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エピローグ

「みゆきさぁん、これ、何処に置けばいいのぉ?」

「ああ、そこの棚に置いといて」

 振り返って岡崎ののんびりした口調に美雪は答えると、手前の写真の位置を調整した。

 岡崎は美雪と同じクラスで美雪の前の席にいて、何時もノートや宿題を見せてもらったりしていた娘だった。

 響子が二学期で転校すると聞いて、何時もお世話になっている美雪のためにと言って部員の少ない天文部に入ったのだった。

 天文については星占い以上のことは知らなかったが、のんびりと落ち着いた性格は直ぐに天文部になじんでいた。

「これで、よし、と」

 部室に部活で撮った写真や、観測結果の資料を展示していたが、それを再度チェックしていた美雪は一息ついた。文化祭の二日目。文化祭は初日が前夜祭と言いう名のリハーサルのようなもので、今日からは一般の客も入る。期間は三日間。高校生になって初めての文化祭で、美雪も張り切っていた。

「何時もと違う部屋だよね。変わるもんだね」

 部室を見回して智絵が言った。

「そうね」

「和穂に岡崎さんや神田君が入ってくれたから、前より賑やかだね」

 和穂は、二学期から文芸部と掛け持ちで天文部にも入っていた。文芸部主体なので、たまに観測に顔を出すくらいだったので、これまでと特に変わりがないとも言えた。

 神田は神保の友人で、こちらはアニ研と掛け持ちだったが、天文部にいることの方が多かった。周りが付いていけないようなマニアックな会話を神保と二人で繰り広げたりして、美雪や智絵に呆れられることもあった。

 神田が天文部に入ったのは、響子目当てだろうとは美雪も思っていた。響子が二学期で転校する、という話は、三人は口に出さなかったものの、学校側には連絡していたようで、そちらからどう漏れたのか生徒の間では直ぐに噂として広まっていた。

 倉田江理栖は八月末まで在籍、家庭の事情で九月には転校していった、ということになっていた。

 倉田江理栖が実際にどういう経緯で居なくなったのかは、美雪と、和穂に神保の三人だけが知っていることだった。

 東海林に関しては、響子以外知る人は無い。


「部長と神保君がお昼休みとるから、交代してって。私がいこうか?」

 外に出ていた岡崎が戻ると美雪に言った。

「あ、神田君と一緒でお願いできる?」

「うん。わかった」

 視聴覚室では、神保の作った動画が上映されていた。15分程の上映を、映研やアニ研といった部の作品や、映画を撮ったりしたクラスの作品とともに一日に数度上映していたが、天文部員も他の部の部員と交代で上映作業をしていた。

 動画は、東海林の撮った写真を比較しつつ、火星の見かけの動きが分かりやすいと、地学の教師には好評で、地学を授業で受けている生徒には見ることを授業で義務づけているくらいだった。この動画のナレーションは美雪が行っていて、美雪自身は編集で何度もみていたし、自分のナレーションということもあって改めて見たいとは思わなかった。視聴覚室でビデオを流している間は部室で展示を見に来た人の相手をしているくらいだった。

「美雪も休んだら? 私がここは見てるから」

「そう? ありがとう」

 智絵に言われて、部室を出た。天文台に向かう階段のまえでふと立ち止まる。文化祭の間は、昼間に月も見えないし、文化祭期間中は一般の公開は十五時半まで、今日は十七時には生徒も下校時刻としていた。明日の最終日は、十五時以降片付けに入り、十六時から二十時まで後夜祭だった。


 天文台は一般に開放されないが、美雪は階段を上がっていった。鍵は開いていて、天文台には入れた。長大な白い望遠鏡が静かに佇んでいる。

 美雪はそれを眺めて、その奥の校舎の屋上への扉を見た。扉が開いている。そちらへ歩いて行ってその扉を開けた。キイっと軋む。

「響子さん」

 鱗雲の浮かぶ青空の下、響子が海の方を向いている。

「交代の時間でしたか」

「ううん。まだ大丈夫。智絵が見てるから」

 美雪の耳に、吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。吹奏楽部には二学期の初めに、楽器の寄付があった。ジェルマン・マティスが学校に来た時に出た噂話程度のことだったが、マティスがそれを聞いたのか、学校の部活動用としては少々高価なヨーロッパから輸送された楽器だったらしい。吹奏楽部員は大喜びしていたが、学校側はだいぶ恐縮していたようだ。

「良い天気ね」

 海からの風がゆっくりと美雪の頬を撫でる。


 響子の銀河連盟のエージェントなどという打ち明け話を聞いたのが八月。あれから二月ほど。あまりに奇妙な自分の体験と話を聞いた後で、響子とこれまで通りに学校で会って付き合っていけるのか、不安に思うこともあったが、夏休み中の合宿や部活を経て、新学期が始まっても違和感なく過ごしていた。

 和穂が言うには、違和感が無いのが一番の違和感だと言っていた。何か、心理的な操作でもされているのかもしれない、神保の方はそんなことも言っていた。

 三人の秘密。というよりは、あの日に美雪が感じたような、夏の日の白昼夢をおぼろげながらに記憶しているような気がしていた。


「年末には、転校しちゃうんだね。ちょっと寂しくなるな」

 響子の横顔にそう話しかけた。

「そうですね。私も当初よりは、ここでの生活になじんだような気がします」

 響子の横顔は少し笑みを浮かべているように見えた。以前よりは、表情が豊かになったような、そんな感じを美雪は受けていた。

「転向後は、別の学校に行くの? それとも、もう……」

「それは、機密事項ですので」

 響子の顔が真顔になった。

「私たちのことも、忘れてしまうの?」

「いいえ。この町で、この学校で過ごしたことは忘れないでしょう。特に、あなたは初めてできた友人ですから」

 響子にしては、めずらしく、にっこりと笑った、最大限の笑顔、という顔だった。

「……ありがとう」

 そう答えると、美雪は何故か泣き出しそうな気持になった。そんな表情を見られたくなくて、汐の香の混ざる風の吹いてくる、遠い水平線を見つめた。


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