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空に昇る煙
目に映る全てが白と黒の世界から、私は一歩踏み出た。目に痛いほどの明るい服や、軌跡を残して走り去る車が私の眼窩を刺激する。
私は、色にあふれる街をゆっくりと歩き始める。そして、ずいぶんと前にやめた煙草を求めて、自販機を探し始めた。
排ガスと人混みが煩わしく感じながら行く道は、淡々としていた。
記憶よりも高い金を払って一箱、そこから一本取り出す。
そこでようやく私はライターを持っていないことに気が付いた。
彼女のためにやめた煙草は、そう易々と再開できないらしい。
私は、煙草の箱を同じ銘柄を吸っていた通行人に投げつける。取り出した一本は、胸のポケットに突っ込んだ。
「ありがとよ」
そんな言葉は、ただ右から左へと通り抜けていく。
私はあてどもなく歩き続ける。
自分の思い人が、片思いだったとはいえ、男と結婚したとはいえ、雲の上に持ち去ったのは多く、私は目に映る景色がどうしても色あせて見えていた。
これからの人生、彼女に対するあらゆる後悔と共に生きるのだ。
そういう意味では、彼女とは永遠かもしれないなと、無味乾燥に笑う。
私は灰がかった空を見上げた。
何も、思わなかった。




