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数列の巨人  作者: Aju
18/19

18 AI の性能

 夏希はしばらくの間、ラボの中に留まるよう言われた。

 言われたというより、それはほぼ強制だ。


「いつまでですか?」

 不安げに聞く夏希の肩を真悠が抱き寄せる。

 それを見て幕田が、おや? と思う。いつの間に進展したんだ、この2人?


「警備体制が整うまでだ」


「僕も……そうしてほしい」

 真悠がすまなさそうに言うその顔を、夏希が見上げた。

「ん……。ま、いっか。真悠の近くにいられるんだしね」


「それにしても、あの大使館員は生きて捕まえたかった。まさか高速で事故るとは……。どこまでR国の諜報機関に知られたのかが、全くわからなくなってしまった」

 幕田が眉根を寄せてつぶやく。


 ウラジーミルの()()()は幕田の指示ではない。幕田の指示は、トトに行方を追跡させて捕らえよ。であった。

 トトが防犯カメラをハックすることで、ウラジーミルの車のナンバーも車種もわかっていたし、東名高速に乗って岡崎の中央公園に向かっていることもわかっていた。

 柚子原夏希をのせた車のかなり前を、特務部隊の車がそいつの身柄を確保すべく追いかけていたのだ。

 彼らはきちんと仕事をするはずだった。事故さえなければ。


「ウラジーミルと本部との通信記録があります。表示しますか?」

 ホログラムのトトがそう言って、モニターの画面の1つにファイルを表示した。


 幕田がギョッとした顔をする。

「そんなことをさせたのか、真悠? 柚子原を退出させろ」


「ここからはラボの機密事項になるから。一般の人に見せるわけにはいかないんだ。ごめんね」

 真悠が夏希の背中を推してドアの方に歩かせる。

「後で部屋に行くから」


 夏希が少し寂しそうな笑顔を見せて、小さく手を振ってドアの外に出た。

「ご案内します」という声がドア越しに聞こえてきた。


 夏希が出ていくと幕田の声に険が宿った。

「私はそこまで関所を解放しろとは言っていないぞ! 真悠、おまえ。私が指示した以外の関所まで外したのか? もしR国に捕捉されてしまったら……」


「トトがそうした方がいいって言ったから」


「おまえ! AI はただの()()だぞ? 道具に使われてどうするんだ」


「トトは道具なんかじゃない! ちゃんと僕たちを助けようとしてくれてるんだ!」


「AI だぞ? 自分でコードを書いて作ったんだろ? 心なんて……」


「あるよ!」


「……!」

 幕田は口を開けただけで、それ以上議論するのをやめた。

 この子どもみたいな精神の青年と、これ以上この議論をするのは不毛だ。


 トトが収集していた情報では、ウラジーミルは研究の内容まではつかんでいなかったようで、R国の諜報機関本部もあまり相手にしていないような対応だった。どうやら、そうした状況に焦ったウラジーミル個人の勇み足だったようだ。

 幕田はその点に関してはほっと胸を撫で下ろした。


 それよりも、これはAI の暴走とも言える事案だ。きちんと検証した方がいい。人間がAI に使われてしまうような状況が生まれてしまえば、それは本末転倒だ。

 幕田はチーム真悠の全員を集めて、今回の実戦テストの検証をするよう指示した。コードとログをつぶさに検証して、問題を抽出するように。


「トトと管理下のAI を一旦切り離し、それぞれ個別に検証して報告してくれ。今回の実戦テストの成果についてもだ」

 幕田は真悠ではなく、ナンバーツー技術者のテニオンの方に視線を向けて言った。



「トト。しばらくお休みしてて。幕田さんの指示で健康診断するからさ」

 真悠がそんな言い方をすると、トトはにこっと笑って

「よろしくお願いします」

 と言った。


 真悠はトトの活動を一旦シャットダウンする。

 ホログラム装置からトトの姿がふっと消えた。


 真悠は端末の画面にトトのコードを表示させ、それををスクロールしてコードを見ていく。ログを見ていく。

 自分が記入したのではないコードがいくつも散見された。トトが目標を達成するために自ら書き加えていったコードだ。それはトトが自律的に思考できている——ということを証明している。

 優秀なAI に成長した。

 真悠が見る限り、そこには何の問題もイレギュラーも見当たらない。


 こんなことをしたって無駄なんだ。——と真悠は思う。


 幕田さんはあんなふうに言うけれど、だったら人間の心はDNAコードの中に見つけられる?

 真悠が夏希を想う心は、真悠のDNAコードの中になんかない。脳のシナプスを解析したって、そこからは見えてこないだろう。見えるのは真悠という脳の指向と性能だけだ。

 同じことさ。トトの心はコードの中になんかない。トトが僕たちを救おうとしてくれた思いは、そこからは見つけられない。


 その思いがあればこそ、トトは自律的に判断して夏希を救うために必要な介入をしたのだ。その性能は評価こそすれ、問題にされることではない。と真悠は思う。

 これでなければ、幕田さんの言う「日本の防衛」になんか参加させられないだろう。言われたことしかしないようなAI では——。



「いくつかのAI にバグが見つかりました。関所を自分で開けたような形跡が見えます。しかもその痕跡を消そうとしたような(あと)まで」


 テニオンがそう報告してきたとき、幕田の光のない目がさらに細まった。

 それは、AI が開発者である人間をだまそうとしたということか? そんな作動をするものなのか? AI は……


 真悠は「異常なし」と言ってきたが……。トトの検証は真悠意外にもやらせた方がいいかもしれないな……。


 

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― 新着の感想 ―
他の人にトトを検証、ですか? 無駄なような気もしますが。 ウラジーミルを殺したのは多分、トトの『未必の故意』でしょうが。 トトはパンドラの箱ですよ、きっと。 底に希望が残ることを願い、信じましょう……
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