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竜騎士交差点  作者: 流堂志良
フイネイ王家
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政略結婚と新たな客

 その話は突然だった。

 ルークは戸惑うしかできない。


「何故そんな話になるんだ? 聞いてないぞ」


「だって仕方ないじゃない。半年後に王子様の結婚相手候補を呼ぶ舞踏会なんだから。兄さんもきちんとした一張羅が必要なんだって」


 事の発端は、ジークが兄のルークの採寸をするという話を持ってきたことからだった。

 何でも、半年後に舞踏会があるので正装をあつらえないといけないとか。

 それも、王女であるレイナのエスコート役として。


「俺は護衛だ。エスコートなんてしてられるか!」


「兄さんはわかってない。舞踏会の最中こそ、最も護衛対象が無防備になる瞬間なんだ。まあ、竜の国の王女をどうこうする人間はいないと思うけど」


 ジークの言葉に、ルークはほれ見ろ、と視線を向ける。

 しかしジークが続けた言葉には完敗だった。


「レイナさんの護衛は彼女の心を守るための物でもあるんだ。パートナーとして傍にいれば、不測の事態が起きても兄さんが対応できるでしょ」


 がっくりとルークは項垂れた。

 正直言って、そういった華やかな場面には縁がない。

 何故なら以前護衛をしたときには、宴に出ることはなかったからだ。

 その時の彼の護衛対象は、華やかな所に出る事を好まない人間だった。

 王が気まぐれに情けを掛けた、ある女が産んだ子ども。

 庶子である生まれからか、与えられた部屋から出る事もない、優しい男だった。

 政争とは関わりなく、公式行事にも出席できる身分でもなく、彼はただ城に飼われ続けた。

 そこまで思い返したルークは記憶を振り払った。

 それ以上、思い出すことはできない。


「やれやれ……パートナーと言っても公式な物ではないだろう?」


「うーん……兄さんには言いにくいんだけど。兄さんはとりあえずレイナさんの婚約者にするとか」


「とりあえずって何だ! 俺は聞いてないぞ!」


「言った覚えないからね」


 抗議の声を上げたルークを抑えて、ジークは説明した。

 どうしても彼女は嫁がせるわけにはいかないのだと言う。

 それは彼女が未来を垣間見、おかしくなる可能性を持つが故に。

 竜は約定により、王家の人間しか守ることが出来ない。

 それ故に、彼女は竜の庇護下にいなければならなかった。

 たとえ嫁いだとしても、護衛は必要だということだ。


「とりあえずのところは、だよ」


 ジークは更に話を続ける。

 今後、彼女も恋をすることがあるだろう。

 そうすれば彼女の意志に任せるのだという。

 だが、彼女は王家の人間だ。

 女性が政争に使われる場面に慣れている。

 自分の意志で選ぶことが可能なのか、ルークにはわからなかった。

 王がルークと結婚せよと言うのならば、あっさり結婚してしまうのではないか?

 昼間のじゃじゃ馬な様子を見ると、それも考え難い話ではある。


「そんなことがあるものか……。それほど王は俺とレイナを結婚させたいのか?」


「次期風竜王(エアスト・ヴィント)を手元に置いておきたいだろうし」


「どうして俺が。お前の方が相応しいだろう。俺は人間の味方をしないかもしれない。お前と違って、俺はあの出来事を許せるほど強くないんだ」


「こっちはこっちで色々あるんだよ。とにかく、エスコートは絶対だから」


 それはもう決定という事なのだろう。

 捨て台詞のようにジークは言って、去っていく。

 弟に何があったのか、この先何が起きるのかわからない。

 王家と長く付き合いを続けてきたジークにはルークの知らない何かを知っている可能性がある。

 王家と長く付き合うという事は、逆に言うと王家の闇を長く見て来たという事にもなる。

 つまりはそういう事なのだろう。

 残されたルークはただ一人大きくため息をついた。




 その頃、宿には珍しい客が来ていた。

 銀髪の男。

 ただそれだけならば、どれだけよかっただろう。

 その男は昼下がりにやってきて、食堂部分でのんびりくつろぐリカルを見ても、裏側からちょくちょく顔を覗かせるアルファを見てもちらりと視線を走らせただけで、好奇の色を見せない。

 深い藍の瞳が一瞬曇ったのは、レイリィとリーフを見た時だけであった。


「それで、泊まりですか? お客さん」


「ああ。そういう事になる。少し長期の滞在予定だが構わないか?」


「ええ、全然問題ないですよ」


 エスノアにとって長期の客は大歓迎だ。

 食堂が順調とはいえ、宿屋なのに泊り客が少ないのは問題だ。

 そんなわけで、男に宿泊費などの説明をしていると、男は話を聞いているようで、エスノアの顔をじっと見ているという事に気づいた。

 まるで、何かを確かめているかのように見える。


「あの、何か?」


「あ、いや。知り合いの顔に似ていてな。……気のせいだろう」


 最後に男は宿泊客として伝票にサインをした。

 そのサインには姓はなく、ただ『ジョシュア』とのみ記されている。

 姓を明かしたくないワケありの客だろうか。

 詮索しても仕方のないことだ。

 エスノアは手続きを終わらせて、男を客室へと案内した。

 これで泊り客は四人。宿屋としてこの営業状態はどうなのかと思いつつエスノアは持ち場に戻り、大きなため息を吐いた。

 手元には作りかけの鉱石のお守り。副業の産物だ。

 これと別れる日はあまりにも遠く。

 この先、キリィを無事に成人まで育てられるかというとあまり自信はなかった。

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