暴走族
(ぱらりら、ぱらりら)
(ぶーん、ぶーん)
騒音と共に外が急に明るくなった。
なんだ。これは戦でも始まるのか。
私は警戒した。
「馬育の奴、ひさしぶりだな」
と天使は言った。
「馬育とは何者だ。それにあの騒音はなんだ」
と私は高次に尋ねた。
「怒羅鬼馬育。俺の弟です。暴走族馬乗鬼の総長をやっています」
と高次は言った。
「暴走族とは何だ。なんであんなに騒音をたてる」
と私は高次に尋ねた。
「もうすぐ来ると思うんで、本人に聞いてみてください。そっちの方が早いと思います」
と高次は言った。
(ごんごんごんごん)
「兄貴たちいる?」
男が入ってきた。
赤色の髪に真っ赤なつなぎ。
眉毛はなく、うっすらとヒゲが生えている。
腕には、馬乗鬼総長と、
そして背中には「病老死苦」と黒色の刺繍がほどこされている。
ちょっと待て、馬乗鬼総長はわかる。
馬に乗る吸血鬼の長という意味で、
なにか眷属でもしたがえているのだろう。
しかし「病老死苦」とはなんだ。
病い、老い、死、苦しみ、
人間が逃れられない苦しみではないか。
なんだこいつは、
悟りでも開いているのか。
私はその男への警戒を緩めることができなかった。
「馬育。ひさしぶりだな。3か月ぶりか」
と高次は言った。
「おぉ兄貴達も姉貴もひさしぶり。あいかわらずしけたツラしてんな」
と馬育は笑った。
「お前はあいかわらず、眉毛ねぇな。そんな恰好じゃモテねぇぞ」
と天使は肩を殴った。
「うるせぃ。このビジュアルがはまる女もいるんだよ」
と馬育は笑った。
本当に兄弟のようだな。
よし聞いてみよう。
私は高次の身体を借りる。
「おい。馬育とやら」
と私は言った。
私の言葉に、
馬育は動きを止め、
ゆっくりとこちらを振りむき、
怯えた表情で、ひざをつき、
「始祖様。お初にお目にかかります。馬育にございます」
と馬育は言った。
その足元は微妙に震えていた。
「すまぬが聞きたいことがある。お前は暴走族だそうだが、なぜあんな騒音をたてる。なにか目的でもあるのか?」
と私は尋ねた。
「……、
暴走族は、騒音を起こし、暴走行為を行う者なのです」
と馬育は言った。
「では目的はないのか?」
と私は尋ねた。
「……、
そうですね。考えたこともありませんでしたが、
騒音を起こし、暴走行為を行うことがカッコいいと感じたのかもしれません」
と馬育は言った。
「では問う。騒音や暴走行為は、他人にとって迷惑だとは思わないのか?」
と私は尋ねた。
「恐らく迷惑なのでしょう。警察には追われるし、バイクのタイヤは知らないうちにパンクさせられる。バイクに、燃えないゴミのステッカーを貼られたこともあります」
と馬育は言った。
「そうだろうな。他者に迷惑をかけるというのは、敵対する行為である。いうなれば、喧嘩を売っているようなものだ。報復されても仕方がないだろう」
と私は言った。
「そうですね。その通りだと思います」
と馬育は言った。
「しかし私もかつては漆黒と紅に彩られた衣装を着て馬にまたがり、方々を走り回った。馬に乗れば馬は馬糞をまき散らす。
民家の前に馬糞をまき散らした事もあったかもしれん。
お前と私は何も変わらぬのかもな」
と私は言った。
「私はどうしたら良いのでしょうか?」
と馬育は尋ねた。
「そうだな。馬をいななかないように躾することはできぬか?」
と私は尋ねた。
「マフラーをいじっているだけなので、すぐに可能です」
と馬育は言った。
「ではそうしろ」
と私は答えた。
「おおせのままに。他にはどうしたら良いのでしょうか?」
と馬育は言った。
「そうだな。暴走行為は事故の危険性がある。自分達が事故をするのは仕方がないかもしれないが、他人をまきこんだり、物を壊したりするのは、いかん」
と私は答えた。
「はい。しかし暴走行為を無くせば、暴走族ではありません。それはまるで吸血鬼が、吸血行為を行わないようなもの。そうなれば、どうなるのでしょうか?私たちは走族と名乗れというのですか?吸血鬼はただの鬼ですか?」
と馬育は拳を握りしめている。
それもそうだ。
私は彼らからアイデンティティを奪おうとしていたのかもしれない。
他人の権利か、自分の欲望か。
しかし、この世界にはルールがある。
ルールを破るものは、神でさえ立場を奪われる。
「お前のいう事もわかる。では私有地で走るのはどうだろう。これならいくら暴走行為をしても、とがめられない」
と私は答えた。
「しかし、そんな広い土地はありません」
と馬育は答えた。
「皆に尋ねるが、土地はあまり持っておらぬのか?」
と私は尋ねた。
「裕福な吸血鬼は多いですが、
血液代が結構かさむし、固定資産税の関係があるので、広い土地を持つ吸血鬼は少ないですね。
土地もド田舎に行けば安いですが、ここらへんだと高いですよ」
と天使は言った。
「そうか。ではド田舎とやらに移住しよう」
と私は答えた。
「えっ。は、はい。ド田舎と言ってもいろいろありますが、どんな所がいいですか?」
と馬育は尋ねた。
「そうだな。自然が豊かで、土地が安く、人が少ないところがいいな」
と私は答えた。
「だったら、過疎化している地域とか、廃村になりかけの所に移住したらいいんじゃない?」
と喜羅羅は言った。
「しかし、それでも土地はある程度値段はするんじゃないか?」
と馬育は言った。
「まぁ過疎化してる田舎なら人がほとんど住んでないし、土地も権利者はいるけど、その地域に住んでなくて、ただ放置されているところが多いから、問題はないんじゃないか?」
と羅刹は答えた。
「しかし人が住んでいるなら、迷惑になるのではないか?」
と私は尋ねた。
「どうでしょうか?その地域にもよるのではないでしょうか」
と天使は答えた。
私は思った。
クリアすべき問題は多いかもしれないが、
我が一族や眷属達ばかりが住む土地。
こういうところがあれば、
様々な問題は解決するのではないだろうかと……。




