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5.今度は借金取りかっ!

 あくる日、サランディアさんに詳しい話を聞こうと思ったのだが、残念なことに、それは永遠に叶わないことになってしまった。


 その日、朝起きたらサランディアさんはピクリとも動かなかった。半分ムッとしながらも私はネコの手で彼女を起こそうと肩に手をかけた。


 その途端、サラサラと粉のように体が崩れ始め、びっくりしてそれを見つめる。

完全に粉になった瞬間、パアッと光ってその体全部を包んだようだった。

 眩しくて反対側に顔を背けて目を光から守り、発光が終わったと感じてからもう一度彼女の体を確認した。


 すると彼女の体はすっかり消え去り、着ていた服のみが残されていた。


「さすが魔法使い、死んでも自分の体は触らせないって感じかな。まさに孤高」


 ボーっとしながらつい呟いてしまった。

 そしてハッとしてから慌てて周りを見回した。私、ネコのままじゃあサランディアさんの家に居ても何もできないじゃん、だれか第三者に助けてもらわないと。このままだと彼女が気の毒だ。


 玄関口まで歩きかけたところで、人がくる気配を感じた。


「っちわーっす、サーラ、いる?」


 よっしゃぁ、救いの神、キターーーー!


「すみません、どなたか存じませんがサランディアさんはたった今、お亡くなりになられました」

「なっ……サーラっ!」


 客人は、入り口からダッシュでベッドまで駆けてきて、サランディアさんの服を握りしめて無言のまま俯いている。


「そろそろだって自分で言ってたけど……まさかホントに居なくなるなんて……」


 フルフルと震えて俯く様子は、サランディアさんの死を悲しんでくれているようで、私も胸のあたりがキュンとする。

 たった数日の付き合いだったけど、それなりに面倒はみてもらったんだと思うと、私も涙が滲んでくる。


 ようやく客人が顔をあげ、口を開いたと思ったら、ビックリする言葉が飛び出してきた。


「サーラっ、俺の金返してから消えろよー。このバカタレーっ。踏み倒すなんて太えヤローだぞ。ここん家もらったって割に合わねーだろーが!」

「ええっ! アンタは借金取りかいっ。しかもこの家は私がもらったんだ、誰が渡すかっ!」

「何だ……と……お前か? 喋ってるの」


 首を巡らせて、ビックリしたような目をして私を見る客人。私はこの家を取られまいという威嚇の目で相手を睨みつける。


「そうよっ、大事なことなんでもう一回繰り返すけど、私はサランディアさんからこの家をもらったの。もう私の家だから、借金取りは消えて」


 思いっきり低い声で威厳を籠めて言い放った。堂々とした態度と張りのある声、これだけ見せつければ後ろ暗いことしてるヤツらは大抵引くはず。

 と思ったのに……


「おっ前、すっげえ可愛いなぁ。サーラの飼い猫か? それなら俺のとこ来なよ、後悔させないぜ」


 破顔しながら私の両脇に手を入れてスッと持ち上げ、頬ずりしながら頭を繰り返し撫でられる。


「んなーー、ヤメーーいっ!」


 私は持ち上げられているため、宙に浮いた脚をバタつかせて猛抗議した。

 だって……至近距離で男性とゴニョゴニョ……なんて、ほぼ初めてなんですからーーーーっ!


 鼻息荒く、フーハー言いながら腰に手を当ててギッと睨み返した。


 と言っても、腰に手を当てた感じがしただけで、実際にはニャンコのおねだりポーズに近い格好だ。立って抗議してる雰囲気も宙ぶらりんのため、そんな感じに思えただけで、まるでサマになっていない。


 私のそのポーズを見て、客人は更に緩んだ顔をしながら、キャハッと言ってギューっと抱きしめにかかった。


「グッ、グェ……苦し、い」

「あ、ごめんごめん、ネコちゃんがあんまり愛らしいから、つい。これから気をつけるから。ね、許して?」


 も、もうどうでもいい。

 とりあえず、アバラを折られて窒息、という状況は逃れた。グッタリしながら、背中をさすられ続ける手を受け入れ、抱っこされることにした。


「ねぇお客人、アンタ誰? サランディアさんの知り合い? どんな関係なの?」

「俺か? 俺はハルムート、魔術師の見習いってとこかな。サーラに弟子入りしようと思ったけど断られまくってた。だから何日かに一回、薬草や必要なものを届けて顔売ってた所さ」


 なるほど、彼女の身の回りの世話係はいたんだね。なら、私も便乗して彼に頼るしかないってことかな。彼に片付けやらこの世界のことを少しずつ教わって、順応しなければならない。


 何せネコのままではあらゆることに不便を感じてしまう。ここは何としても彼を私の側に引き込まなければ。


「私は紗羅、月宮紗羅です。訳あって遠くからこちらに来ることになったんですが、サランディアさんの魔法で今はネコになってます。水鏡に月と自分を映せば、その月が隠れるまでは人間になれると聞きました。まだ試してませんけどね」


 それで、と言葉を繋げながらハルムートさんに、この家の始末と私の現状を説明し、ここでの生活をスタートさせるサポートをお願いしてみた。


 ハルムートさんは私の身に起こったことに物凄く興味を示し、サポートをすることを快く引き受けてくれた。

 最初、生活拠点は自分の家に、と勧誘されたが、私が頑なにお断りした結果、渋々ではあるが、この場に留まることで決着がついた。


 だって、私の人生で男性と同居なんてプランはなかったもの……まだまだ羞恥心は捨てられませんからっ!


「ふーん、お前もサーラなんだな、よろしく。俺のことはハルでいいよ。ところで、ネコになってる間は魔法使えないだろ? 人間に戻りゃ使えんのか?」

「はい? 人間に戻ったって魔法なんか使えるワケないじゃん、アンタ達と違って魔法使いじゃないんだから」


 ハルがキョトンとした顔で私をみる。なぜそんな顔されるのかわからないので、ちょっとイラッとした声で問いかける。


「何よ、魔女の家にいるから魔法を使えるネコってことないからね」

「あ、いや、そういうことじゃない。人って生活魔法使えるだろ? だからネコの間は使えるのかどうかって聞いてたんだが……」


 あ? 生活魔法? 何だそりゃ?

 聞き慣れない言葉にかえって訝しげに首をひねる。

 ハルがふうっとひとつ息を吐いて、詳しく教えてくれた。


 このルシーン王国の住人及び周辺の住民、つまりはこの世界のみんなってことなんだけど、ある程度の魔力を持って生まれてくるらしい。生活していく上で必要な魔法、火、水、風の魔法はほぼ全員が子供の頃から使っているのだそうだ。


「掃除、洗濯、メシ炊き、沐浴なんかも魔法を使うぞ。お前、魔法使えないんなら一人で暮らすことなんて出来ないじゃん」

「ええっ、何でそんなにファンタジー世界なのよ……私が暮らしていた所は魔法なんて誰ひとり使えなかったわ。その分、科学が発達したけどね」


 呆然としながらこれからどうやって生活していこうかと考えながら呟く。


「そのかが……何とかってのはネコのままでも使えるのか? それとも人間に戻れば使えるか?」

「どっちでも無理だよ、機械を作るなんて技術もなければ知識もないもの」


 ガックリと床にうずくまって、途方に暮れた声で小さく、どうしよう……という声が出てしまった。


「そうか……それならやっぱり俺と暮らすことになるな。俺がサーラの面倒をみてやるよ。安心しろ、朝から晩まで常に一緒にいてやるからな?」


 だからぁ! 朝から晩までなんて私のプライベートはどうなるのよっ!

 ……でも生活できないんだったら、すがるしかないよね。とりあえずこの世界を把握するまでの我慢だ。

 ここの常識を習得して、日本へ帰る、この目標を掲げて生きるしかない。

 ウジウジしてても何も変わらないなら、思い切った行動をとるべきだ。


 この瞬間、私の腹は決まった。

 考えてみれば、サランディアさんのせいだよね、この状況……


「くっそーー! サランディアめーー! 生き返って私を日本へ返せーーーー!」


 今はいない人に向かって絶叫した。


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