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7.男子寮はマズいって!

 最初の変身から何日か経ち、その間に何回か試してみたら少しだけわかったことがあった。


 まず、ネコに戻る時、ルームウェア以外に着ている服はスルリと脱げてしまうということ。

 もう一度人間に変わる時はルームウェアを着ているということ。

 ルームウェアを体から手放すと空中に霧散してしまうということ。これはウェアを着たままネコに戻る時も一緒の現象だった。


 今のところ、これだけは解明された。

 最初の変身ではあんな態度になったハルも、何回かの変身に付き合っているうちにだんだん慣れてきたようで、多少のぎこちなさはあるものの、普段とあまり変わらずに接してくれるようになってきた。


「俺、サーラはもっと小っちゃい女の子だと思ってたんだよ。悪かった、これからはもっとレディとして扱わないとね」


 ネコになった私を持ち上げ、目線を同じくしてから、ハルはそう言った。


「別に遠慮なんか要らないわ。そんなんされたら気持ち悪いし。第一、友達でしょ? あ、面倒見られてるからペットかな? どっちでもいいけど」


 素っ気なく言ったらクスッと笑って「わかったよ」と頬ずりされた。


 この世界を生き抜くにはハルとレティの助けが絶対に必要だ。

 変な遠慮や妙な距離を自分で作ったり、作られたりして疎遠になってしまった昔の友達を思い出し、この二人にだけは自然体で接しようと改めて心に誓った。


 本音を言えば、撫でられたり頬ずりされたり、に慣れ過ぎて、そのスキンシップが少なくなるのを回避したかったってのもある。

 知らないうちに性格がネコ化してきているようで、なんとなくその日暮らしも悪くないと感じる自分がいることに愕然としてしまった。


「あーあ、早く完全な人間に戻らないと思考がネコに近づいてきてるわ。すでに勤勉な日本人の生活からは程遠くなってるし……私ってばどうなっちゃうんだろ」


 そんな私の悩みとは裏腹に、この不安も吹っ飛ぶような話しをレティが持ってやってきた。


「ハルー、そろそろ学校行く準備を整えておかないと。制服合わせに行くわよー。あとは寮生活の道具とか準備しないとね」


 ん? そう言えばこれからハルは学校入るのか……ってか私は? 放り出されるんかいな。


「レティ? 私、ハルが居なくなったらどうやって生活したらいいんだろ……」

「んー、そうねぇ。私もお目付役終了で家に戻らないといけないし……私はサーラとの同居、たぶん無理。この際だからハルについて行っちゃったら?」

「えーっ! ハルについて行くって……男子寮にってこと? 私、女なんですけどー!」

「何言ってんの、表向きはネコじゃん。夜に水鏡に映んなきゃ平気だって。ここ最近はそんなに人間に戻ってないじゃない。心配だったらハルと一緒に寝たらいいよ」


 だからハルは男、私は女だっつーの。

 あたふたしてハルを見上げると、奴め、鼻の頭をカキカキしながら「変身されたら困るけどネコだったら平気」とか抜かしやがる。


 もー知らんがな。わかったわよ、ついて行きますよ、行かせてもらいますよ。


 せめてその前にと、この国のことや、学校と寮がどのようになっているかをザックリと説明してもらう事にした。


 ハルの説明によると、日時のサイクルは前の世界とほぼ似た感じで、六日働く、もしくは勉強し、残り一日は休日となり、ひと月は六週、一年は九ヶ月、季節は三ヶ月ごと、白、緑、赤の季節になっているらしい。

 赤の季節の最後のひと月が長期の休みになり、次の年度への切り替え時期となる。


 今、まさにこの時期にあたっていて、あと半月で白の季節が始まり、新学期がスタートする。それまでにハルは入学、入寮手続きを済ませておかなければならないのだ。


 学校とは、ルシーン王国内の唯一の学校で、この国に生活している者ならば、必ず入ることになっている学校だ。学費から生活に関する費用まで全て国で負担してくれる、という、有難いシステムになっているらしい。男子女子共学で、全寮制になっている、ということだった。


 初年度半年は共通の科目を勉強し、残り半年で文官、武官、魔術師の修練コースへと振り分けられる。

 二学年度は専門課程を選択、最終学年は就職先に特化した学習となるらしい。


 魔術師コースは、一種の特殊コースという扱いになっている。魔力の強い人間は、一般の人間にはない特別な力として、特別視され尊敬され、このコースに入れれば、エリートコース真っしぐら。魔術師団に入団して一目置かれる存在にもなれる、ということなのだ。


「そういえば、ハルたちは魔法と魔術っていい方二つ分けてるみたいだけれど、違いってあるの?」

「そうだな、魔法ってのは基本、みんなが普段から使えるヤツのことさ。魔術ってのは、魔力を上手く制御しながら自在に操る方法、みたいなモンかな。魔力をコントロールできるようになれたら、魔術師への道も開けるってことなのさ」

「へえ、コントロールって大変なの?」

「かなり訓練はするって聞いたよ。だから魔術師を名乗れるってのは名誉なことなんだ」

「ふーん。だから全寮制なの?」

「うーん、そういう訳でもないんだけど、一貫して教育する環境を整えるって意味合いかな。学生は学生になってるうちに学ぶって感じで」


 寮のシステムは、各学年男女一棟ずつになっていて、合計六棟が学生棟、他教授陣が一棟使用している。

 一部屋を二人で使用し、三年間同室で過ごすようだ。


 ここで一番の問題が発生してくる。


 三年間二人で一室使うということは、私とハル以外の人間と、その期間生活を共にすることになるのだ。


「ハルー、ひとり部屋になるって無理なの? 私のことバレたらマズいじゃん。最悪二人になったとして巻き込める人だったらいいけど……ほぼ賭けだよね」

「んー、寮長だとひとり部屋なんだけど、学年首席入学者なんだよね。俺、目立たないように合格したから寮長にはなれない。サーラにもっと早く会ってたら調整したんだけどなぁ」


 ハルのその言い方、もしかしたら首席合格できるのにしなかったってこと?

 この子ってば、どんだけの頭持ってんだろ。


「ねぇ、入学試験ってどんな感じ?」

「一般教養と武術、あと魔法の能力だよ。俺小さい頃から教育されてたから、そこそこ出来るんだ。全力でやると目立つから適当に手を抜いちゃった」


 うっわぁ、自分でハイスペック発言しちゃってるし。でも言ってるってことは実際に出来るってことだよね。

 マジマジとハルを見つめていたら、なんだかインテリ君に見えてきちゃった……

 おっと、余計なこと考えないで、今は目の前の危機にどう対応するかを話し合わなければ。


「で、同室の子が口の軽い子だったらどうしよう。私、なるべく話しもしないし変身もしないようにしておくからさ。見つからないように、ハルも協力してね?」

「大丈夫だよ。俺、魔法使いのコースとる予定だから、特殊なネコ飼ってることにすれば普通に喋れると思うよ」


 ニコニコ笑って頭を撫でてくれる様子は、何の心配もしていないように見受けられる。


 全く、私の気持ちはどうすんのよ。

 いくら十五の少年たちの集団だからっていっても、私だって男性に免疫ないんだから……見つかったら(もてあそ)ばれちゃうかもしれないじゃない。


 つい一番気にしている部分をレティに相談したら、大声で笑われてしまった。


「アンタのその胸だったら、男子寮に居たって女なんてバレやしないわよ。髪は帽子の中に纏めりゃ完璧よね」


 笑い話じゃないって、レティってば楽観視し過ぎなんだから。私のことでハルが退学とかなったらヤバいでしょうに。


 人がいろんな心配してるのも知らないで……レティは大雑把だし、ハルはのほほんだし。


 コイツら見てたら頭痛くなってきた。

 しばらくひとりにしてもらいたくなって、その場を離れて部屋の隅に丸まった。


 考えても仕方ないものは考えない。明日は明日の風が吹くだろう。

 そう思い直し、思考を停止させてゆっくりと眠りの波に身を委ねた。

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