼの十戒の様にさぁっとその場から音を立てず離れる。

地面に石が当たり、石でもあったのかカツンっと高い音を立てた瞬間。

化けウサギはぐるりと向きを変え、角をそちらに向かって撃ち始めた!

吹き飛ぶ土と一緒にディグ・ラビットが飛んでる気がするが、気の所為という事にしておこう。

撃ちだす姿を見ると、頭部の角を撃ちだしているのが分かる。

そうすれば角は無くなりそうな物だが、次から次へと生えてきている様だ。

そして、角に隠れていた頭部がちらりと見えた。

それは動物の未熟児を彷彿とさせる弛んだ皮膚で出来ていた。

目の部分は弛んだ皮膚で覆われ、あれでは見えるとは思えない。

耳も同時に露わになるが、こちらはその体に見合った大きな物が付いている。

どうやら角に隠れていただけで、その機能は損なわれてはいないようだ。

ともかく、音でこいつは感知しているらしいことは分かった。

なら、やりようはあるか?

僕は静かにスリングを展開させる。

僅かに音は立てるが、先ほどの攻撃で周りには小石や土が舞い上がってる状態だ。

どうやら気付きはしなかった様だ。

スリングに小石を込め、引く。

狙うのは、化けウサギの近くの木。その根本。

ガツンっと音を立てる小石。

それに反応した化けウサギは木の根本を角で撃つ。

当然、攻撃によって木の根本は吹き飛ぶ。

木は重力に負け、倒れこんでくる!

コレでこいつを圧殺出来れば…!

しかし、そうは行かなかったようだ。


「…!」


後ろに向かって飛び下がり、倒木を避けられてしまう。

木の葉が擦れる音で気付かれたか?

ちっ!コレで倒せないまでもダメージくらいはあるかと期待したが…。

それなら、これでどうだ?!

反対側にある木の根本に再び石を撃ち出す。

カツンっと音がし、そこを攻撃する化けウサギ。

再び、木が倒れてくる。

避けようと後ろに下がろうとするが、そこには先の倒木がある!

今度こそ!


「…!」


が、化けウサギは倒れて来た木に向かって角を撃ちまくる。

それによって砕かれ、倒木は化けウサギに直撃しない。

無茶苦茶だなこいつ!

でも、ダメージは多少なりとあったみたいだ。

砕いたと言っても、大きな破片などは残った様だ。

その肉食獣めいた体の所々に血が滲んでいる。

もう一度とも思った…が、先に化けウサギが動いた。

周囲に向かって角を撃ちまくり始めたのだ。

倒木によるダメージを避けるためだろう。先に木を砕きにかかった様だ。

射角が高いのでこちらに当たる心配は少ないが、それでも気が気じゃない!

なんとか攻撃を避ける方法を考えないと!

仮想ウィンドウを呼び出し、【地魔術】を選択する。

僕が使える呪文は2つ。

『ストーン・ショット』と『トンネル』だ。

『ストーン・ショット』は名前の通り、石を撃ち出す呪文らしい。

『トンネル』は穴掘りの呪文だ。

今回は『トンネル』を使う。

深さや広さは自分の知力値によって変わると、先に説明は読んでいた。

今回は僕が隠れる場所を作りたいだけなので深さは2メートル程でいい。

深さはイメージで変更できるらしいので2メートルをイメージする。

地面に触れながら、呪文を選択、実行する。


「『トンネル!』」


足元に穴が発生し、僕はその中に落ちる様に…いや、実際落ちる。

即席の塹壕だけど、無いよりマシだ。

声で場所がばれないか心配だったが、暴れてるせいかこちらに気付いた様子はない。

しかし、これはどうしよう。

倒木でダメージは狙えそうにないなら、もう一つの呪文、『ストーン・ショット』に賭けてみようか。

その場合、MPが問題だ。

MPが0になるとペナルティで気絶するらしい。

さっきの『トンネル』の使用でMPは多少減ってはいるが、一発使うくらいなら大丈夫だろうか?

ええい、ダメ元だ!これで気絶して死に戻っても潔く諦めよう!

呪文を選択、僅かに即席塹壕から頭を出し、化けウサギの様子を確認する。

化けウサギは攻撃を止め、周囲の音を確認している様だ。

これで効果が思ったより無かったら、場所がばれて確実にやられるな。

ええい、ままよ!

呪文を実行!呪文が…出ない?

違う、インフォに≪対象を選択してください≫と出ている。

対象?敵は目の前に居るのに。

一度しゃがもうと視線を動かすと、目の前の小石にポインタみたいなのが張り付いてるのが見えた。

え?対象ってこれ?

視線を転じると、周囲の大小いくつかの石にポインタが付いている。

え、えっと?

とにかく、選んでみよう。

周囲の石を幾つか睨むようにして見る。

すると、音も無くその石達が浮かび、僕の顔の真横に飛んできて並ぶ。

か、カッコいい!

じゃなかった!今度は行けるかな?

呪文を再び実行する!


「『ストーン・ショット!』」


今度は発動した!

声に気が付いた化けウサギはこちらに向くが、こちらの方が早い!


「…!!!」


先の化けウサギの角に負けない勢いと音を立てつつ、石が殺到する。

角を折り、牙を砕き、顔面に突き刺さる。

選択していた中でも最も鋭い石が最後に顔面に向かい…。

貫通した。

化けウサギは…まだ倒れないか?!

頭に風穴が開いたまま、こちらに向き直る化けウサギ。

これはまずい?!

そう思い、思わず体を逸らす。

が、思っていた追撃はなかった。

思わず瞑っていた目を開け見たのは、こちらに向き直ったまま硬直するように息絶えた、化けウサギの姿だった。



いや、これはボア以上に危険だった。

と言うか、周囲への被害を考えたらこれは桁違いに恐ろしい相手だった。

勝てて本当に良かった。

今はまだ生き残っていたディグ・ラビットの残党狩りをしている。

こいつだけなら折れたスタッフでも十分倒せる。

殆どさっき化けウサギが暴れた時に倒されていたので、たまにまだ息があるのを見つけて止めを刺す。

可哀想かも知れないが、このまま半死半生で置いておく方が可哀想だと判断したのだ。

倒しては、その遺体を化けウサギの隣に集める。


≪レベルアップしました!ステータス上昇を選択してください!≫


木の下敷きになっていた一匹に止めを刺した所で、インフォが流れる。

お、やっとか。

かなり疲れた…。

森に狩りに来ると毎回ボロボロになってる気がする。

とは言え、今回はHP的には余裕があった。

むしろ殆ど減ってない。

ローブや服も多少の砂埃は被っているが、目立って破れなども無い。

まぁ、一撃でも食らってたら多分生きて無いような攻撃ばかりだったんだけど。

代わりにMPはかなり逼迫している。

残りが1目盛といった所だ。

『ストーン・ショット』はかなり強力だが、これは奥の手にするべきだな。

とてもじゃないが、2発目を撃てる余裕はない。

ステータスは精神値が上昇していた。ここは体力値を上げておこうか。


プレイヤー:【ステラ】

種族:【ヒューマン】

クラス:【セージ】

レベル:4 ↑New!

筋力値:13

器用値:11

敏捷値:12

体力値:12 ↑New!

知力値:27(内、クラス補正+3)

精神値:16 ↑New!

幸運値:12


≪レベルアップしました!ステータス上昇を選択してください!≫


え?一気に2レベル上がることがあるのか?

それだけ経験値の多い相手だったって事だろうか?

まぁ、上がったのは嬉しい事だ。

手早くレベルアップ作業を済ましておこうか。

既に上がっているのは筋力値だったので、今回は器用値を上げておこうか。


プレイヤー:【ステラ】

種族:【ヒューマン】

クラス:【セージ】

レベル:5 ↑New!

筋力値:14 ↑New!

器用値:12 ↑New!

敏捷値:12

体力値:12 

知力値:27(内、クラス補正+3)

精神値:16 

幸運値:12


≪【識別】のスキルレベルが上昇しました!≫

≪【調査】のスキルレベルが上昇しました!≫

≪【再現】のスキルレベルが上昇しました!≫

≪【地魔術】のスキルレベルが上昇しました!≫

≪【武具修練:スリング】のスキルレベルが上昇しました!≫

≪【命中精度】のスキルレベルが上昇しました!≫

≪【トレーニング】の効果により器用値を使用する行動にボーナスが加算されます!≫

≪【トレーニング】の効果により体力値を使用する行動にボーナスが加算されます!≫

≪【トレーニング】の効果により知力値を使用する行動にボーナスが加算されます!≫

≪【トレーニング】の効果により精神値を使用する行動にボーナスが加算されます!≫

≪【ディグ・ラビット】の【調査】が完了しました!≫

≪【再現】により、【掘削】が使用可能になりました!≫

≪【ミューテーション・ラビット】の【調査】が完了しました!≫

≪【再現】により、【弾角形成】が使用可能になりました!≫

≪フィールドボス【ミューテーション・ラビット】討伐により【森の覇者】の称号を得ました!≫


インフォ長っ?!

そしてまた謎のインフォ。

フィールドボスってなんだろう?

とにかく疲れたし、さっさと剥ぎ取って帰ろう。

時刻は11時32分。

かなり時間がかかってしまった。

手早く済ませるとしよう。


アイテム:【掘削兎の皮】

種別:【素材:皮】

重量:1

レア度:C

効果:―

備考:ディグラビットの皮。加工がし易く、保温効果に優れるため人気のある皮。


アイテム:【掘削兎の爪】

種別:【素材:爪】

重量:2

レア度:C+

効果:攻撃力+3 掘削性能+2

備考:ディグラビットの爪。硬く、加工はし辛いが土木作業品と相性が良い為、市場価格はそれなりに高い傾向にある。


アイテム:【変異兎の牙】

種別:【素材:牙】

重量:4

レア度:B+

効果:攻撃力+6

備考:ミューテーション・ラビットの牙。兎の歯とは思えぬ鋭さと硬さを持つ。森の覇者を倒した証。


アイテム:【変異兎の皮】

種別:【素材:皮】

重量:6

レア度:A

効果:防御性能+4 隠蔽効果+?

備考:ミューテーション・ラビットの皮。夜になると周囲に溶け込むように黒さが増す。加工にはかなりの腕が必要になる。森の覇者を倒した証。


≪【鑑定】のスキルレベルが上昇しました!≫


かなり多くのアイテムを手に入れた!

【鑑定】までレベルが上がる筈だよ!

正直重くて運べないので、近場に隠してあったインスタント・クローゼットに入れることにした。

良く壊されなかったな、これ…。

最初の巣穴から脱兎が出てきた時に、咄嗟に土壁の穴の一つに放り込んであったのだ。

攻撃は奇跡的にその穴には当たっていなかった。

ホントにギリギリだったけどね。

よし、何とかアイテムも回収したし、帰ろう!

…もうウサギには会いたくないのでなるだけ急いで、慎重に、ね?



村に帰り着いたのは11時55分。

予定時間より遅くはなったが、お昼には間に合うな。

ギルドによる前に木工所に行こう。

職人さんが話をしたいと言っていたらしいが、何の話だろう。

他の冒険者の人達もいるから、ついでに何か情報でもあれば嬉しいな。




「あぁ、ステラ君か。おかえり。随分土まみれだが、どこへ行ってたんだい?」


職人さんが笑顔で迎えてくれる。

人が足りていて余裕があるのだろう。

今日はあのすごい様相では無くなっている。


「ギルドの依頼でウサギ狩りに行ってたんですが、エライ目に遭いまして…。他の方は休憩ですか?」

「あぁ、冒険者の連中と一緒だな。…あぁ、ご飯に誘われてたのか。」

「はい。休憩室、お借りしますね。」

「どうぞ。あ、賄い用にある弁当、食べていいからね。」

「ありがとうございます。」


助かる。昼食を買いに行ってないから、昼食を食べてる皆を見ながら断食状態になるところだった。

休憩室には結構な人数の冒険者の人達と、職人さんが休憩を取っていた。

ローダさんも休憩中みたいだ。


「おかえり。こりゃまた随分と汚れた…スタッフ折れちゃったのかい?」


ローダさんが声を掛けてくれたが、スタッフの様子を見てかなり驚いた様だ。

そりゃ、僕も驚く。

かなり硬いあのスタッフを壊す様なモンスターがこの周辺で出るなんて。

僕は「色々ありまして」と言い、賄い用のお弁当を1つ貰う。

お弁当は幕内弁当みたいだ。

疲れてると余計に美味しそうに見える!早速頂こう!


「お、来た来た!おーい、お前らも話があったんだろ?コッチに集まりな!」


空いている椅子を借りると、職人さんが喜びながら冒険者の人を呼んでいる。

話?一体何だろう。


「君がステラさんですか?このスタッフの発案者だとか。」

「スタッフの噂がすでに掲示板でかなり流れてて、結構盛り上がってるんですよ。」

「木製で重量は鉄製より軽い。なのに鉄製と同じ攻撃力ってのは有り難いですからね。」

「しかも足りなくて配布が間に合ってない杖ですから、手に入れたい人はかなり居たんですよ。」

「そして、そのスタッフでボアまで倒した。しかも、ステータスで不利なはずのセージが。」

「そのセージが木工所によく出入りしているとなれば。」

「話を聞きたいって人がこうして集まったという訳です。」


口々に冒険者の人達が話しかけてくる。

そ、それはなんとも恥ずかしいような有り難いような…。

そんなに凄い事はない。単に弱い自分のステータスを補う為に強い武器を欲しがっただけなのだから。

それでもこうして人が来てくれるのはやはり嬉しいものだ。


「冒険者の用語は僕らにはよく分からないが、ステラ君は人気者って事かな?」


クスクスと笑いながらローダさんが輪に加わる。

そしてちょっとした懇談会が始まる。

スタッフと似た性能で剣が作れないか。

オリジナル武器を作れないか。

硬くする以外の加工について。

弓などの遠距離武器を作る際の注意など、色々話が盛り上がる。

そんな中、僕のスタッフを見たいと言う人が居たのだが…。


「そうだ、ステラ君。その杖、何と戦って折れたんだい?」


ローダさんの一言に視線が一気に僕に集まる。

視線に混じるのは驚きの感情だ。

さっきの話で分かるように、鉄製に負けるとも劣らない武器であるスタッフが折れる。

それはよっぽどの相手と戦ったという事になる。

少なくてもボア以上と考えれるだろう。

まぁ、実際上だったが。


「えっと、ウサギ狩りに行ってたんですが、そこで脱兎とは別種のウサギに襲われまして…。」


簡単に説明しながら、モンスターの特徴を上げていく。

ホーン・ラビットの名前を出した時にも少し驚いてる人が居たが、ミューテーション・ラビットの話はローダさん達まで青い顔をして驚いてた。


「で、で!そのデカ物はどうなった?!森の奥に逃げたのか?!」


職人さんの一人が声を荒げる。

何かあったのだろうか?


「い、いや。一応、僕が戦ったのは倒せましたけど…。」


…え?何、この沈黙。


「え…え?ほ、本当に?あの主を倒しちまったのか?」

「え?…ぬ、主かは分かりませんが…。一応、剥ぎ取ったアイテムなら取り出せばありますが…。」


暫く職人さん達は顔を見合わせ、職人さんの一人が休憩室を出て行く。

え?なんだ?なんか僕マズイことしたかな?


「ステラ君。剥ぎ取ったアイテムを出せるようにしてくれるかな?長老様が来るから、それを見せて欲しいんだ。」

「は、はい。」


休憩室内でインスタント・クローゼットを開くには狭いので、一度休憩室外で展開、皮を取り出しておく。

一体なんだろう?何も言ってくれないからかなり不安なんだが。

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