15. これから
ティナと別れた後、コーディリアのもとをカルロスが訪れた。
「リア、とても良い舞台だったよ」
「おじさん、ありがとう! でもおじさんの原作あってこそだよ」
「はは、それはリアのおかげなんだよ」
「え?」
「まあ、そういうこと」
「どういうこと? ふふ、おじさん変なの」
そう言って笑うコーディリアをカルロスは優しく見つめた。
カルロスが初めて会ったとき、ほんの小さな子どもだったコーディリアは美しく成長した。カルロスの心配をよそに、乙女ゲームのシナリオなんて跳ね除けて自分らしく生きている。
「リア、大きくなったね」
「もう、すぐ子ども扱いするんだから」
カルロスがコーディリアの頭を撫でると、コーディリアは膨れてみせたものの、すぐに抑えきれない笑みがこぼれた。
そして、もうカルロスに触れられても昔のような胸の高鳴りは感じなくなったことに気がついた。
「僕はリアのおじさんなんだから、いいじゃないか」
「うん……そうだね」
コーディリアはカルロスへの恋心が完全に吹っ切れたことを自覚したのだった。
「そうだ、アンナからの花束を預かっているんだ」
カルロスはそう言って、妻が作った綺麗な花束を差し出した。
「とっても素敵、ありがとう!」
「アンナにも伝えておくよ。ところで、アルバートにも渡したいんだけど……」
演劇が終わってからアルバートは姿を消していた。
「どこに行ったんだろう。私、探してくるね」
「うん、わかった」
「また後でね、おじさん!」
* * * * *
コーディリアは、舞台裏の人影のないところにアルバートが座り込んでいるのを見つけた。
「アル、こんなところにいたの」
「うわっ」
アルバートはコーディリアの姿を見ると、びくっと肩を揺らした。
「おじさんも探してたんだよ、一緒に行こう」
そう言ってコーディリアが近づくと、アルバートは後ずさる。
「どうしたの?」
「だ、って、さっき……」
アルバートは顔を赤くした。
「さっき?」
「さ、最後のシーン……キスするふりだけだって言ってただろ。なのに……!」
コーディリアは本当にアルバートに口づけたのだった。
「ごめん……つい」
「つい!?」
「ごめんね、嫌だった?」
「嫌なわけないけど、心の準備が……」
目を泳がせるアルバートを見て、コーディリアは笑った。
「アルってかわいいよね」
「はぁ!?」
「皆アルのことかっこいいって言うけど、かっこいいっていうよりかわいいと思うんだ」
「何だそれ……」
アルバートは少し不満気な顔をした。
「でも、それを知ってるのは私だけでいいの」
コーディリアはアルバートの顔に両手を添える。燃えるように熱い頬の感触にコーディリアは目を細めた。
「たとえ演技でも、アルの隣に私以外の人がくっついてるのが嫌だった」
「ああ……」
「私、アルのそばにいると一番自分らしくいられる気がする。一緒にいて落ち着くんだ……だけど、アルが私に向けてくれる気持ちとは違うんじゃないかっていうことが気がかりだった。でも、気づいたの」
コーディリアはアルバートを優しく見つめる。
「アルが私だけに見せる表情がかわいくて、愛おしい。他の誰にも見せたくないし、アルの隣を一生譲りたくない……つまりね、愛してる」
アルバートは熱に浮かされたようにコーディリアを見つめ返した。
「一生、隣にいてくれ……」
「うん」
「俺も、愛してる」
「うん」
コーディリアはにっこり笑って、アルバートを抱きしめた。おずおずと、アルバートもコーディリアの背に手を回す。相変わらず、アルバートの心臓は早鐘を打っていた。
「アルの心臓ドキドキしてるね」
「し、仕方ないだろ」
「いつになったら慣れるの?」
「……わかんねえよ、ずっと好きなんだから」
アルバートは半ばやけくそ気味に言った。
「ありがとう、私は幸せ者だね……でも、アルのことも絶対幸せにするから」
「今、十分幸せだ……」
「これで十分なの?」
「ああ……夢みたいだ」
コーディリアはアルバートを見上げた。
「夢か確かめてみる?」
「え?」
コーディリアはアルバートの首に手を回し、おでこがくっつきそうな距離にまで顔を近づける。
「お、おい」
「ねえ、さっきの続きしてもいい?」
真っ赤になったアルバートが答える前に、コーディリアはその唇をふさいだのだった。
《終わり》
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