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「はぁ…。」
僕は盛大にため息をついた。
と、言うのも、現在あのエルフのプレイヤー、クイントさんに言われた件を確認しているからだ。
『セージは不遇職』。
そう言われて、自身はそのセージなのだ。
気にならない訳が無かった。
仮想ウィンドウに掲示板を表示させ、内容を確認していく。
内容は概ね確認したが、内容を信じたくないが故に何度も確認する。
諦めたのは、内容をほぼ暗記してからだった。
掲示板の情報によると、まず、セージのステータス値は異常に低い傾向にあるようだ。
試しに、自身のステータスを再び確認する。
プレイヤー:【ステラ】
種族:【ヒューマン】
クラス:【セージ】
レベル:1
筋力値:12
器用値:10
敏捷値:12
体力値:10
知力値:27(内、クラス補正+3)
精神値:14
幸運値:12
スキル:【識別】【鑑定】【調査】【再現】【地魔術】
ヒューマンのステータスの平均値は、全てのステータスが14らしい。
その時点で、精神値と知力以外はそれを下回っている。
その上、精神値は平均値ぴったりだ。
つまり、『物理戦闘では期待できない。魔法の威力は高いけど、乱発できない。』と言う傾向らしい。
場合によっては初期ボーナススキルで魔術系が付かないこともあるらしいから、それよりはマシなんだけどね…。
そして、セージ特有のスキルである【調査】と【再現】。
こちらも問題が多いようだ。
まず【調査】だが、出会ったり戦闘で勝利したモンスターの情報を徐々に開示していくスキルらしい。
調査が進めば、相手の大まかなステータス値や持っているスキルなどの情報を、【識別】することで確認できるようになるとのことだ。
だが、調査を完了するには何度もそのモンスターと戦う必要があり、尚且つ、最後の攻撃は必ず自身の攻撃でなければいけないらしい。
この貧弱なステータスでそれはかなり厳しい。
そして、【再現】。これは【調査】によって判明したスキルのみに効果がある。
つまり、まず【調査】できないと【再現】も使用できないのだ。
その時点で、かなりハードルが高い。
その分、【再現】自体は効果が高い傾向にはあるらしいが、優れていても、習得出来なければ意味がない。
「はぁ…。」
本日何回目かのため息をつく。
しかし、ため息をついた所で状況が好転する訳ではない。
選択肢は2つ。
最初からキャラを作り直すか、このまま続けるかだ。
けど作り直すとなれば、ログアウトして、またあの面倒なキャラクター作成をしなければいけない訳だ。
ないな。うん。
そうなれば、諦めてこのまま続けるしかない。
どうせリハビリを兼ねているんだ。ゆっくりやっていけばいい。
そこまで決めれば、ここでため息をついていても仕方ない。
早速、色々試さなくては。
意を決して、仮想ウィンドウを閉じると、周囲を確認する。
あれから移動して、現在は近くにあった村の中にある公園にいる。
この手のゲームなら、初期配置場所の近くに拠点となる場所があるだろうと、ウロウロしてすぐに見つけた村だった。
村の入り口にある看板を見ると、字幕のように、視界の下にテロップが表示される。
『草原の村・フィール』
どうやら、この村の名前はフィールと言うらしい。
入り口から数歩中に入ればあるこの公園には、数名のNPCの姿が見えた。
早速、近くにいた中年の男性NPCに声をかける。
「すいません」
「ん?どうしたね?」
人が良さそうな笑顔を見せながら、NPCの男性がこちらを向く。
その動作に違和感はない。
このゲームのNPCは、かなりアドリブが効くようだ。
特殊な自己学習型AIを使用してるとかで、この世界で人が実際に生きていたら、どう進歩していくかを実際に再現している。
詳しくは説明されても僕には分からないが、要はNPCも、このゲームの世界で『生きている』らしいのだ。
もちろんそれだけだとイベントなんかの時に運営がこのゲームに影響を与えにくくなる。
そこで運営は、運営NPCという運営が直接操作出来るNPCを随所に用意しているのだそうだ。
うん、僕にはよく分からないな。
まぁ、NPCにも人格があるって事はなんとなく分かったけど。
NPCのおじさんの表情を見ながら、そんな事を思い出していた。
と、まずは聞きたい事を聞いておこう。
「この村に初めて来たのですが、この村に宿のような泊まれる所はありませんか?」
まずは拠点となる場所の確保だろう。
確か。宿なんかのベッドでログアウト出来るようになってるという話だ。
「宿?宿はこの村にはないんだが、代わりと言っちゃなんだが…」
おじさんは一度言葉を切って、奥にあるひと際大きな建物を指差す。
「あそこにある冒険者ギルドの出張所で寝泊まり出来るようになってたはずだよ。」
と、再び振り向きながら説明してくれる。
なるほど、冒険者ギルドか。
確か、そこで登録してないと、正規の依頼を受けれないんだっけ?
「それはそうと、あんたも冒険者なのかい?」
NPCのおじさんは、僕の姿を見直しながら、そう尋ねてくる。
「あ、はい。と言っても登録は今からするところですが。」
「はぁ〜、大変だねぇ。」
複雑そうな表情を浮かべるおじさんは、ポンっと肩を叩いてくる。
「まぁ、大変な世の中だが、嬢ちゃんも頑張ってな。」
そう言って、手を振りながら向こうに歩いていく。
そうだ、もう1つの問題を忘れてた。
と言うか、気にしないふりをしてたんだけど。
この見た目、どうにかならないものだろうか。
ローブを脱げばマシになるだろうかと思い、すでに脱いでいたのだが…。
おじさんの反応を見る限り、ローブを脱いでも意味がなさそうだ。
課金アイテムでもいいから、見た目を変えるアイテムとかないかな…。
僕は再びため息をつきながら、ギルドに向かって歩き始めた。
ギルドの窓口で登録を済ませて、周囲を見渡す。
建物の中身は、冒険者に必要な施設の集合施設となっているみたいだ。
ギルドの窓口以外にも、消費アイテムの販売所。
武器、防具を売っている出張販売所。
さっきのおじさんが言ってたように、宿もあるようだ。
冒険者に登録した際に、初心冒険者支援金とかいう名目で、いくらか通貨を貰えた。
ちょっと買い物をしてみようかと思ったが、どれから見ていこう。
うん、まずはステータスを補うために武器とか防具を見ていこうかな。
僕は武器や防具を売っている店を覗いてみた。
金属製の武器や、革製の防具などが遠目にも見えていた。
安くていいので、何か底上げ出来る物があればいいんだけど。
数分後、ギルドの中に設置されたソファーの上で、僕は座り込んでいた。
高い。
武器、防具の値段が高い。
一番安い物を見せてもらったが、特になんの効果もないただの杖で、最初にもらった金が全部飛んで行ってしまう。
防具にしても、ただの服なのに似た様な値段になっている。
値段が高いと言ったら、冒険者が急に増えた為、在庫が少なくなってるから値段を吊り上げたと答えられた。
かと言ってこの値段は無いだろうと言いたいが…。
まぁ。まだ武器、防具類はマシな方かもしれない。
一番酷いのはポーションだ。
ポーション一本の値段が、見ていた杖の10倍の値段になっていた。
武器防具と同じ理由で値段が上がってるのだろう。
とはいえ、これは困った話だ。
コッチはステータスがただでさえ低いのだ。
少しでも補う為にポーションや武器防具は手に入れたかったのだが…。
むむむ、としばらく悩んでいたが、どうにも金が無ければ話にならない。
金を手に入れる為にもちょっと依頼をこなしてみよう。
僕は窓口の近くにあるコルクボードに近づいてみる。
ココにはギルドに持ち込まれた依頼が張り出してある。
ランクによって受けられる依頼は決まっているので、いきなり難しい依頼は受けることは出来ない。
難しい依頼は報酬もいいので、頑張ってランクを上げていってください。と、窓口で言われたのを思い出す。
今の僕のランクはF。登録したばかりなのだから、当然最低ランクだ。
受けられる依頼も簡単な物が多い。
その中でも、報酬が良くて戦闘メインではなさそうな依頼を探す。
今の装備で戦闘に行ったらアッサリ死に戻りそうだ。
まずは初日だし、慣らし運転のつもりでやっていこう。
ふと、ある依頼が目に止まる。
クエスト:【木材加工の手伝い】
ランク:F
報酬:120G+
依頼者:木材加工所所長ローダ
内容:冒険者向けの杖の加工が間に合わない。手伝ってくれる人がいれば大いに助かる。
もし規定の数より多く作れたら、報酬に上乗せして払うよ。
ふむ。木材加工か。
コレなら戦闘も無い様だし、武器の量産が出来れば、武器の値段も下がるかも知れない。
コレにしよう。
ボードから依頼の用紙を外し、窓口に持ち込んだ。
「ここかな?」
依頼を受けて来たのは、村の中でも南東に位置する建物だ。
それなりの大きさだが二階はなく、建物全体が倉庫の様な作りになっている。
奥行きもある様だが、半分ほどは木材で埋まってる様になっており、広さはあまり感じない。
その中で数十人ほどの人が座り込み、一心不乱に木を削っている。
あまりに真剣だからか、僕が来たことに気付く人はいない。
「あ、あの〜、すいません。」
恐る恐る、声をかける。
ピタっと、近くにいた1人が動きを止める。
中年の男性だろうその人物の顔は、落ちてきている前髪でよく見えない。
髪が汗で濡れているのだろう。前髪の一部は顔に張り付き、より表情を見えないようにしている。
すぅ〜っと、幽鬼のように立ち上がると、フラフラとこちらに近づき…。って、なんか怖いんですけど?!
「あ、あののの、ちょっと?!」
しどろもどろになりながら少しずつ後ずさるが、不意に伸びてきた手に肩を掴まれる!
そして、その人は急に顔を上げて、大きな声で言った。
「よく来てくれた!ありがとう!」
…へ?
「ごめんねぇ〜。切羽詰まってたんで、人が来てくれたと思ったらつい…。」
苦笑いを浮かべつつ、先ほどの人…ローダさんが話してくれる。
ローダさんはこの木工所の所長らしいが、本人曰く肩書きだけの職人気質らしい。
皆が頑張ってるのに自分だけデスクワークなんてしてられないと、作業を手伝っていたらしい。
タオルで顔を拭いた彼は、ギルドの受付表を確認しながら飲み物を用意しているようだ。
そのついでに色々話をする。
何やら、本気で人が足りないのだそうだ。
全員で不眠不休レベルで作業しているが、生産数がまるで足りないらしい。
「なんでまたこんなに冒険者が来たのやら…。まぁ、仕事が無いよりはいいんだがね。」
ぽりぽりと頭を掻きながら愚痴をこぼす。
そうして、入れた飲み物の1つを差し出しながら、自身も飲み物を一気に飲み干していた。
「で、早速だけどさ。皆と同じ様に、冒険者用の杖の作成を手伝って貰えるかな?」
そう言いながら、一本の杖を取り出す。
アイテム:【オークの杖】
種別:【武器:杖】
重量:2
効果:攻撃力+1 魔法適正+1
備考:樫の木を使った杖。相応に硬く、武器としても使える。また、魔法発動に適性がある。
手渡された杖を【識別】しながら、確認する。
長さとしては50センチほどだろう。
真っ直ぐに加工されただけにも見えるが、握ってみると、すんなりと手に馴染む様な感触がある。
先に行くほど太めにされており、見ようによっては棍棒にも見える。
また、特にニスなどを塗っている様にも見えないが、手触りがツルツルしている。
よほど丹念にヤスリをかけてあるのだろう。
「それ、手本ね。それと同じ様に加工して欲しいんだ。」
ローダさんは二杯目の飲み物を飲みながら杖を指差す。
「でも、僕は素人なんで、頑張ってはみますが、ここまでの加工出来ないかもしれませんよ?」
僕は正直に答える。
確かに、プレイヤーとしては多少木工に覚えはある。
しかし、ここまで精巧に作り上げれる自信は無い。
「構わないよ。仕上げは流石に手伝うから。」
にこやかに、「それに素人に完璧な仕事されちゃったら、自分らの立つ瀬が無いよ」などと答えてくれるローダさん。
僕は仕事は、仕上げの前の削り出しの所らしい。
切り出された木材を、太さや形を整え、仕上げができる状態にするまでだ。
ふむ、そこまでなら出来るだろうか。
とにかくやってみるしか無いだろう。
なにより報酬の為だ。
「分かりました。やってみます。」
「お、そうか!じゃあ、コッチでやってもらっていいかな?」
ローダさんは作業場の奥の方に案内してくれる。
テーブルの上には切り出された木材が積んである。
ざっと見て、50本くらいだろうか。
「一応、これ全部が目標だ。頑張ってな。」
加工用のノミや小刀をテーブルに置きながら、サラリと爆弾発言のローダさん。
ちょっと待って。
一本の加工にどれくらいかかるか分かんないけど、仮に30分掛かるとして…。
ギギギ、と妙に重たい首を後ろに向けると、最初に見た時の様な、幽鬼の顔をしたローダさんと目があう。
「が ん ば っ て な」
そう言って、彼は元の作業位置に戻る。
ココには呆然とする僕だけが残された。
…やるしかないか。
意を決して、木材を手に取り、加工を始める。
とりあえず、一本作ってどれくらい時間がかかるか試してみよう。
ふと気がつくと、既に昼過ぎになっていた。
手元には3本の杖がある。
最初の杖の加工には時間がかかった。
しかし、コツを掴めば後は結構単純な作業だ。
それなりにテンポ良くは進めれていた。
問題があるとすれば、加工の際に違和感があることだろうか。
器用値が低いためか、細かな作業をしようとすると、意識と手先に微妙なズレが生じるのだ。
それでも作業は出来るが、やはり、この数だ。
もっと作業効率を上げたいのだから、わずかでもズレは減らしたい。
悩みながら、一度休憩に席を立つ。
適宜休憩を入れていいとの事だったが…。
作業場の人は誰1人として場を離れる気配がない。
大丈夫なんだろうか。
皆、瞳から生気を感じない。
手は動いているが、まるでゾンビの集団の様だ。
「ち、ちょっと休憩を取ります…。」
声を掛けると、全員が首を縦に振る。
コレは怖い。
皆が休憩を取らない中、一人休憩を取る居心地の悪さを感じながら作業場を後にした。




