40、目覚めの時 一章完結
私が目を覚ますと、お父様が横に座っていた。ここは天国なのね。……その後ろに伯爵がいた。……やっぱり地獄だわ。
「ピニオン大丈夫か?」
お父様が涙ぐんで、私に声をかけた。これは現実だ。
「お父様、目が覚めたのね……」
「すまない。……私は、すでに目が覚めていたんだ」
え……? もう、お父様に何を言われても驚かない。……だって、こういう人なんだもの……。
「お前を試すようなことをしてしまった。それが、こんなことになるなんて……。全部私の責任だ。許してくれ」
お父様が泣いて謝った。お父様が謝るなんて、初めてのことだ。私はもう、お父様を怒っていなかった。
「私は、お父様が無事ならそれでいいです。良かったです、目が覚めて」
私も泣いた。しばらくして落ち着くと、お父様は部屋を出て行った。
マイクが本当のことを話してくれた。多分、伯爵もいたからバツが悪くて自分では説明できなかったんだと思う。こういうとき、貴族は便利よね。
お父様は、ちゃんと1週間後には目が覚めていた。でも、私がその状態でどうするのかを見たかったそうだ。相当疑り深かった……。
一部の使用人にも伝えて、お医者の先生にも協力してもらっていた。
私がいないときに起きて、使用人の格好をし、怪しまれないように付き添いをつけて、外を出歩いていたそうだ。——私と一緒だよ。
でも、結局驚いたのは、お父様はエビたちの計画を知っていたことだ。
メイドたちにも普段から見張らせていたそうだ。そのときはマイクが部屋の外で聞いていた。
お父様は死なないという話を信じて、薬を飲むことにした。そうすれば二人を追い出す口実ができるからだ。それと、それが自分に対する罰で、二人も気が済むだろうと思ったのだ。
伯爵も話を聞いて呆れた様子だった……。
それから、襲撃の後どうなったのかを聞いた。私が目覚めたのは翌日の午前中だった。
エレは警備署に連れて行かれ、スミレの精は回復して指輪は後日、伯爵が城に返すそうだ。
引きずられた衛兵だけが打撲と擦り傷の怪我をして、後の使用人は無事だった。半分ぐらいは外に逃げることができて、屋敷も焼けなかった。
伯爵の話は、サルティーが私の涙で浄化されて、弱ったところを祓ったそうだ。
「悪魔は真実に弱いからな」
真実の涙か。これで伯爵も、私が悪魔崇拝者じゃないと分かっただろう。良かった。
神学の先生も言っていた。
『強い意志で悪魔を退けることができます。私たちは決して無力ではないのです』
本当にその通りだ……。
伯爵は、実は巡回に行っていなかった。あの場で、巡回に行くと言ったのはエラが来ていたので、わざとそう言ったそうだ。
サルティーの話を聞いた後、屋敷の近くに家を借りて、何かあった時のために待機していた。そして、連絡を頼まれていたミルンが、すぐに伯爵を呼びに行ったのだった。伯爵はミルンを勝手に使っていた……。ミルンありがとう。
私は伯爵を見た。伯爵は、無表情で見返した。聖騎士の仕事だからかもしれないけど、お礼を言っておこう。
「いろいろ、助けてくださって、ありがとうございます」
「ああ。じゃあ、私はこれで失礼する」
伯爵は少しニヤリと笑うと、帰って行った。私は、お菓子のお礼とは違って、ちょっと恥ずかしかった。
マイクは両手を握って頬染め、微笑ましい表情で私に言った。
「私共がお嬢様を運ぼうと思ったのですが、伯爵様は片時もお嬢様をお放しになりませんでしたよ!」
うぐぐっ。私は布団を少し引き上げて顔を赤くした。先にお礼を言っておいて良かった……。これで、ケンカはなしね。
マイクの報告では、エビも今日、ジャンの殺害容疑で捕まった。
警備署の兵がクイーンの使用人たちに、エビのその日の行動を聞いて、メホタスの瓶とアパートの鍵を押収した。アパートに行き、クローゼットの中にあった不自然な男物の服を見つけた。
実は、ジャンは死んでいなかった。メホタスのおかげで呼吸が弱くなっていて、煙を吸い込まずに済んだのだ。発表で死んだことにしたのは、エビがまたジャンを殺しに来るかもしれないと思ったからだ。ジャンはまだ目が覚めていなかった。
私はそれからお父様と二人で話をした。
そしてまた驚いたのは、私が修道院に行っている間、お父様はヘミとレニーと文通していたのだ!
エビが報告書をすり替えることを予測して、正式なものは簡単にしてもらい、周りにいる者に報告書を書いてもらうようにお願いしていた。それで、仲良くなったヘミとレニーが報告書を頼まれたのだ。
お父様は二人に、「ピニオンのことを怒らないので、なんでも書いてほしい」と頼んだ。二人は、それを読んで安心したようで、伯爵のこと以外は何でも書いていた。修道院で貴族男性に会っていると書いたら心配すると思ったからだ。そのため、お父様は、伯爵のことは知らなかった。ありがとう、二人とも。
お父様は、私がハンターになったことをすでに知っていた……。それについては何も言われなかった。良かった……。
伯爵が婚約の承諾をもらいに来たが、あっさりお父様の承認を得た。
「ピニオンには、カイゼルのような男がいいだろう」
私は意外な反応にビクッとして驚いた。伯爵もちょっと驚いていた。お父様は涼しい顔をしていたので、私たちは顔を見合わせた。婚約は継続となった。
一週間後、ジャンが目を覚ました。ジャンはエビが来たことを話したので、エビの犯行と断定された。
第二王子は、罪人を城に入れたことで謹慎処分になった。
後日、エレとエビの二人は処刑された。
ジャンもエビの証言で、薬の購入目的を知っていたので、ほう助の罪で捕まった。お父様が目を覚ましたので、5年の労働刑になり、ジャンのヒモ生活は終わった。
メアリーは、お父様が最初に目が覚めたときに修道院に送られていた。
これで全部が終わってほっとしたけど、気分は晴れなかった……。
ステラの手紙では、ピグミー第二章として劇場で、王子とエラの悲恋物語が公開されたが、王子を扱ったことと、この国の法律で、物語で悪魔崇拝を広める話と、悪人を美化してはならないという決まりがあるので、劇は公演禁止になった。当たり前だ。
罰として、この劇作家の作品は3年間の公演禁止となった。だが、首都には地下劇場があり、そこで公演しているらしい。客は仮面をつけて鑑賞し、貴族令嬢も行っているとのこと。
政府もそこまではまだ、取り締まりをしていないが、今後の悪魔崇拝の影響を見て決めるだろうということだった。
結局私は、世間の間では悪役令嬢のままだった。まだ、死亡説のほうがマシかも……。
今日も話があると、お父様から伯爵と二人で呼び出された。応接室でお父様を待った。私は疑問を口にした。
「お父様はなぜか、伯爵に信頼を置いているのよね」
(おそらく、婚約の誓いのときには、目を覚ましていたんだな)
伯爵は少し笑っていた。私はそれを見て、腑に落ちない顔をした。お父様が部屋に入ってきた。
「結婚の話だが、私はお前たちをすぐに結婚させるつもりはない」
それを聞いて安心した。私は心の中でぐっと拳を握った。伯爵は無言だった。お父様は私を見た。
「私たちは、言葉が足りなかった。だからこそ間違った。
私はピニーとやり直したいんだ。だからまだ、二人で過ごしたい」
「お父様! 私もよ!」
私はお父様に抱きついた。二人で涙を浮かべた。私はずっと、その言葉が聞きたかった。——私はやっぱり、まだ子供ね。
伯爵は柔らかく微笑んだ。
「分かりました。私は急ぎませんから、どうぞお二人でお過ごしください。
じゃあまたな、ピニオン」
「お元気で!」
へへん。私が嫌味っぽく言うと、伯爵はフッと苦笑いをした。私の頭にポンッと手を置くと、部屋を出て行った。
私はお父様と微笑み合った。
お読みいただき、ありがとうございました。一旦一章で終了します。
また同じ時期に続きを書くと思います。
書けたら全部で100万文字まで書こうかなと思っています。シリーズで最長を予定しています。5章50万文字でシリーズの前編の区切りになります。
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