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女とバット少女
私は一人、人気のない路地を歩いていた。ビルとビルの間の、室外機のぬるい風が通る道を。
そして私は今、それを後悔していた。
「誰か!助けて!」
そう叫ぶも、誰も来ず、
「誰も来やしねえよ」
私を壁に追いやる男が言う。私の足は震えて使い物にはならなかった。
「へへへ。イイ女だぁっ」
顔を私に近づけようとしていた男が、鈍い音と共に急に白目をむいた。
「大丈夫?おねーさん」
そして、崩れる男の後ろから現れたのは、帽子をかぶった少女だった。手には血の付いたバット。
私は彼女の言葉に、何度も頷く。
「そう、良かった」
少女はそれだけを言うと踵を返した。だが、とっとと歩き始めたところに、私は待ったをかけた。
「?」
怪訝な顔の彼女だが、恩人を手ぶらで返すほど私は恩知らずな女ではない。
「何か――」
私の声に被せるように腹の虫が泣いた。彼女はそれに、顔をみるみると赤くさせた。
「えっと、家、来る?」
「うん。飯、くれ」
これが私と、奇妙な同居人との出会いだった。




